【1/5】ホラーダンゲロスSS(81)ヤドナシ VS qaz

ヤドナシ

エピソードの総文字数=3,805文字

ここはヤドナシさんの執筆スペース。
他の人は書き込んだらダメですよ!
ねえ、お姉ちゃん……こんな所に家なんてあったっけ?
えっ……ほんとだ。新しく建ったのかしら?
でも、この前まで工事なんてやってなかったよ?
う〜ん……見逃してたのかしらねぇ。それにしても綺麗なお家ね……まるで海外の家みたい。
ちょっ、ちょっとお姉ちゃん! 人の家の敷地勝手に入ったらまずいって!
何言ってんの、引っ越してきた人がいるなら挨拶するのは当然でしょ。それにこんな綺麗なお家、どんな人が住んでるのかちょっと見てみたいじゃない?
私の制止も聞かず、姉はスタスタと家の敷地に入っていく……確かに、こんな綺麗な家は見たことがなかった。パッと見た瞬間、私も「中見てみたいな……」と思ったのは事実だ。別に悪い人が住んでそうにも見えない……。

yomogi

あれ……誰もいないわねぇ? インターホン押しても出てこないし……出かけてるのかしら?
お姉ちゃん、誰もいないならもういいでしょ? 帰ろうよ……。
さっきからどうしたの? 何でそんなに帰りたがって……
何でだろう……私も上手く説明できない。ただ、ポケットに入れた私の人形が、この家の前で立ち止まったときからゴソゴソ落ち着かない感じがする。早くここを離れなければならないような……。その時だった。

yomogi

ガチャ……ギィイイイイイイ……

yomogi

えっ……?
ドアが、勝手に開いたのだ。中には可愛らしい木で出来た椅子に「中でおくつろぎください。主人がすぐ、やってきます」と書かれたボードが置いてある。

yomogi

何これ……。
あらまぁ、この家に住んでる人はお茶目な人みたいね。お客さんにこんな招待の仕方するなんて……。
姉は、家の中に引き寄せられるように、スタスタと入っていった。私も、普段だったら絶対に怪しいから止めようと言うのに……なぜか、この家に入りたいという欲求には勝てなかった。

yomogi

すごーい……中もお洒落ねぇ。
見てみて、あの棚アンティークものっぽい! 私もこういう家に住めたらなぁ〜。
姉は夢中で家の中を見て回り始める。私もフラフラと姉について、ダイニング、台所、寝室まで回ってしまった……何かがおかしい。普段なら私も姉も人の家に来てこんな勝手な真似はしないのに……まるで家が「そうしてくれ」と言っているかのように、私たちはあちこちを見て回った。

yomogi

その時、ふとした瞬間だった。また、ポケットの中にある人形がゴソゴソと落ち着かない感じがしたのだ……実際には人形は動かない。動くはずがない。でも、これまでも私は持ち歩いている人形に守られてきたのだ。そのことを思い出したとき、窓ガラスの向こうにある光景を見て、私はハッと息を飲んだ。

yomogi

おっ、お姉ちゃん!
えっ……なっ、何あれ!?
外にいたのは、生きているとは思えないほど真っ青な白い肌をした少女……その手には黒ずんだ何かがこびりついた刃物が握られていた。

yomogi

異様な光景はそれだけじゃなかった……窓から見える町の風景が、あらゆるものがいつもと違う……。どこの建物もボロボロで、街全体が廃墟のようになっていたのだ。

yomogi

どっ、どういうこと……キャッ!
突然、目の前のガラス窓にスッと人の手が伸びてくる。私と姉は慌てて離れた……気がつくと、家の中の光景もさっきまでの綺麗で素敵な様子とは異なっている。

yomogi

なっ……何これ……。
新築だったはずの家は、いつの間にか数十年が経過したかのような姿に成り果てていた……ふかふかだったベッドも、腐った板の集まりにしか見えなくなっている。私たちがさっきまでいた世界とは別の場所へ来てしまったかのようだ。

yomogi

おっ、お姉ちゃん……戻らなきゃ……ここにいたらダメだよ!
そっ、そうね……出口に行きましょう!
うん、こっち急いで……ひっ!
また手だ。透けるはずのない白い壁の向こうから、無数の手が私たちを掴もうと伸ばされる。そのまま見つめていれば本当に壁から手が生えてきそうで、私は姉の手を掴むと一目散に出口へ向かった。

yomogi

いっ、いや……どういうこと? 何なの、この家?
分かんない!
家の外も……さっきのあれは? 窓から見えたのは? 私たちの町じゃないよね?
分かんないよ!
私が語気を強くしたからか、姉は少し冷静になったようだ。一旦息を整えるそぶりをして、私の手をギュッと握りなおした。

yomogi

加奈、離れないようにこのまま手をつないでおきましょう!
うっ、うん……。
絶対に離しちゃダメよ……。
私はその言葉に答える代わりに、自分も姉の手をギュッと握り直した。今になって歯がカチカチと鳴り始め、とても言葉を出せなかったのだ。

yomogi

はっ、さっきのドア……早くあそこに……きゃあっ!
私と姉は、床に垂れた何かに思いっきり滑ってしまった……自分たちが滑ったものを振り返って、私も姉も言葉を失う。

yomogi

ゆっ、床が……。
さっきまでツヤツヤと輝いていたフローリングは、燻んだ木の板の上にところどころ赤い染みをつけたものへと変質していた……ドアはそこなのに、足に力が入らない。さらに、私たちはそれまでなかった人の気配がするのに気づいてしまった。

yomogi

ねえ……なんか、二階から音が聞こえない?
タッタッタッタッタッ!

yomogi

逃げよう!
私はもう一度姉の手を握りしめて、必死に立ち上がって走り始めた……それなのに……姉の手が急に軽くなる。確かに手を握りしめているのに、驚くほど重さを感じない。不安になった私は振り返って思わず悲鳴をあげた。

yomogi

私の手は、白骨化した姉の手を握りしめていたのだ……それを見た瞬間、私は握っていた手を話してしまった。

yomogi

えっ……加奈……?
ハッと声の方を向く。そこには普通の肉のついた、いつもの姉の手があった……私のじゃない、誰かの青白い手を握りしめた……。

yomogi

お姉ちゃん!
いっ、いや……加奈ぁあああああああああああああ!
ものすごい勢いで、姉は掴まれた青白い手に引き寄せられ、白い壁の中へ吸い込まれていった……手は壁の中を伝って、私の方へも近づいてきた。

yomogi

いや、いやいやぁあああああああ!
私は必死に逃げ出した。出口に向かって一目散に飛び出した。ここはどこ? 私の家は? 私の町は? お姉ちゃんは……?

yomogi

ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん!
何かをつぶやきながら、私はむちゃくちゃに走った。けれど気がつくと……

yomogi

さっきの家だ。どうして? どうしてここに帰ってきたの?
考える暇もなく、家中の白い壁の中を青白い手が私に向かって這い寄ってくる。

yomogi

加奈……
後ろから、姉の声がした

yomogi


なんでなんでなんでなんでなんで手を離したのっ!

yomogi

そこまでです!
すぐ後ろに……私の首に息がかかるくらい近くに、姉が立っているのが分かる。でも、それはきっともう姉ではない……そんな気がした。

yomogi

もう……やめて……。
背後に立つ「それ」の手が、私の右手を掴もうとした瞬間、私はもう片方の手でポケットの中にいる人形をギュッと握りしめた。

yomogi

小さい頃からお気に入りだった……お姉ちゃんが私に初めてプレゼントしてくれた人形……その子を身代わりに、私は小さく囁いた。

yomogi

スケープドール!
その瞬間、私のポケットにあった人形がグッと強い力で引っ張られ、ぽとりと私の足元に落ちた……。

yomogi

変わり果てた人形の姿を見た瞬間、私は再び走り出す。お姉ちゃんも……振り返っていたらあんな姿になっていたのかと思うと、私の目から涙が止まらなくなる。でも、もう遅い……今はとにかく逃げないと……。

yomogi

同じことの繰り返しかもしれない。だけど私は無我夢中で走った。私は持ち歩いてる人形を自分の身代わりにできる魔人だ。だけど今日に限って、持ち歩いてる人形はあの一つしかない……次に、私を追いかけてくる青白い無数の手に掴まれたら、もう終わりだ。

yomogi

マテ……
町中から、男の人のような低い声が聞こえる。

yomogi

マテ……
マテ……
アキラメロ……
ニゲラレナイゾ……
聞こえてくる全ての声を無視して走っているうちに、またあの家の前についていた……でも、今度は廃墟じゃない。始めに来た時と同じ、あの綺麗な家だ……。

yomogi

けれど、周りはまだいつもの町じゃない。家だけが、始めに見た時の姿に戻っている……もしかしたら、あの中に入ってもう一度窓の外を覗いたら……今度は元の世界に戻れるかもしれない……お姉ちゃんも、きっとそこで待ってて……

yomogi

おねえ……ちゃん……?
涙をこすりながら、引き寄せられるように私はまたあの家の中へ入っていく……外だけじゃない。中も入ったときと同じ、ふかふかのベッドにお洒落な棚……きっと……お姉ちゃんもどこかに……

yomogi

加奈〜どこにいるの〜?
ほら、やっぱり……声が聞こえてきた。お姉ちゃん、今行くよ……もうあの青白い手も追ってこない。早くお姉ちゃんと会って、この家を出なきゃ……だけど……

yomogi

なんか……目が痒い……。
涙を拭くために、何度も目をこすったせいかもしれない……ゴミが入ったのかな……私は目からゴミを出そうと、近くにあった鏡を覗き込んだ。

yomogi

イッタダロ……ニゲラレナイト。
「ヤドカシ」という都市伝説がある。

それは人々に存在しない民家を見せ、
その家を見た人に「中に入りたい」と思わせ、
さらに中に入った人に「住みたい」と思わせる。

ずっとその家にいると、いつの間にか家の外がこの世ではないどこかの世界に変わっているらしい。

一度入ったら、逃げることはできない……。(完)

yomogi

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