勇者の武器屋

第三八話 成功しすぎて経営危機?

エピソードの総文字数=3,481文字

ゴメンなさい、回収ダメでした……。奥さまが出てきて、それで……。
あんたねぇ……。
いっつもそれ? 軽く諦めちゃ商売にならないでしょ。
そういう僧侶だって昨日、回収に失敗してるじゃないか。お互い様だろ。
う……。
昨日は昨日、今日は今日よ……。だって散々脅しつけたら王国警邏局に泣きつかれちゃって……。
警邏局と一悶着あったんだよな。
まぁ結局、民間で結ばれた契約の問題で警邏局は介入できないんだけど、僧侶が庭に大穴を空けたらしくてな。建物を壊したりしたわけじゃないから、大事には至らず済んだんだが。
ほんのお茶目よ、お茶目。ちょっと巨大隕石を落としてみせただけで震え上がっちゃって、大の大人がわんわん泣き出したのよ。私は1万分の1の力すら発揮していないのにね。
回収、やってみると難しいもんだな。
分割払いだと未回収先は絶対出てくると思ってたけど、あれだけ喜んで購入してくれた客たちが、まさかこれだけ渋くなるとまでは想定外だったよ。
マズいぞ、不良債権が3割に達してる。これだけの未回収が続くと、魔法剣スリーパーは売れば売るほど赤字になってしまう。
応急処置ですが、分割払いでの新規販売は一時中止しませんか?
かなりのヒット商品になってるのは間違いないんだけどね。この流れを止めるのは勿体ない気もするんだけど……。
売上だけじゃない。魔法剣スリーパーの成功は、『ドリームアームズ』の宣伝にも間違いなく繋がっていたんだよな。俺たちの店の格を上げてくれていたことは確かだ。
……そうは言っても無い袖は振れない。経営の安定のためにも、新規販売は中止せざるを得ない、か……。
ただな、ちょっと色々と難しい問題も発生しちまうぞ。魔法剣スリーパーの安定供給のために、戈星工房とは長期契約して専門の職人を確保してる。加えて魔法協会とも似たような長期契約を結んでいるんだ。ということは、販売が滞ると、アタシらが商品を丸抱えすることになっちまう。結局、損は溜まるだけということだぜ?
魔法剣を売却したわけじゃないから、資産としては私たちの手元に残ってるじゃないの。お金を回収できないよりマシだわ。
いくら高価な品物だって、倉庫に山積みになっていくのを指をくわえてみているわけにはいかないだろ? 保管しとくだけだって見えない経費は諸々掛かってくるものさ。
販売を止めるわけにもいかず、かといって販売を続けて未回収を放置するわけにもいかず……前門の虎、後門の狼といった心境だな……。
待ってください。私は『一時中止』と言ったんです。あくまで一時の応急処置ですよ。せっかくのヒット商品なんですから、それを売らないなんて、お店を続けるのを諦めるようなものです。頑張って一番いい道を模索しましょう。
簡単に言うがな。そんな方向があったら誰も苦労はしてないよ。
模索したって無理なときは無理よ。そういう勇者には、何かアイデアがあるっていうの?
私に案があります。
こんなときこそ、魔王さんを見倣うべきじゃないかって思うんです。私を追い込んだ魔王さんの手法は鮮やかでした。
たしかにな。俺らは正当な商売で分割払い購入者の債権をしっかり押さえているというのに、ごく当たり前な業務のはずの回収がスムーズにできないままだ。一方で、本当は勇者は借金なんかしてなかったのに、魔王は勇者をガチガチにハメて追い込んできたわけだ。
この手際の違いはなんだ? 俺らとは経験値が違うとしかいえない。
やっぱり銀行経営者だけあるのよ。膨大なノウハウを溜め込んできているんでしょうね。
だが魔王を見倣えばいいって話じゃないだろう。真似しただけでアタシたちもノウハウが急に溜まるわけもないんだし。コツコツ積み上げてきたノウハウの集積が、あれだけの大銀行を創り上げたんだろうよ。
だから私の案ですが、魔境銀行さんとの提携ができないかなって。
提携……?
これから『ドリームアームズ』が市場に投入していく月賦払いの新製品に関しては、その月賦払いの部分をすべて魔境銀行に任せたらどうかなって思うんです。
そんな協力引き出せるの?
だから提携……魔王さんと共同事業をしようって提案なんです。月賦払いの流れに魔境銀行が入ることで、私たちは代金回収のことを考えなくてよくなりますし、魔王さんはそのなかで利益を出してもらえると思うんですね。これが魔境銀行さんにとってビジネスになるのなら、魔王さんはきっと賛同してくれるんじゃないかなって。
魔王が利益を出すというビジネスモデルを、もう少し詳しく説明してもらえないか?
漠然と私が思うのは、たとえば魔法剣スリーパーを月賦払いで購入したいというお客さまがいれば、まず魔境銀行さんから9万8000Gの借金をしてもらう契約を結んでもらうんですね。そして私たちは、販売代金を魔境銀行さんから受け取ります。そして魔境銀行さんが毎月の回収を担当していくという形はありえるんじゃないでしょうか。
魔境銀行はどこで儲けを出すっていうんだ?
いくつか考えられると思うのですが、一案としては、ドリームアームズが5000Gくらいを魔境銀行さんにお支払いすることですね。二案目としては、月賦払いを選択したお客さまへの商品販売代金を値上げしてしまうということもあると思います。月賦払いを選択すれば10%値上げして、その10%分を魔境銀行さんの利益にしてもらうとか。
客は10%も商品代金が値上がったら嫌がらないかしら?
そりゃ嫌だろうが、その代わりに月賦払いというメリットがあるんだろ。
今のアタシたちのやり方だと、普通に全額払って購入するのも、月賦払いを選択するのも、商品価格は変わらない。それじゃ大抵の人は月賦払いでいいやってなるかもな。でも商品価格が10%違うってんなら話は別で、一括で払いたがる客が増えてくれるかもしれない。
逆に考えればいいんじゃないか。月賦払いは10%商品代金が上がるんじゃない。その場で一括で支払ってくれる客の商品代金が10%下がるんだ。そっちの客は管理コストも掛からないから、10%下げても割には合う。
魔法剣スリーパーの通常販売価格を、10万5000Gにしちゃえばいいのよ。そして一括払いの客は特別に9万5000Gで買えるとしましょう。
いいアイデアですね!
この話し合いのアイデアを採り入れて、一括払いのお客さまは安く購入できるようにできたらいいです。
いや、そもそも俺らが出したアイデアなんて、勇者がもっと大きなレベルでのアイデアを出してくれたことが始まりだぞ。本当に魔境銀行が提携してくれるなら、名案になるかもしれん。
魔境銀行さんにとっても、すごくメリットがある提携になってくれるんじゃないかなって気がするんです。なぜなら、一取引ごとに数千Gの利益が出るというだけの話じゃないと思うんですね。魔境銀行さんのお客さまを、私たちが代行して増やしてあげることになるはずなんですよ。
なるほど! 魔境銀行が客を増やすための営業を、アタシらが引き受けているようなものだ。『ドリームアームズ』が魔境銀行の代理店みたいな位置付けになっちまうのかね?
ですです。
ちゃんと利益を示して提携を持ちかければ、魔王さんに断る理由なんてなくなります。
魔境銀行の代理店なんて釈然としないけど、でも面倒な部分を丸投げしてしまえるんだったら、私たちのメリットも大きそうじゃないの。
そういうことだな。
回収リスクを魔境銀行が背負ってくれるなら、俺たちとしては余計なことに頭を悩まされることなく、いっそう販売に力を入れていけるというものだ。時間にも余裕ができて、その分を新規事業なんかに回していける。
双方の強みを活かした良いことずくめの提携なんじゃないか?
つーか、勇者はバカだって自分で言うけど、意外と本質的な部分では頭がいいのかもしれんね。
そんなことないと思います。どうすれば魔王さんに勝てるのかなって悩みすぎてるせいで、なんとなく連想したんです。
普段から魔王のことばっかりで頭が占められているから、魔境銀行との提携なんてアイデアが浮かんだのね。
やっぱり……これは恋よ。
恋、なのかもな。
初恋の相手が魔王……それがもし本当だってんなら、摩訶不思議な状況だが……。
あ、あんまりイジメないでください……。
そんな風に言われると、提携交渉で魔王さんに会ったときに、もっと震えてしまいます……。
あらら。真っ赤になっちゃってるよ。勇者は可愛いもんだよなぁ。
いじりたくなっちゃうわよね。なんで勇者はこんなに純情なのかしら……。ああ、なんか悔しくなってきた……。呪ってやる……。
お前さんは純情のカケラもないからな……。

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