もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら

『地球最後の男』

エピソードの総文字数=1,967文字

君の名はツァラトゥストラ。
君は群衆に対して超人について長々と語った。その後、彼らに対して………
どうする?

【コマンド】
>ながめる
 おこる
 彼らの耳を粉みじんに打ち砕く
「今時こんな古いUI(ユーザー・インタフェース)のゲームありませんよぅ」
「いや、そこは突っ込みどころではないのでスルーしてだな、

 とにかく『ながめる』を実行して観察したわけだ、

 すると……」

「彼ら(群衆)は立ち尽くしている」
「まあそうですわよね、お話ちっとも通じてなかったわけですから」
「彼らは笑っている。彼らはわたしを理解しない。わたしは彼らの耳のための口ではない」。
「まあ、そりゃそうだろうというところだな。ツァラトゥストラ……いや、ツァラ殿か……。(慣れないなあ)
 ツァラ殿も自分が理解されていないとやっとわかってきたようだ……。

 しかし……、続く言葉はやっぱり攻撃的だったりするな」

 まず彼らの耳をみじんに打ち砕き、目で聞くことを学ばせねばならないか。大太鼓や悔い改めを迫る伝道師のごとく、大音声でわめき散らさなくてはならないか。それとも、彼らは(つか)えながら話す者の言う事しか信じないのか。
「まためっちゃバイオレンスですよね……。
 ところで、悔い改めよって、そんな大声で喚き散らすんです?」
「どうかしらねえ。100年前はそのくらい激しい行為だったのかもしれないわね」
「そうして結局、ツァラ殿は、彼ら(群衆)に伝わる言葉として、彼らの誇りを刺激しようという戦術にでるわけだな」
 ──彼らは、みずからを「軽蔑」すべきなどと語られることを嫌う。ならば彼らの誇りに訴えかけよう。
 ならば彼らに、もっとも軽蔑すべき者について語ろう。そう、最後の人間について。
「自分を軽蔑すべき、なんて言われるのはたしかにちょっと嫌ですわよね」
「わたしこういうの知ってますよ、コンプレックス・ビジネスってやつです。わざと傷つくこと言ったり、人のコンプレックス刺激して物を売りつけたりするやつ!」
(また不思議な知識を……)


「この場合は、たとえマイナスの方向でもインパクトのある言葉を使って耳を傾けさせよう、という魂胆にみえるな。
 ところで、ここで『最後の人間』というキーワードが登場した。
 これは僕のツァラ殿(手塚訳)では『末人(まつじん)』と書かれている」

「わたくしのツァラちゃん(丘沢訳)でも『最後の人間』となってますわね」
「多数決で君たちのの『最後の人間』という訳をとりたいところだが、ここは意味的に言って僕のほうの『末人』を推しておきたいな」
「マツジン……栞理おねえさまは松Oジンギスカン推しですか?」
「こらこら。北海道民にしかわからない地域限定ネタはやめたまえ」
「ちぇー」
「このあとの解釈によるのだが、この末人(マツジン)はどうやら、超人に進化する直前の(いま)だ普通の人間、という意味と、超人とは別の方向へ進化した、今の人類のゆく(すえ)の両方を書いているように読めるのだな」
「アイドルデビュー前夜ってことかしら? きっとドキドキで眠れなくて困っちゃってる状態ですよね。
 〜嗚呼、選ばれし者の恍惚と不安ともに我にあり!
「太宰か? それとも、とんでもなくオタクなネタか?」
「えへへ〜(照れ)」
(いや、褒めていないのだが……)
「『地球最後の男(アイ・アム・レジェンド)』ということですわね!」
「れいかも無理に対抗しなくていいってば」
「えへへ〜(照れ)」
(まったくもう……)
「ザ・ラスト・マン、男とは限らないがな。しかし、原文を見てみても、やはりニーチェ的にはマン=人間であって我々女子は人間に含まれていないようだ。少々残念ではある」
「ひっどいですー。人間扱いもされてないなんてー」
「まぁ、キリスト教方面でも詳しく見てみると女性蔑視はけっこうあるんだがな」
「むー。」
「キリスト教の成立は当然そうとう昔の話ですし、ニーチェの時代だってウーマンリブ以前ですものね。現代女性からみるとだいぶんマッチョな感じがしますわね」
「女性全体をとんでもなく神聖視されるのも困るがね」
「わたくしたちにとっては、特定の男性にとってだけ神聖視されたらいいんですものね」
「きゃっ、れいか先輩ったら特定の男性いそうな発言っ!」
「うふふふ。男性とはかぎらなくってよ?」
と言って意味ありげに栞理のほうを見るれいかである。
「きゃー! なにそれっ! きゃーーーー!!」
ぱたぱたと両手を羽ばたかせるひとみ。そのまま空に飛び上がりそうだ。
「おいおい、図書委員、地下とはいえここは図書館だぞ」
「す、すみません、あたしったらついコーフンしてしまって……」
(なんだかなあ……)
なかなか良いポイントに触れた気もするが、こんな調子ではいつになったらこの分厚い本を読み終わるのかと少々心配にもなってくる栞理であった。

<つづく>

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