いつかのLip service

8:デートはデート

エピソードの総文字数=1,633文字

うん、できた! どう?
朝から眠い中呼ばれて、寝ぐせもついたまま美容室へと連れて行かれた俺は髪も切られ、ワックスなどを付けられて軽くセットされた。

着ろ、と促されたのはパリッとした背広スーツ。

出来上がりは……よくわからない。かっこいいのだろうか。スーツなんて初めて着たし、俺には大層すぎて似合っていないと思う。

どう、と言われても……これはかっこいいのか? 似合っているとは思えないんだが……
似合ってるよっ! もう、超かっこいいんだから。
そ、そうか……お前がそう言うならかっこいいんだろうな
何? いまいち信じてないな~~……よっし、じゃあ、早速デートしよっか! 
……本気で言っているのか? 本気でするつもりか?
え、うん。本気だけど。じゃ、街いこっかー
あ、ああ……
俺はドキドキとしながら街へと繰り出した。生まれて初めてのデートが男とは、悲しむべきなのか、喜ぶべきなのか、もはや分からない。
……お、あの子いいじゃん。
そう言ってみずきが目をやった先を目で追う。

その先には、女性の姿があった。黒髪ロングで、雰囲気はOLっぽい。誰かと待ち合わせ中なのか、そこにぼーっと突っ立っている。

ねえ、声かけてきてよ
は? なんで俺が。ナンパなんて馬鹿馬鹿しい。お前がやって来い。
むー……よし、わかった
って、おい。本当に行くのかよ、俺とのデートはって……ハッ……べ、別に楽しみになんてしていないぞ、うん。
……何を言っているんだろう俺は。出鼻を挫かれて落ち込むなど、こいつとのデートを楽しみにしていたやつみたいじゃないか。そうだ、俺は女などどうでもいいのに。

――ただ、お前がいればいい。

そうとは知らず、みずきは女へと声をかけた。

ねえねえ、お姉さん、今お暇?
え、ええ……まあ、暇ね。今さっきドタキャンされたし。
……もしかして、それって彼氏? 
そうなの、でももう別れようかなってさっき思っちゃった
女がちらっとみずきを見る。その言葉と視線に含まれる意味に俺はもう気が付いた。
お姉さんが良ければでいいんだけど、こいつと遊んでやってくれない?
……は?
え……
女はじろじろとつま先から頭まで俺を観察する。

当たり前だ、さっきまで眼中になく、完全に空気として溶け込んでいた男を認識しろと言われたのだから。

そうして観察した後、納得したように言った。

うん、いいよ、遊ぼっかぁ
!?!?

何故それを引き受ける。

ぶっちゃけ断ってくれた方がありがたかった。いや、断れと思っていた。


ほ・ら・ね
そう言ってアイコンタクト(前回と同じくウインク)を送ってくる。

なにがほらねだ。お前のせいでめんどくさいことになってしまったんだぞ。

……じゃあね。あ、敬語で、笑顔を心がけてね。一人称は私。
…………
と言うアドバイスだか何だか分からない言葉を残し、みずきは去って行った。

……あいつ、デートとか言いつつ、最初からこのつもりだったな。

まんまと嵌められてしまった。俺はお前とデートかと思って浮かれていたというのに。滑稽だ。

俺は、くるっと目の前の女性に向き直った。

……連れが余計なことしてしまってすみません。私が相手でもよろしいのでしょうか?
あはは、私って、執事みたーい。実際に使う男の人初めて見た。

いいよ、君もかっこいいしね。結構タイプ。

実際に使っているわけではない。俺だってそんな一人称の奴、漫画でしか見たことがないし、実際に会ったことがない。

というか、タイプって言ったけど本当か? 

今まで言われたことのない言葉に信じられなくて、俺は面食らった。

なに驚いてるの?
……いえ、女性に初めてそのように言われたものですから。貴方のような綺麗な女性にタイプなどと言って頂けて光栄です。
うふふ、本当に執事みたーーい
何故か、敬語に変えただけで女性を褒める言葉がすらすらと口から出る。

綺麗などと、本当は思っていなかったが、そう褒めるだけで女は喜んだ。


女は腕を絡ませてきた。

まだ別れていないだろうし、彼氏がいるというのに、何という尻軽か。

気持ち悪くて、全身が粟立った。

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