退魔天使は聖夜に踊る ~復讐の乙女~

【14】金髪ママとアイツと十段パンケーキ闘争

エピソードの総文字数=2,008文字

 結局俺は、朝まで眠れなかった。
 まんじりと出来ない、って表現はときどき聞くけど、こういうのがそれだと実感した。

 ☆

 前の晩、パトカーに送られて教会に着くと、身の丈二メートルの大女、シスターベロニカがドアの前で待っていた。
 俺の顔を見るなり「やっぱりな」とだけ言うと、その逞しい腕でぎゅっと抱き締めてくれた。
 何がやっぱりだったのか、俺にはよくわからない。
 正確には、「どれ」が「やっぱり」だったのか、だけど。

 普段スーパークールな彼女が、俺のことをどう思ってるのか正直よく知らない。
 でも、俺のことはよくわかってるっぽい。
 なんか不公平な話だ。
 俺としては、師匠であり、実質的な育ての親でもある彼女のことを、一応は母親だと思っている。
 でも当人にそれを語ったことはないし、彼女も俺を息子と言ったことはない。

 とにかく俺は、ちょっと筋肉質なママのおっぱいに顔をうずめて、――啜り泣いた。
 俺が落ち着くと、シスターは俺を軽々と姫だっこし、ドアを蹴り開けて土足のまま食堂に歩いていった。

「べつに蹴らなくてもいいじゃん……つか靴脱げ」
「その方が早い」
 やれやれだ。あとでシスター長さんに怒られても知らないぞ。

 ……で、やっぱり怒られた。タムラさんに。
 二人とも靴を脱がされて、シスターはモップかけの刑。
 俺はタムラさんにココアを入れてもらった。

 ひどい顔してるわね、ってタムラさんが言ってたけど、何がどうひどかったのか俺にはわからない。
 正確に言えば、「殴られた跡」なのか「表情」だったのか、だけど。

 食堂でココアを飲んでいたら、どうして俺は吉富さんたちについて行こうとしたのか疑問に思った。
 別にただ小物を狩るなら一人でもあの通り可能だったんだ。
 じゃあ何故なのか。

 ……やっぱり、カマキリをどうにかしたいって気持ちが強かったせいで、でも今の俺には一人じゃムリだから、トチ狂った末に彼等にくっついて行こうとしたんじゃないか。
 そう思えてきた。
 迷惑かけるつもりなんか、これぽっちもなかったのに。

 結局は、薙沙さんのためじゃなく、自分がつらい、悔しいから、むしゃくしゃした気持ちをどうにかしたくてついて行き、でも結果的にはたくさん迷惑をかけることになった。

「へこむわー……」

 俺は食堂のテーブルに突っ伏した。
 どうしようもなく俺はヘコんでいた。
 正確に言えば薙沙さんの件でヘコんでいたところ、吉富組の件でさらに上積みした格好だ。
 ダブルでヘコむ。
 俺と弓槻のどっちがヘコんでいるのかヘコみ合戦をしたら、多分弓槻の方が勝つと思うけど、気持ち的には負けてない。

 俺は死んだナマコのようにずっと食堂のテーブルに貼り付いていた。もうこのままテーブルと一体化してしまいたい気分だった。

 ☆

 そんなこんなで、いつのまにか朝になっていた。

 朝食の用意を始めた若いシスターたちが、俺を見るなり、
「飲み屋で酔いつぶれたヨッパライみたーい」
 とか言って、俺を写メりやがった。
 俺はやつらを片手でシッシと追い払うと、オッサンみたくヨッコラショと声を出して立ち上がった。

 フル装備のまま食堂でウダウダしてた俺は、一旦自室に戻って重い武装を取っ払うことにした。
 片手が使えないのでひどく難儀するが、ベルト類は片手でパッチンと外せるものが多かったので、だいたい外すことが出来た。
 ケガをしていなければ、さらに装備品には小型ウィンチとか安全帯、カギフック、投げナイフに閃光弾、発信器、ペイント弾、長尺のダガー等々が追加される。
 あとは獲物の種類によって特殊兵装も持って行くことがある。

 たとえば、カマキリことテトラマンティスがいるって初めから分かっていたら、斬撃用の防具(刃物が通りにくい服とか鎖帷子みたいなやつ)とか、双剣とかトンファーとか、そういう手数を多く出せるような武器を持っていったはずだ。

 あいつは素早いし体も硬いから、銃のような遠距離武器は効果が低い。
 ガチで殴り合わないとダメなタイプだから。
 なのに俺は、サブマシンガンとか拳銃とか持って行っちゃって、(というかそれしか手持ちがなかった)そりゃあボコボコにされても仕方ない。

 一カ所の関節に銃弾を複数撃ち込み、そして決死の覚悟で懐に入り、ナイフで断ち落としたんだから、冷静に考えれば褒めてもらってもいい戦果だ。
 少なくとも吉富組の誰一人として、カマキリとサシの勝負が出来る奴はいないはずだから。


 ……なんて、ポジティブに考えようとすればするほど、俺はまたヘコんでしまう。
 もうやだこの性格。

 とりあえず、シスターベロニカの教え「ヘコんだ時には吐くまで食え」に従って、ゴムウエストのジャージに着替え、ガッツリ食う覚悟で食堂に戻った。

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