頭狂ファナティックス

風呂①

エピソードの総文字数=3,245文字

だから俺は昔から言ってるだろ? 俺の好みの女は、気が弱くて、お人好しで、人から悪口を言われても困ったように笑うだけで言い返しもしないような、嗜虐心と庇護欲を掻き立てる子だって。恋人が朝から晩まで酒を飲んで、職にも就かず、すぐ他の女に欲情するような奴でも、情にほだされて許してしまうような女の子がいい。
 紅月は頭を傾けてにやにやとしながら言った。銀太は何度も聞かされた話に呆れて返事もしなかった。
 二人は一緒に風呂に入っていた。寮の部屋に備え付けられている浴室で、一人で入っても足を伸ばせないほど狭い浴槽であり、二人で入るにはほとんど身体を密着させなければならなかった。
それなのに俺のクラスメートは気が強い奴ばかり集まっていやがる。はっきり言って、あいつらとは気が合わんよ。俺とお前はいつもつるんでいた。そのせいかお互い、他に友達がろくにいない。身近な女と言えば綴ねえだが、昔からの癖かこの年になっても子供扱いをやめてくれない。それに俺にとっても姉のような存在だから、恋愛対象としては見ることができない。けれども最近は、秋姫先輩と仲良くなってきている。
秋姫さんに変なことはするなよ? そんな真似をしたら僕でも怒るぞ。
 風呂に入っているあいだ、銀太は相手の顔も見ようともしなかったが、このときにようやく紅月と目を合わせ、睨みつけた。
まるで秋姫先輩が自分の女であるかのような言い草だな。まあ、銀太が秋姫先輩に気があるのは知っているが。いくら俺だって幼馴染との絆を犠牲にしてまで、女に手を出そうとは思わんよ。
 銀太は秋姫に気があることを指摘された恥ずかしさを誤魔化すために、湯を両手で結んで顔を洗った。本人は秋姫への思いを隠しているつもりだったが、昔なじみの紅月には見抜かれていた。
 銀太の髪は濡れて頬に張り付き、浴室の仄かな明かりを照り返して、妖しい色気があった。銀太は髪を肩のあたりまで伸ばしており、男の髪型にしては長かった。その上、顔貌は優形であり、肌は白く滑らかで、濡れそぼっている姿では少年なのか少女なのか見分けがつかず中性的だった。
もうすぐ冬休みが始まるけど、どうする? 実家に帰る? それとも寮に残って年を越す?
 銀太はあまり紅月と恋愛の話をしたくなかったために話題を変えた。
俺は寮に残りたいかな。実家に帰りたくないし。できれば銀太と綴ねえと一緒に過ごしたい。でも二人は実家に帰るんだろ?
僕はこっちに残ってもいいんだけど、多分お姉ちゃんが帰りたがるんだよね。お父さんとお母さんに会いたいみたいだし。そのときは紅月を一人にしてしまうわけだけど。
別に構わんよ。俺に遠慮せずに帰りな。たまには一家団欒もいいだろう。まあ、俺の両親には元気にやってるって伝えてくれ。
 紅月はくつろぐように肩まで湯に浸かり、膝を伸ばすと、足の先が銀太のペニスに触れた。
お? なんだお前、勃起してんのか? 俺に欲情してんのか?
 足の指で紅月は銀太のペニスを弄くり始めた。しばらく足で右へ左へともてあそんでいた。しかし親指と人差し指でペニスを挟まれたとき、ようやく銀太は腰を引いて、両足を閉じた。
やめて! 出ちゃうだろ! 紅月はもっと自分が女の子だと自覚を持って!
そんなこと言われても、俺は自分が男のつもりで生きているし。身体は確かに女だけど。
 その理由を明言はしなかったが(単に性格の問題かもしれない)、紅月は少女であるにも関わらず男として振る舞うことを好んだ。銀太とその姉である綴は幼馴染の奇癖に理解を示していたが、紅月の両親はやはり娘が男として振る舞うことに戸惑いがあり、親子の関係は良好とは言い難かった。そのために紅月は余計に大室姉弟に依存している節があった。
 紅月の身体は小柄で、まだまだ女らしい体型とは言えなかったが、身体の線は丸みを帯びており、やはり少女だった。髪は肩の上で切り揃えており、普段は癖が強く毛先が外側に跳ねていたが、今は濡れているせいで、まっすぐに伸びていた。左のこめかみから髪の房を伸ばしており、いつも三つ編みにしていた。風呂に入るときには解いた髪の房を左耳に掛けていた。
俺に欲情しても見返りはないぞ。俺は男には興味ないからな。
僕だって、紅月とはどうこうしたいとか思っていないよ。ただ男の身体は理性では動いてくれないんだ。
俺たちは親友だ。間違いは起こらんよ。
だからって風呂に乱入してくるのはどうかと思うんだ。
 銀太の部屋と紅月の部屋は隣あっている。銀太は一人で住んでいるが、紅月は綴と相部屋をしている。今、二人が入っている風呂は紅月の部屋に備え付けられているもので、土曜日の朝は二人で学園内をジョギングする習慣があった。ジョギングをしたあとは汗を流すために風呂に入るのだが、互いの部屋の風呂をわざわざ沸かすのも面倒なので、いつもどちらかの部屋の風呂だけ沸かして順番に入った。今日は、紅月の部屋の風呂を沸かして、銀太が先に入ったのだが、紅月はたまに「親友同士、裸の付き合いをしようぜ!」と言いながら闖入する癖があった。綴は二人がジョギングから帰ったときには、学園内の歓楽街にある喫茶店に朝食をとりに行っており不在だった。
なんだかんだ言っても、俺の身体で勃起しちまうんだろ? それって俺のことが好きだってことだろ?
きみの愛情と性欲が直結している恋愛観は改めた方がいいと思うよ。この世にはプラトニックな愛というものもある。もちろん紅月のことは親友としては好きだが、異性として好きになることはないよ。
ほう。それはなぜだ?
腹筋が割れているから。正直、腹筋が割れている女の子は無理。
 そう言われて紅月は自分の腹を撫でた。確かに腹筋が六つに割れていた。そのあと、相方の腹に触り、銀太はくすぐったくて身を捩ったが、その腹筋は割れておらず、鰻の腹のように滑らかだった。
けれども紅月はもっと男の目を気にした方がいい。胸元とか、スカートの裾とか、服装が乱れて下着が見えそうになっていることがたまにある。そういうときのきみは男から卑猥な視線で見られている。きみはこう言われて喜ぶかわからないが、美少女だからな。
異性として好きではないが、俺が性的な目で見られるのは嫌なのか。複雑な奴め。俺を見習ってもっと単純に生きろ。
紅月は明らかに直情的な馬鹿キャラなのに、空白組に在籍しているのは納得がいかないな。
お? お前、俺のことそういうふうに思っていたのか。ふざけたことを抜かすと、おちんちんが射精するまで虐めてやるぞ。
 光文学園高等部は各学年に十二組までクラスがあり、銀太は一年八組に所属している。しかしこの計三十六クラスの他にもう一クラス設置されている。それが特別科クラス、通称「空白組」である。三学年合同で組織されており、学業、実技の両方において非常に優秀な成績を修めており、かつ特異性の高いコンプレックスを持つ人間だけが所属できる。現在、特別科クラスには七人しか所属しておらず、学費が免除されていたり、取得単位が通常の生徒の半分で卒業できたり、一年の半分しか出席日数がなくとも進級できたり、様々な特権が与えられている。
 その代わり、特別科クラスの生徒は生徒会に所属する義務があり(特別科クラス以外の人間の生徒会の入会は認められておらず、すなわち現生徒会は七人で構成されている)、紅月も生徒会庶務の役職に就いていたが、本人は職務を放棄していたためにクラスメートと折り合いが悪かった。そのことについて、紅月は「自分は人の上に立つ人間ではなく、人に使われてこそ真価を発揮する人間だ」と述べている。一年生で特別科クラスに所属しているのは、紅月一人であり、「瀧川紅月」という名は学園でも有名だった。特別科クラスは学年としてどこにも所属していないために「空白組」と呼ばれ、そのメンバーは畏怖の念を持って見られていた。

ちなみに紅月は僕のことをどう思っている?
女っぽい顔をしているくせに、敵対した相手はとことん叩き潰す鬼畜な奴。

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