アルパヨの子、ヤコブ

信仰

エピソードの総文字数=1,246文字

イエスさまが、昼間から、ずっと船の上に乗って、陸地に向かって教えを説いてたら、まぁ、盛り上がって、気がついたら夕方になっちゃってさ、聞いてた群集は、少しづつ帰っていって、だいぶ人数も減ったんで、今日は、これで終了ってことになったんだ。

そしたら、イエスさまが、おれたちに

「向こう岸へ渡ろう」

そう言い出したんだ。

向こう岸って簡単に云うけど、けっこうな距離だし、なにせ、もうすぐ日が暮れる時間だしさ、元漁師だった弟子たち数人は、船に慣れてるからいいけど、おれなんて、舟に乗るのも初体験だったんだ。あんなもんが水に浮いてるってだけで奇跡なのに、それに人が乗るなんて神業だとしか思えなかったよ。

「いまから船出をしますと向こう岸には夜も深くなります」

元漁師のペテロが、そう云うと、師匠は、満足そうに頷(うなず)いて、問題なし、みたいな顔してたのが、おれを不安にさせたんだ。

まじっすか?行くんですか?海ですよ、小船ですよ、こんな時間帯に?もうすぐ夜だぜ、船に乗って、はるか遠くの向こう岸を目指すなんて、おれは最初からいやな予感がしてたんだ。

師匠がゴーサインを出しちゃったから仕方なしに、弟子たち全員で、慣れない舟を操って、漕ぎ出したんだ。海の上へさ。そしたら、風に乗って、向こう岸の方向に向かって、夕日に向かって舟が走り出したんだ。大きな海と真っ赤な夕日と...何から何まで始めての経験だった。風を切って進んでゆく感覚がさ、思ったよりか気持ちよくって、だんだん船を操るのが楽しくなっちゃってさ、日が暮れるまでは楽しかったんだよ。

でも、夕日なんて、あっという間だった。すぐに真っ暗闇になった。月も出てない夜だったんだ。なんにも見えなくなって、そこで嫌な予感が的中だったんだ。

すごい風が吹いてきてさ、とつぜんに足もとが冷たいと思ったら、海水が船底に入ってきててさ、波で揺れるわ、からだは、どんどん冷えてくるわ、ビショビショになりながら、なんとか船が沈まないように操るので精一杯になってたとき、イエスさまときたら、そんな中で爆睡しててさ。てか、眠れる状態じゃないでしょ、本当に。

さすがに元漁師のペテロとかでも「ヤバイ」と思うような悪天候だったらしくて

「もしかするとダメかもしれない」

なんて弱気なことを言い出すもんだから、おれたち、すっごく不安になってさ。

「師匠、船が沈んでも、おかまいにならないのですか?」

そう弟子の一人が、大風の中で、イエスさまを呼んだんだ。

そしたら、イエスさまが起き出してきて、

なぜ、そんなにこわがるのか。どうして信仰がないのか」

そう大きな声でおっしゃったんだ。

しばらくして、風が止んで、波もおさまって、船底に入っていた海水も引いたころ、みんな、やっと安心できて、ふと我に返ったんだ。

イエスさまと一緒に旅をしているのに、何を不安に思ったんだろう。おれたちはイエスさまを信じて、こうしてついてきてるってのに、なんで自分の身をばかり案じて、イエスさまを信用して、大丈夫だと思えなかったのだろう。


2017/08/30 18:16

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