もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら

『エイティーン・ラブ』

エピソードの総文字数=2,491文字

ウホン、ところどころでナレーターを引き受けていた四天王その壱である。


好評により今回よりシルエットではなく姿を見せてよいということになった。


堂々のお披露目である!

じゃーん!


ど、どうであろうか?


諸君の目に、吾輩の完璧な姿が美しく映っているだろうか?

ウホン、ま、まあ、それはどうでもよい。


こうして姿を現した以上、某「神」のように簡単には殺されないよう役目を果たす所存だ。以後、お見知りおきを。


さて、菅原ひとみ調査員によるツァラさんラブ測定(河出文庫、佐々木中訳参考記録)ではわずか3ページ、18段落で(一段落で一回づつ)18回も人間を愛すると言い放ったツァラトゥストラ。
小早川栞理 (いわ)く「くどいことこの上ない」な、その愛する理由を、(詳細はさすがに面倒なので)代表的なものをつまみながら駆け足で俯瞰してみよう。
 わたしは愛する。没落する者としてしか生きることができない者たちを。それは、彼方へ向かおうとする者たちだからだ。
まずはこの愛し方である。最初だけに重要なキーワードが見受けられるが……、はたして少女たちはここから何を読み取るのだろうか……?
「没落というとなんといいますか、栄えていたものがおちぶれるってイメージですけど……」
破滅とか壊滅とか、そんなかんじですよね」
「没落もすごい表現だと思うが、ひとみ君のイメージもなかなかに物騒だな」
「これってあれですよね、最初に太陽さんに向かって叫んでいた没落と同じ意味っていうか」
「そうですわよね、太陽が沈むのと同じで、破滅と言うよりはここにあるとおり、彼方へ、次の時代へ向かう人々ということではないかしら?」
「うむ、良いことを言うな。僕もそう思う。成長にともなう痛みのようなものをイメージしていたのかもしれないな。次の世代に進化を促すための(いしずえ)のような……」
「『俺屍(オレシカ)』!」
「なんだいそれは?」
「『俺の屍を超えてゆけ!』 ですよぅ。ゲームのタイトルです」
「それはまた………ぴったりだが………」
(それにしてもなぜこの子はそんなものを知っているんだ?)
 わたしは愛する。大いなる軽蔑者を。彼らは、大いなる尊敬者であって、かなたの岸への憧れの矢だからだ。
「ツァラちゃん、また逆の言い方をされてます?」
「あー、わかる! わかります! 男の子ってそういうのがかっこいいって思う年頃ってありますよね。ウチの弟がいまちょうどそんなかんじです!」
「あら、弟さんいらっしゃったの? 今おいくつ?」
「いま14歳です。中学二年生ですねー。ちょー生意気! あんどむっつりで嫌なかんじなんですよー!」
「まさにリアルで中二病な時期ではあるなあ」
知の巨人ニーチェも100年経つと女子高生から中二病扱いであるな。
このあたり、ニヒリズムからの解釈もあるのだが、しばらくは彼女たちの見識で読み進めていくとしよう。
 わたしは愛する。没落を余儀なくされ犠牲となっても、まずその根拠を星空の彼方にもとめるなどということをしない者たちを。彼らは、いつか大地が超人のものになるようにと、みずからを大地に捧げる者たちである。
「でた! 『俺屍(オレシカ)』!」
「なんだか本当にそんなイメージだな」
「この星空の彼方にもとめるというのは何かしら?」
「これはおそらく、以前出てきたキリスト教的な天国のことだろうな。ひとみ君の言うところの俺屍(オレシカ)状態になり犠牲になる、つまりは死ぬことになっても、その理由を天国に求めようとしない者、ということか」
「えー、でも死んじゃったらみんな天国いくんですよ?」
「キリスト教徒で、そして貧乏人は、な。そうでないものやお金持ちが天国に行くのはラクダが針の穴を通るより難しいわけなのだから」
「うーん……」
 わたしは愛する。認識するために生きる者、いつの日にか超人があらわれる、そのために認識しようとする者を。こうして彼は欲する、みずからの没落を。
「ツァラさん、ほんっと没落好きですねえ」
「それも、みずから欲する人が好きみたいですわね。自分からのぞんで没落する、退廃的な貴族というかんじがいたしますわ」
「滅びの美学、というやつか。あらゆる贅沢をしつくして、最後の楽しみが没落……破滅願望だな」
「そんなのが超人なわけないですよねえ」
 わたしは愛する。働き、案出し、超人のために家を建て、超人のために大地と動物と植物とを準備しようとする者を。こうして彼らはみずからの没落を欲するのだから。
「あ、でも働き者が好きみたい。あんまり貴族じゃないですね。働くと没落を欲するのですか? 謎だわ〜……」
「やはり、成長や時の流れの先にくるもの、というイメージで受け取るのがよいのかもしれないな。没落、という言葉の響きにとらわれないほうが良いようだ」
「……。あ、でも……。

 わたし、わかってきちゃったかもですよ」

「ほほう、どういうことだ? (前にもこういうやり取りあったな)」
没落って、つまり、デビューです!」
「へ?」
「だって、時が流れて、超人って言うちょーかわいいアイドルになるわけですよ。そのために没落するって、つまり、デビューじゃないですか。アイドルとしてデビューしたら、一般人の生活からは決別して、プロの道を歩まなくちゃいけないんですよ!」
「う、うーん?」
「今のを言い換えてみると、

『わたしは愛する、働き、企画案を出し、アイドルのために家を建てたり、いろいろ舞台を準備したりする者を。こうして彼らはみずからのデビューを欲するのだから!』

これって自己プロデュースですよ!!」

「そ、そうなのか……」
「続きもいっちゃいますよ!
『わたしは愛する、みずからの(カリスマ)を愛する者を。(カリスマ)没落(デビュー)への意思であり、憧れの矢であるから。』」
「ほんとうですわ、ちゃんとそう読み取れますわね」
「な、なるほど……そうだったのか」
いちどそう読めてしまうと、なんだか本当にそう読めてきてしまうから不思議である。
ひとみの超解釈にがぜん増してくる信憑性に、多少のめまいを感じつつも、面白いからこのまま進めてみようと思う栞理なのであった。


<つづく>

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