もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら

幕間劇:『ひとみの超訳:ツァラトゥストラ③』

エピソードの総文字数=4,127文字

『ひとみの超訳:ツァラトゥストラ③』


そうこうするうちに日が暮れて、夜がやってきます。
ツァラたんはけっきょく情にほだされ(優しさもツァラたんの目指すアイドルの必須科目です)、ほとんどゴミ同然のCDも預かることにしました。
ロープちゃん本人はもう見たくもないから捨ててほしいと言っていましたが、てきとうに中古屋にでも売ればアイカツ費の足しにぐらいはなるかもしれません。

売れないCDの山を背負って夜道を歩き始めると、どこからともなく声が聞こえます。
すわスカウトか!? と喜ぶツァラたんでしたが、何の事はないあの綱渡り芸人のピエロの方でした。

「お前、ツァラたんっていうんだってな。あんな落ちぶれ娘のロープと組むつもりか? 今すぐこの街をでていくといいぜ。あんな死に体に付き合ってたらこの街じゃ生きていけないからな!」

嫌な奴です。なんでまたわざわざ声をかけてきたのでしょうか。

「明日には出ていけよ、それとも俺からお前も蹴落とされたいのか? はははは!」

あんな低俗なDV漫才に付き合いたくもないツァラたんは無視して歩み続けます。

「そのCD、俺にも版権あるんだからな! 下手なところに売りとばすんじゃねえぜ!」

背中の荷物にまで因縁をつけてきます。ツァラたんとしては知ったことではありません。
もちろんCDをコピーして再販するような面倒なことをしたいわけでもありません。ツァラたんはアーティストであってパブリッシャーではないのです。
どうせ売れもしないものに権利ばっかり主張する素人芸人の自意識の高さを目の当たりにして、なんともやりきれなくなってしまいました。

ちなみに、その街の外れには、あらゆるメディアを格安で買い取り、店に並べて売りさばくブ〇クオフという版権物の墓場がありました。
最初はそこに売るのもいいかと思っていたツァラたんだったのですが、先のピエロが触れ回ったのでしょうか、店の前に通りかかると、中から飛び出してきた下品な店員にからかわれてしまいます。

「お高く止まったツァラたんが来たぞ! アイドル志望のくせに中古のCDを売る娘がきたぞ!」
「俺たちの同類、せどり屋まで落ちぶれたアイドルがきたぞ!」
「いやいや、俺達のほうがまだましさ、俺たちは誰かが作った価値ある商品を仕入れて売ってるだけだからな!」
「自分の価値をわかっているからな! 自分の価値を勘違いして商品になると思ってるやつらとは大違いだからな!」

ひどい言われようです。ちょっとは店の品揃えに貢献してあげようかとも思っていたのですが、彼らの商売の下手さにも辟易し、結局また何も言わずにその場を去るツァラたんです。

あてどなくとぼとぼと歩く夜の道。気がつけばお腹も減ってきました。

そういえば朝方、山のスクールを飛び出してから何も食べていません。

「こまったな、どうしよう?」

ツァラたんのお腹は何かに集中しているときはぜんぜん減らないのですが、集中が途切れると突然ぐーぐーと鳴き出す困ったちゃんです。
夜のカロリー摂取はダイエットの大敵です。でも、ダイエットの前にまずは健康。健康こそはアイドルの基本。何はともあれエネルギーを摂取しないわけにはいきません。

♪ごはん ごはん 食べなきゃだめよ〜
 お腹減ったよ ごはん ごはん♪

また謎歌を、今度は力なく歌いながら歩きつづけるツァラたん。
しかし、今もっているのは売れない他人のCDのみです。
これが食べられれば良いのですが、あいにくCDなどではお腹の足しにはなりません。

すると、今度は森のそばに門灯の付いているお店を見つけました。『美食家の家』と書かれています。もう閉店時間は過ぎていそうですが、こんな時間に食事をだしてくれるでしょうか?
そもそもお金なんてもっていないツァラたんですが、ひとまず扉をたたいてみます。

ほどなく扉が開き、おじいさんが現れました。

「だれだね、わしの眠りを妨げるのは・・・?」

「お腹をすかせた美少女と売れないCDです」

初対面で立場の差をわからせるのが大切。とくに犬と男性の場合は。

ツァラたんは、スカートの端をつまんで可愛らしくお辞儀をした上で、自分と背中の荷物を交互に見つめる老人を指さし、

「さあ、なにか食べるものをよこしなさい。飢えたアイドルのお腹を満たすことは国民の義務なのです」と、いきなり容赦なく居丈高にふるまいます。


すると……。


「……。ここは、腹をすかせた者には向かない土地でな」と、おじいさんはゆっくりと答えました。


(これは、失敗しちゃったかな?)


ツァラたんはてっきり拒絶されたかと思いました。ですが、


「だからこそ、わしはここに住んでおるのだ。空腹こそが最高の調味料だよ」

と急に態度が変わる老人です。やはりファーストインパクト作戦は有効だったようです。

おじいさんは、ツァラたんにパンとジュースを与えてくれたうえに


「あんたの相棒にも食わせてやるがいい。あんたより冷たい顔をしておる」

なんて言って背中の荷物を指さします。

「これはタダの売れないCD。ご飯は食べないわ。食べられもしないけど」

「知ったことか。わしの元居た所では……。いや、それはどうでもいい。どこかにはCDを食べる世界があるかもしれんぞ。兎に角、この家に来たものは、無生物であれど差し出されたものは食わねばならん。さあ、食うがいい。達者でな!」

そう勝手にまくし立てられて扉は閉ざされてしまいました。

毒を喰えば皿までという言葉はありますが、皿《CD》に食わすご飯などあるわけがありません。老人の素性も気にはなるものの、意味不明な発言は無視してまずは自分のカロリーを摂取。食べながらとぼとぼと歩きつづけるツァラたんです。

そして、そういえば……。と考えます。

「山を下りた時に出会ったおじいさんには人に愛を与えるために降りてきたって言ったのに、今はこうして食べ物をもらっちゃったわね……」

「これって愛?」

そう呟いて食べかけのパンを月にかざしてみます。

それとも、いわゆる肉のメタファーでしょうか?
(肉をわたせなくてパンを出したってこと?)

最初のおじいさんはCDなんてキライで、今度のおじいさんはCDが好きそう。なんて奇妙な対比も感じられてきます。
とはいえ、難しいことを考えることはアイドルの本分ではありません。
そんなことは頭でっかちの未来のアイドル解説者にでもまかせることにして、今は自分の道を進むことかけるツァラたんです。

♪ゴーイングマイウェイ ふりかえらずに~♪

とそのまま歩き続け、とうとう真夜中になってしまいました。
いい加減歩きつかれたころに道は途切れ、とても大きな魔法の木の根元にたどりつきました。上のほうに何か書かれていますが、暗くてツァラたんにはよく読めません。
ただ、ちょうど目の前に、まるで不適切な本を投函する口のようで、ツ〇ヤのCD返却口のような木のウロがあります。その脇には
「委託受付中。すべておまかせください。我々は作者の権利をお守りします」
と小さな字で書かれていました。
いい加減眠くなっていたツァラたんはこれ幸いと、CDをその穴に投げ込んでしまいました。
「守ってくれるってんだから、守ってもらえばいいでしょう。売れないし食べられないCDなんてもう持っててもしかたないわ」
というわけです。
そのまま、ムニャムニャと大木のそばで眠りにつくツァラたん。


「ここならきっと、版権ゴロ狼にも盗られないでしょ・・・むにゃむにゃ」


名実ともに夢見る乙女のツァラたんです。たまに寝言を呟く彼女はしかし、この時、重大な事実に気が付いていませんでした。

大木の上に、「JASR●C~守ろう著作権」と書かれた看板が出ていることを……。

つづく……

(JASR●Cまで登場とは……。ひとみ……恐ろしい子……)
アーティストや作家にはホラーに読め、そうでないものにはギャグに読める。あらためてひとみの才能にあきれ…いや驚く栞理であった。
(原作から少々、乖離(かいり)してしまっているが、それはそれで面白い。そしてさらに版権問題とは。このままほおっておいたら社会問題にも切り込みそうな勢いだな………)
感想をもとめてきらきらした目で見てくるひとみに、どう返したら良いものかとしばしとまどう栞理である。
ちょうど向かいに座ったれいかも読み終わったようだ、あっさりと初見の感想を述べてくる。
「すごいわねー、面白いですけど、これって、危なくありません? 実はホラーでしたの?」
「やっぱり夜のお話だとちょっと怖いかんじになっちゃいましたかねえー」
「いや、そうではなく、なんだか社会派の雰囲気になっていないか?」
「社会科ですかあ?」
「ちがーう」
(この娘は本当に謎だな。この天然なボケも才能なのだろうか?)
「それにしても、ほんとお話、お上手ですわ。続きが気になります」
「あ、でも、あとは寝て起きるぐらいしか今のところお話ないんですよね。この先の原作も読まないと……」
「ちょっと待て、先の見えない状態で超訳をはじめていたというのか。

 物語がどうすすむかわからないじゃないか」

「大丈夫、書いてたらなんとかなりますよ!」
「そ、そういうものなのか?」
「では、私達のほうのお話も続きをすすめないといけませんわね。そろそろ幕間の時間も終わって、第二幕の準備ができているころですわ」
「続き、気になりますよね! わたしたち、どうなっちゃうんでしょう?」
「さて、どうだろうな。著者も何も考えていないなんてことが無いように祈っておくとしよう」
読者諸君はもう忘れているかもしれないが、メインストーリーは現在、何者かに秘密の読書会を覗かれていたかもしれないという危機感を煽る状況で幕引きとなっている。

この幕間、インターミッションを挟み、第二部ではガラッと雰囲気を変えて行く、かな? かも? もしかしたら……。たぶん……。などと、いまいち要領を得ないことを著者はモゴモゴと語っていた。とだけ、今のところはお伝えしておくとしよう。

著者いわく、この後、別作品をしばらく書いたりする予定とのことだが、本作にもなにやら別アクションが用意されているそうである。ひとまずそれらに期待しつつ、また、第二部でお会いすることにしよう。


アディオス!

第一部・完

第二部につづく。

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