放蕩鬼ヂンガイオー

04「くまりんかわいいヤッター!」

エピソードの総文字数=2,585文字

 くまりは声のトーンを落とした。

「未来のAQが運用している兵器、放蕩鬼が、どこかの時代に漂流した。発見したAQには帰還への協力を願いたいと」

 かなり要約して説明してくれているが、経緯を聞く限り、あまりきちんとしたメッセージが届いたわけではなかったらしい。

 そもそも未来からの連絡ということ自体、真偽のはっきりしないうさんくさい情報な上、肝心のヂンガイの消息がなかなか掴めなかったのだという。AQ内でもかなりのすったもんだがあったあげく、今になってやっと姿を現すことになったらしい。

 肝心のヂンガイは聞いているのか聞いていないのか、こちらの話には参加せず仏頂面のままお菓子を持ってきたりイクラのパックを持ってきたり好き放題していた。

「日本AQに与えられた指示はシンプルです。放蕩鬼と呼ばれる兵器の保護と情報の拡散調整」

 もちろん、放蕩鬼が元の世界に帰る力を取り戻せるまでの短い期間ですが、と付け加える。

「……AQは、LAEの発見者である大茂木博士が設立しました。まだまだ未知の部分が多いLAEを平和利用していくため、その技術に関する情報の拡散を操作調整する組織です。最近はソーシャルネットワークの拡大で民間人も容易に情報を広げられますからね」

 くまりは深呼吸をし、ヂンガイをまっすぐに見つめて姿勢を正した。
 お願いはこれだけです、と前置きをして話し始める。

「ヂゲン獣を発見した際には、我々が情報のコントロールをします。好き勝手に暴れないでAQの指示を仰ぐようにしてください。あなたは未来の存在なんですから」
「むーりー」

 ヂンガイ、やっと喋ったと思ったら最低の対応だった。
 しかし、残念ながら無理というのも一理あるのである。

「いや悪い。話はわかるんだけどさ、こいつの能力ってちょっと変なんだよ」
「人間の持つLAEを集めているんですよね?」

 知っていたらしい。

 放蕩鬼の情報を抑制したいとAQは言う。だが、ヂンガイの能力は多くの人に燃えてもらって初めて効果を発揮するものだ。お互い間違ってはいないのだが、利害が相反してしまっている。

「そこは安心してください」

 くまりがおもむろに左手を上げる。

 周りで買い物をしていた客たち……主婦、一人暮らしっぽい学生、おばあさん、更に店員一名が機敏に動き出し、くまりに向けて敬礼をした。

 くまりは静かに笑う。

「覆面AQです。LAEは集めたいけれど、民間人も巻き込めない……それなら、専門家を利用してください」
「マジかよ……」

 全く気付いていなかった。
 どこにでもいる一般人にしか見えない覆面AQたちは、敬礼をしたまま微動だにしない。気味が悪いくらい統制が取れている。
 
 こんなことってあるのか。映画の中にでも入り込んだ気分である。

「彼ら多数の覆面AQが、二十四時間体勢で燦太郎くんの周囲を巡回警備します。有事の際には速やかに民間人を避難誘導、自身らはメディア機器設営を行い情報発信しつつ安全圏内で応援、外部からの燃えが集まるまで自らLAEを供給します」

 さすが組織である。組織的な対応だ。確かにすごい。すごいのだが。

「あのさ。覆面のひとたち、信用できるのか? その、LAEを集めるって意味で」

 やっぱり、本当の野次馬とは性質が違う気がする。

 興味本位で集まったひとたちと、仕事で警備している役人さんとでは、燃える総量というか、LAEの集まりに差が出るような気がした。

 しかし、くまりは全く笑顔を崩さない。むしろガッツポーズをしてみせた。

「気持ちの高揚からLAEを抽出するわけですよね。大丈夫、そういうのが好きな隊員を集めました」
「なんかやだな。いいんだけど」

 天甚からも反論はない。

 もともと、下手にヂンガイの情報が広まることには困っていたわけだし、プロが何とかしてくれるのなら渡りに舟である。
 怪しい覆面AQが周囲をうろつくことには抵抗がないこともないが、そもそもヂゲン獣という危険が発生している緊急事態なのだ。専門の警備員さんを雇うと思えば、むしろお得というか安心である。

「そ、そして、ですね」

 急に口ごもるくまり、なんだか妙にそわそわしている様子である。頬が赤い。エアコンの効きが悪いのだろうか。

「燦太郎くんたちも、知らない人が入れ替わり立ち代りで接触してくるのは気疲れするでしょう? ですので、直接のやりとり窓口は年の近いくまりが担当します。今後もよく顔をあわせると思いますので、その、ふ、ふつつかものですが、これから末永くよろしくお願いします」

 なんとなく言葉選びが変な気もしたが、そもそもくまりは最初からちょっと変なので気にしないことにした。

「ああ、よろしく。俺もいかつい軍人さんとかが来るよりもやりやすくて助かるよ」

 ということで握手のひとつでもと思って手を伸ばす。
 くまりは小さく悲鳴を漏らし、やや挙動不審気味に手を差し出してきた。

「気に入らないのだ」

 さっきからふてくされているヂンガイが割り込んできた。燦太郎とくまりの間に入って、両手で二人の距離を広げる。

「ちょっとヂンガイさん。燦太郎くんになれなれしくしないでください」
「うるさいし。おまえみたいな燃えの素人に、あたしの背中は任せられないのだ」
「どの口がいってんだ」

 言いがかりにも等しい難癖だが、くまりは動じた様子もなく胸を張った。

「そうくることは予想していました。少し、LAEの流れを見ていてください」

 くまりはせきばらいをひとつしてから、改めて姿勢を正した。

 仰々しく何をするのかと思ったら、恥ずかしそうに目を伏せながらおずおずと左手を上げ、指を二本立ててブイサインをした。……え、それだけ? 

 「うおーッ! くまりんかわいいヤッター!」「チーフ最高っすッ!」「萌えーッ! じゃなかった、燃えるワーッ!」

 にわかにサラウンドで歓声が上がった。
 見ると覆面AQの方々が口々にくまりをはやし立てている。当のくまりは限界とばかりに手を下ろし、顔を伏せて息を荒げていた。

「ざ、ざっとこんなもんです」
「みんな完全におまえのファンだったじゃねえか!」
「きゃんっ!?」

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