頭狂ファナティックス

赤藤と犬童

エピソードの総文字数=3,564文字

みなさんとご一緒してもいいですか~。私は地下に一人で生活しているせいで、ここに友達が全然いないんですよ~。
 銀太がもちろん、と言うと赤藤は椅子に座った。
ここでの生活はどうですか~。もう慣れましたか~。
悪くないっすね。学園封鎖の中の生活としては、秩序が守られていて落ち着いている。
 紅月が乾いて固くなったパンを千切りながら答えた。
ここは暴動や野蛮な事件が起こらないように常盤さんが作った組織ですからね~。何か聞いておきたいことはありますか~。私はこの組織が発足したときからショッピングモールで生活していますから、他の人よりも詳しいですよ~。
それならここで重要なポストに就いている人間の人となりについて聞いていいっすか? 赤藤先輩の印象で構わないので。
 紅月は早速、ショッピングモールの住人に探りを入れるつもりで聞いた。犯人がいるとしても目立たない立場にいる可能性が高かったが、手始めに重要な立場にいる人間について聞くことにした。特に犬童についての情報は仕入れておきたかった。
そうですね~。まずは常盤さんについて話しましょうか。あの人は他人に厳しいですけど、同じくらい自分にも厳しいんですよ~。常盤さんにとって最大の批判者とは、常盤さん自身ですね~。けれどもほとんどの人には他人にきつく当たるところばかり目につくので、敬遠されていますね~。
それでも人の上に立つには十分な資質を備えていると思います。そのやり方は信頼によって体制を保つのではなく、畏怖によって統制するものですけれども。
俺が見る限り、赤藤先輩は常盤先輩と気心が通じているように見受けられますけど。
そうですね~。常盤さんは何かと私に気を遣ってくれます。けれどもそれは私の性格とか容姿が原因ではありません。私のコンプレックスが有用なものだから、常盤さんは私を気に入っているのです。あの人は他人をその能力でしか判断しません。その判断基準は私たちにとって得もあれば損もあります。
もっとも何事もそうですけれども~。常盤さんは気に入った人間、有能な人間と言い変えてもいいですけど、そのような人たちには贔屓することを隠そうともしません。あの人には少しばかり平等の意識が欠けていますね~。
なるほど。俺も空白組同士、あの人とはわずかながら面識がありますが、概ね同じ意見ですね。犬童先輩はどうですか?
犬童さんは言葉遣いも丁寧で、いつも物腰も柔らかいですね~。その態度という点では常盤さんと対照的ですね~。犬童さんは生活必需品の管理を任されていますけど、規定の量よりも少し多めにわけてくれたりするんですよ~。もちろんそういったものの管理は厳しく定められていますから、常盤さんには秘密にして。
人当たりもいいですし、顔もハンサムですから、特に女子から人気があるんですよ~。私も良くしてもらってますね。私は監房の管理を任されている関係で、地下に一人で生活しているんですけど、やっぱり話し相手がいないと寂しんですよ~。それで犬童さんがたまに訪ねてきて、話し相手になってくれるんですよ~。
それは犬童先輩に求愛されているということですか?
 紅月が茶々を入れた。
そういうわけではないですね~。どうも犬童さんは優秀な生徒には唾を付けるようにしているらしいです~。あ~、これでは自分で自分のことを優秀と言っていることになりますね~。
ともかく犬童先輩は人気があると。表向きにはなってませんが、このショッピングモールは常盤派と犬童派で分かれている可能性があるっすね。それで楓子はどうですか? と言っても、俺たちは楓子の友人なので、それなりにあいつのことは知っているつもりです。なので楓子については手短でいいです。
須磨さんはとにかく真面目ですね~。自分を顧みず、ショッピングモールに貢献してくれていますよ。あまりにも頑張りすぎるから、そのうちに倒れるんじゃないかと心配になるほどですよ~。
私は須磨さんのコンプレックスを知りませんが、重宝するものらしく、常盤さんは彼女のことも気に入ってますね。須磨さんの方も常盤さんに心酔しているようです。よくお二人が一緒に行動しているところを見かけますよ~。須磨さんは人の上に立つより、人に使われて真価を発揮するタイプですね~。
 楓子の話が終わったところで、四人とも食事を食べおえた。赤藤は地下で仕事がありますので、と言って、その場をあとにした。また、いつでも私の部屋に遊びに来て話し相手になってくださいとも付け加えた。残された三人も自分の部屋に戻ろうとしたとき、犬童がこちらに近づいてくるのに気がついた。犬童は今日の夕食に出されたチーズを一切れずつ渡しながら、三人に話しかけた。
これはお近づきのしるしです。ここに座ってもいいですか? 実はあなた方とはじっくりと話がしたいと思っていたのですよ。
 銀太が手のひらで椅子を示すと、犬童は先ほどまで赤藤が座っていた椅子に腰を下ろした。
あなた方の先輩として、食事についてのアドバイスをしておきましょう。その日の食事に保存できるようなものがあったら、その場で食べずに取り置きしておいた方がいいです。ここでは誰もが食料の心配をしております。食料の残量を把握しているのは、常盤さんと須磨さんの二人だけだ。
しかしほとんどの人間はあと二週間は持たないだろうと考えております。その前に学園の封鎖が解ければいいのですが。いつここの食料が尽きてもいいように、可能な限り食料は自分で確保しておいた方がいいです。
 犬童の態度は非常に懇ろで、三人に取り入るようなところすら見せた。この態度は先ほど赤藤の言った「唾を付ける」ものだと三人は理解した。確かに犬童は銀太と紅月の二人と交誼を結ぼうとしていた。
瀧川さんと大室くんは今後、風紀の維持の役割を担うことになります。そのことについて、いくつか重要な情報を伝えておきましょう。まず、時間が経つにつれ食料の問題を筆頭に、住人のあいだに生活に対する不安が積もっていくのは確実です。そうなれば風紀を乱すような行為が増えるのも当然です。暴力事件が増えるとは言いません。しかし窃盗事件は確実に増えます。このような状況下では他人の食料を盗む誘惑に抗えなくなるのは、人の性です。お二人の仕事は多忙を極めると思います。眠っているときに叩き起こされることが何度もあると覚悟しておいてください。
念のために確認しておきますが、二人のコンプレックスは複数人の住人を取り押さえられるだけの力量はあるんですよね? そこのところを理解しているからこそ、常盤さんは二人に風紀の維持の役割を委任したのだとは思いますが。
そうっすね。いくら光文学園の生徒と言えど、中堅クラスなら束になってやってきても、全員を屈服させる自信があります。俺たちのコンプレックスは戦闘型なので。
それを聞いて安心しました。次に常盤さんに対する、ここの住人の印象を教えておきましょう。常盤さんがここを治めるやり方は確かに理に適っています。しかし倫理的ではない。倫理よりも論理を優先する人間ならば賛同しても、論理より倫理を優先する人間ならば反感を抱く。つまりここの住人の少なくない人間が常盤さんに対して不満を持っている。彼女の絶対的な実力の前で、そのことを口に出す人間はいませんが。ショッピングモール全体の統治はできても、住人の人心まで掴むことができないあたりは、やはり彼女もまだ十八歳の少女なのです。今の状況が長く続けば、いつか住人たちの不満が何かしらの形で爆発するときが来るかもしれない。
俺たちが何かしらの事件を取り締まるさい、できるだけ穏便に済ませろということっすね。実力行使に出るような真似は非常事態を除いてやめた方がいい。
そうですね。俺としては、二人には常盤さんのように無慈悲に地下倉庫に送り込むやり方よりも、事情を慮って情状酌量するやり方を心がけていただきたい。それともう一つ、伝えておきたいことがあります。ここの住人の中にはショッピングモールのすべての武力を挙げて、実験棟に襲撃をかけるべきだという強行的な意見を持っている人間もいます。
彼らの言い分では、現在、学園の中で生徒によって作られた組織のうち、最も勢力を持つものはショッピングモールだということで、我々にこそ理事会を打倒する義務がある、とのことです。彼らが本当に襲撃を実行に移すかはわかりませんが、そのような住人もいることは覚えておいてください。夜にあまり時間を取らせるのも申し訳ありませんね。今日のところはこれくらいで話を切り上げましょう。おやすみなさい。
 犬童は立ち上がると、銀太たちから離れていった。今ではほとんどの住人が食事を終え、フードコートはお喋りをしている人間だけになり、人はまばらになっていた。

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