【7/13】ダンゲロスSS(23)翻訳者VS鈴鹿歌音

翻訳者

エピソードの総文字数=2,737文字

うおおー!翻訳者さんはここで執筆してくれー!他の人は書き込んでは駄目だー!
神まつるところ、神座(かむくら)。
一般的には神社と連想される。
神に仕える人、神職。
一般には神主と呼ばれる。規定では様々に役職があるのだが、それは割愛しよう。

時に、神社に時折存在する舞台のことを神楽殿という。
弓矢とる人を守りの八幡山誓ひは深き石清水かな♪
彼女は今ただ、その流麗な響きを神楽歌の意味に乗せて歌っていた、舞っていた。
それは祈りに似ている。いや、事実それは神と遊び、捧げるその手管でありながら、人が神と共に道を歩むための道草なのだろう。
自らは人帝第十四代の帝、帯中津日子(たらしなかつひこ)の天皇(すめらみこと)とは自らがことなり。
今度異国より数万騎を従え攻め来る中に、塵輪(じんりん)と申して身に翼あり、神通自在に飛び行く大悪鬼、国々村々を駆け巡り、日々に人民を亡ぼすことその数知らず
我が官軍のうち彼に敵するもの一人もなかるべし。このもの飛び来たらば急ぎ高麻呂、自らに奏聞いたすべし。
天神地祇(てんじんちぎ)の威を頭に頂き、天つ御親日の神(あまつみおやひのかみ)の御稜威(みいつ)を背(そびら)に受け、天の鹿兜弓(あめのかごゆみ)、天の羽々矢(あめのはばや)の威徳を以て、退治せばやと思うなり
長々と彼女は口上を述べる。
演目はこの種の神楽としては代表的な「塵輪」といい、故事に由来を取った。
読者諸姉諸兄にとっては理解しがたいところが多くあると思うが、簡潔に言えば日本国に鬼の大軍勢が押し寄せ、それを退治しようと時の天皇が立ち上がったというものだ。
これは、これは、有り難き詔(みことのり)にて候。塵輪そのまま差しおきたまはば、人民の嘆きは申すに及ばず、遂に安穏のほど覚束なく、何とぞ御退治遊ばされたく然らば民安全と存じ候
従者高麻呂がが横に立ち並び、手に弓と矢を取って舞い踊る。
緩やかに、絢爛たる舞衣装をはためかせ実に優雅、武と舞は混然一体となって、そのいずれをも知る者を唸らせる。
……まったく。
不愉快なことだわ……。
かけまくも畏き御簾の内に言上仕り候。先だって仰せつけられ候。塵輪、只今黒雲に乗ってこの辺に飛び来たり候ほどに、急ぎ甲冑弓箭(かっちゅうきゅうぜん)のご用意あって、何とぞ御退治遊ばされたく候
単調な音色、拍子も一定で、実に……退屈。

ああどうしたことだろうか、若い女性がつまらなそうな顔で空を見上げていた。
雨の気配でも期待するように、ああなるほど中止にでもなればさぞ君の顔も晴れるでしょう。
観客は多く、けれど聴衆はいない神楽。
夏の日は落ちるとも、暑く重い装束は魔人であるこの身には余るもの。
けれど、弾くものもなく自然とかき鳴らされる四重奏はお気に召さない様子、なるほど、私もだ。
この里神楽の筋立てを説明するのは実に容易いことである。
善玉の「神」役と悪玉の「鬼」役がぶつかり合って、はい「神」が勝ちました。
感涙でも無血とはいかない、勧善懲悪。
それに立ち向ふたるはいかなる神にてましますぞ
鬼が帝に問いかける。
貴様は何者だと。

応えて、カリンカは、始まりの音を意味する根音(ネオン)は神を降ろすかの勢いで見栄を切る!
我はこれ、人皇第十四代の帝、帯中津日子の天皇の神なり。汝いかなるものやらん。
やぁやぁやぁ、常ならば塵輪を演じる者が神楽殿の奥より進み出て決戦となるのであろう。
しかして、今や!
Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?

Es ist der Vater mit seinem Kind;

Er hat den Knaben wohl in dem Arm,

Er faßt ihn sicher, er hält ihn warm.
歌原織音は知れずシューベルトの魔王を口ずさんでいた。
なるほど、草原の中からおさなごを誘う魔王も、海原を越えて日ノ本に襲い来る魔王も相通ずるものがあろう。

織音は輝かしい笑顔と共に神楽舞の一員となり、その手にしたタクト(槍)を手に根音を貫かんとす!
おお我はこれ、今度日本征伐の大将軍、塵輪とは我が事なり。汝(いまし)一命を惜しむものならば、早々我にこの国を譲り、この所を立ち去るべし
咄嗟に、魔人能力を用いて装着される衣装。ついで、脇から野太い鬼の声が繊細で恐ろし気な歌声を覆い隠す。
神楽舞は続行だ。

音楽の魔王と呼ばれた新進気鋭の彼女もストレスがたまっていたのだろうなと思い、袖でそっと涙を拭くオーケストラ団員の皆さま。
そもそも指揮者とはオーケストラの団員のサンドバッグである。ストレスのはけ口になるのが仕事なのである(暴論)。

あら愚かやな。汝魔法を以って霞みに隠れ雲に乗り、神通自在に飛び行くとも、朕(われ)また天神地祇の威を頭に頂き、天つ御親日の神の御稜威を背に受け、天の鹿皃弓、天の羽々矢の威徳を以って、汝が一命射ちとどめんこと只今なり
"Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?"

"Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?

Den Erlenkönig mit Kron und Schweif?"

"Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif."
(あらをかしやら、おもしろやな。いざや立合い勝負を決せん。)
無理やりな二重音声と共に、押し寄せる蜘蛛の糸。
それを弓矢を持って寄せ払いつつ、主従は天空を駆ける鬼を狙う。

説明を忘れたが、塵倫は鬼が空を飛ぶ演目である、普通に。
てんてんどうどうと打ちみたまえば――。

神のみ守る社にて東の神と西の魔王が相打つ決戦が巻き起こる。
くるくると舞い、聴衆のすべてを死の淵に落とさんとする魔王の歌声。
彼が何者なのかはゲーテに聞いてほしいが、おそらくは死の神なのだろう。

つまり、歌と舞は互角!
けれど、私が手にした弓矢なら
かつて天孫降臨に先立つところ、裏切り者の天津神を己が矢で射殺したというそれそのもの。その謂れを持って放たれようとする矢は――
月を越え――
キャー!
あれは幻だろうか?
それは怪鳥の声であり、また。
キャー!
歌音の声でもあった――。
鵺の音、という現象がある。
音とともに遊び、尽したものであれば出会ってしまうという魔物の音。

歌音はそれに取りつかれていたのか。
演目は違えど、頼政に似た神の矢は確かに月を越えて魔を打ち倒した。

救急車を――!
鵺退治を成し得た若人よ、この地を護る祭神として告げよう。

ほととぎす名をも雲井に上ぐるかな?
執筆時間、終了
弓張り月のいるにまかせて!

返歌はただ寂しげに響き、場の混乱を収めようと駆けだす彼女は神を思うことだけを出来なかった。

【終】

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