地球革命アイドル学部

ビッグバンプロジェクト(3)

エピソードの総文字数=1,554文字

 放課後すぐ、2年A組の教室にやってきていた。

 誉れ高い3年の生徒会長にけんもほろろに扱われた以上、2年生の可能性に掛けようと思ったのだ。2年生は、一人だけ図抜けた女生徒がいたので、白羽の矢を立てやすかったという事情もある。

 2年A組の教室に着くと、その目的の女子は、女生徒たちに取り巻かれていた。

 剣持胡伯(けんもちこはく)――中性的な名前に聞こえないこともないが、スラリと伸びた髪と切れ長の目は、すっかり大人の印象だ。24歳なのにあどけない可愛らしさを残す一華とは違う。女子高の制服を着ていなければ、16歳にはとても見えない。

 俺が胡伯を取り巻く女生徒たちに近づくと、その3人ほどの女生徒たちが、異様なものを見るような目を俺に向けてきた。さらに進み出ると、女生徒の一人がバッと手を広げ、胡伯を守るように立ちはだかる。

【女生徒A】

お姉さまになんのご用ですか!?

――お、お姉さま……。なんだか怖い……。

 目が据わっていたのだ。これが男子同士なら、問答無用で喧嘩の合図とでも言わんばかりのピリピリした目線。

 何も言わずに引き返そうかと思った矢先、目的の胡伯が声を掛けてくる。

わたくしに御用があるのですか、宗形先生? それとも彼女たちに?
あ、あの……剣持さんに御用がございまして……。
【女生徒B】

いったい何の用なんですか!?

 責めるような口調が辛い。邪魔をしたことを相当にご立腹な様子だ。
宗形先生はわたくしに用があるそうです。貴方たちの用は済んだはず。そろそろ席を外して頂いてもよろしくて?
【女生徒C】

ではお姉さま、次のライブのご予定――

困ると申し上げたはずです。わたくしはスケジュールが一杯で、放課後や休日に、学友とのコミュニケーションに充てる時間がございませんわ。学校の休憩時間にお話するだけで十分なはずです。

【女生徒C】

私は十分ではないんです! いったいどうすればお姉さまの心を動かせるのですか!?

――いや、その問いはおかしい。

 おかしさの正体は、胡伯を取り巻く女生徒たちの一方的な愛にゾワッとするとでも言えばいいだろうか。ストーカー気質とはこういうものなのかもしれない。

 ふと俺は口をすべらせるところだったが、その後の女生徒たちの意地悪行為の数々を想像し、危うく俺は口をつぐんだ。こんなところで教師の職務を忠実に発揮する必要もない。女子高の生徒たちというのは、モテない俺のような下層民にとって、そんなに生半可な存在ではないのだ。ある意味、全員が恐怖の大魔王である。

 さすがの胡伯もため息をつき、自らを取り巻く女生徒たちを眺めまわして言い聞かせる。

何か勘違いされているようですね。なぜ宗形先生がこうしてわたくしをお迎えにきてくださったのか、おわかりになりませんか?

【女生徒A】

お姉さまをお迎えに?

 女生徒たちは首を傾げたが、俺にもわからなかった。
宗形先生はわたくしの婚約者です。
はあっ?
【女生徒A】

そっ、そんな……!

【女生徒B】

こんなどうしようもないオジサンとお姉さまが!?

【女生徒C】

いやああああああああああああああああああああああ!

 女生徒の一人が俺を見て目を見開き、唐突に、奇声を上げて泣き出した。まるでゾンビでも今初めて目撃したかのような表情の変化を、俺はまざまざと目撃させられていた。

 三人目の女生徒のリアクションは、たぶんこれ以上にないほど酷いものだった。心を消しているさしもの俺すら思わずグラリとよろめくほどだ。完璧に張り巡らせているはずだと思っていた俺のATフィールドを軽く突き破ってくる女子高生の素直なパワーというのは、ほとほと恐ろしいものである……。

行きましょう、宗形先生。

 ダメージを喰らってたじろいでいる俺の手を握りしめ、胡伯は女生徒たちを振り払うようにして俺を廊下へといざなった。

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