放蕩鬼ヂンガイオー

15「さあ、本編を始めるのだ!」

エピソードの総文字数=1,620文字

 視界に空が広がった。
 夏の陽のまぶしさに目を細める。

 浮遊感を感じて見下ろすと、眼下にレジャープールが見えた。

 ここは上空。それも現実世界の空だ。
 無事に帰ってこれたようである。

「えっ、きゃっ、困り果てますっ!?」
「うおわっ!?」

 腕に急激な重さを感じた。
 ので。見てみれば、くまりがしがみつく形でぶらさがっていた。
 ヂンガイはそのすぐとなりで器用に空中遊泳しながら、面白そうにくまりをつついている。

 ヂンガイと燦太郎はヂグソーの力で浮遊できるが、くまりは普通の人間なのである。
 燦太郎は両手を貸し、ゆっくりと高度を下げた。

「あ、ありがとうございます、燦太郎くん……」
「姫荻、下だ!」

 地上には――ヂゲン城の姿があった。

 突入前に見ていた姿と基本は同じなのだが、城の各構造が独自に稼動し始めている。
 住居が、離れが、煙突が、それぞれ位置を移し変え、全体として新たな形態をとろうとしていた。
 
 太く頑強な二対の建屋が地に着き、全体を支えている。
 あれは……脚か。

 その上には最も大きい城の本体部分が据えられているのだが、レンガ材を突き破るようにして中から生々しい有機物の『腕』と、『頭』が飛び出してきた。

『 吼えーる! 我が真の姿、その目に焼き付けるがいい! 』

 頭はヒゲの生えたクジラのそれ。しかし目が赤黒く輝き、大きく開いた口には無数の牙がびっしりと生え揃っている。

 見覚えがある。あれは、城内でコソを取り込んだ歯だ。

「ヂゲン獣ムカデクジラなのだ。どうやら、奴らが本拠地にしていたヂゲン城そのものがムカデクジラの本体だったみたいだし」
「まるごと城みたいなボディから、クジラの頭と(ヒレ)が生えてるのか。お手本みたいな怪人だな」
『 なにをぶつぶつと言っておるか。逆らうと――こうであるぞ! 』
 
 ムカデクジラが両腕を伸ばす。

 右腕は屋内プールの壁を貫き、建材を大量に落下させた。
 左腕はカヌー型のアトラクションに振るわれ、カヌー船体や岩の模型が吹き飛ばされた。

 轟音と振動が城内に響き渡る。

『 ぐわーっはっはっは! どうだ人間ども、恐怖に恐れおののき、ダークLAEを分泌するがいい! 』

 膨大な質量が放つ打撃は、それ自体がすさまじい威力を持つ凶器となる。
 ムカデクジラが少し体を動かすたび、施設は砕かれ、その余波がさらに周囲に破壊の輪を広げてゆく。

 圧倒的な戦闘能力、それは見るものすべてを畏怖させるのに十分であった。
 人々は泣き叫び、場内を逃げ回り、混乱と恐怖があたりを支配する。

 のが普通だろう。だが。

「甘いのだ」
「おうさ」
「そ、そうですね!」

 燦太郎とヂンガイ、そしてくまり。三人は目を合わせて頷きあう。

「それはどうかな、ムカデクジラ!」
『 なに!? 』

 廃墟も同然と化したレジャープール。

 その場内には無数の客が入っていたが、そのほとんど全員の顔が誰も絶望に歪んではいなかった。

 怪我人すらも見かけない。みな覆面AQの誘導により、危険エリアの外まで退避が完了していた。

 特設ロープで仕切られた安全圏に集まり、口々にヒーロー……ヂンガイオーを応援している。

『 そんな、馬鹿な!? このワシの姿を見て希望を捨てない人間など見たことがないぞ! 』
「さあ、本編を始めるのだ!」

 ヂンガイは篭手を分解し、改めてヂグソーを纏いなおしてヂンガイオーの姿となった。

 ロープの前で警戒を続ける覆面AQがこちらに気づいたようで、複数の味方に合図をしていた。
 集まってきた作業員がこちらに大型のカメラを向ける。

 撮影準備OK!
 戦闘現場の中継開始!

「――凍てつくヂゲンに金棒一閃、燃やせ心のLAE! アキバを照らす一番の星、放蕩鬼ヂンガイオーッ、時空を越えて大参上! なのだ!」

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