いかに主は導きたまうか。

0. Trial 嵐の夜の訪問者。

エピソードの総文字数=1,347文字

  ボクは平屋のアパートの端に部屋を借りて一人で住んでいた。ここへは誰も訪れないし、招くこともなかった。唯一、尚彦がたまにレディングからChicoへ遊びにくるときに寝泊まりするぐらいだ。基本、ボクはここで一人で生活していた。小さいがキッチンとバスがついていた。入口入って直ぐ左、窓下に、はめ込みタイプの小ちゃなテーブルと両側には、同じくはめ込みのベンチ式の椅子があった。テーブルの上にはシンゴニュウムの鉢がおいてあった。休みに一ヶ月程日本に帰るとき、水を山ほどあげていったが枯れてしまうかもなと可哀想に思ったことがある。すっかり忘れて帰って来たのだが、それは見事に育って姿を変えていた。蔓を伸ばし葉を広げ静かに佇んでいた。とても驚いた。閉め切られたカーテンの隙間からの木漏れ日に浮かび上がるそれを美しいと思った。シンゴニュウムはボクの愛するものになった。

  ある嵐の夜に、「ガタン」と家の中で音がした。ボクは寝室で寝ていたのだが異変を感じて、眠い眼を擦りながらベッドマットから出て様子を見に行った。恐る恐る音のした方へ向かう。入口近くの窓が風の為に開いてしまっていた。でも、音は、これが原因ではないはずだ。なにか生き物の気配があったのだ。窓近くの小さなキッチンの電気をつける。黒い小さな固まりが床にいた。ずぶ濡れで床に水たまりを作っていた。それも、どうやったらそんなになるのか分からない程の悪臭を放っていた。猫だと判じた。さて、どうしたらいいものかで困った。結局ボクは、タオルケットを寝室からもってきて床に投げておいた。猫を閉じ込める訳にもいかないので、窓は、そのままにした。床はリノリュウムなので濡れれば後で拭けばいいし、洗濯でことはすむと思ったのだ。ボクはメンドクサイのと眠たいのでさっさと寝室に戻り、しっかりドアを閉めて寝てしまった。朝になって様子を見に行くと、猫の姿はなかった。外の天気は晴れていた。

  このことがあってから直ぐにボクは新しい住まいへ引っ越した。もちろん、あの猫が理由ではない。願い通りアメリカン人をルームメイトとする生活がやっと適ったのだ。一戸建ちの平屋だった。前のアパートから10メートルもない場所だった。ありがたかった。家財の移動が楽だったからだ(ベッドマットを除いてだが)。入口のドア前にはテラスがあった。そこに雨ざらしのカウチが置かれていた。引っ越して間もなくのころ、ボクは一人このカウチにすわっていた。すると通りの方から、それはでかい犬が一匹やってきた。その犬は何故か家の前庭に入り込み、ゆっくり階段をあがりボクの方へのそりのそり近づいてくるではないか。飼い主の姿は一向に見えない。ボクは静かに見守っていた。犬は好きなほうだが、こんなに大きいのは見たことがないので怖い感じもあった。犬は何故か親愛の思いのこもった眼差しでボクを真近で見上げていた。時の経過を長く感じた。ボクは大丈夫かなと思い、やがて言葉をかけてしまう。その瞬間、魔法が解けたように犬はボクへの興味を失い、くるりと向きをかえて来た道をゆっくり、ゆったり戻って行った。やがて完全に見えなくなった。

後々、この二つの出来事は、なぜかとても意味のあるものであったように思うようになる。

 

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