放蕩鬼ヂンガイオー

04「おまえ、ヒーローになりたいのか」

エピソードの総文字数=1,410文字

「俺、もう帰っていいかな」
「そ、それもマズイのだ! みんな逃げちゃったらあたしの立場が悪くなる!」
「なんでだよッ! じゃあせめて警察呼ぶか!? あの格好なら罪状はいくらでもこじつけられるだろ!」

 八月だというのに空気が冷え切っている。

 震える指を押さえながら電話をかけようとスマホを取り出したところで、道の陰から車のスリップ音が聞こえてきた。
 運転手の声が響く。「――なんだこりゃ、こんな時期に路面が凍ってやがる!? そ、そこのコスプレのひと、逃げろォッ!」

 見えたのは巨大なダンプカー。

 深夜の交通量が少ない時間帯に動き回っている大型車両だろうか。
 凍結した路面にタイヤを滑らせて、完全に暴走した軌道で路地に突っ込んでくる。

 シシドクロ直行コース。
 しかし、バケモノ本人はいたって気にしない様子で立ち尽くしていた。

「ぶ、ぶつかるッッッ!」

 運転手が目を覆った。

 バンパーがシシドクロを飲み込み、金属の悲鳴が辺りにこだまする。
 車は後輪を振り回すように回転し、そのまま最寄のビルへと突っ込み被害を拡大させた。

 渦中の路面で、シシドクロが鎧に残った金属片を手で払っている。

 無傷である。
 完全無欠に健在であった。

『フン、余計な邪魔をしおって。我らヂゲン獣に人間どもの物理攻撃は一切通用しない』

 その様子を見てなのか、ヂンガイは神妙な面持ちで白い息を吐いた。

「……ヂゲン獣は、人間が住む世界とは少しだけズレたヂゲンに存在しているのだ。同じヂゲンを操る能力を持った放蕩鬼、及びその兵装じゃないとダメージを与えられないし……」

 燦太郎は、ヂンガイを落ち着かせるべく努めて優しい声を出した。

「そこまでわかってんなら、いくしかねーだろ」

 ヂンガイはぺたんと地面に尻もちをついたままこちらを見上げていた。

「アドバイザー……」
「アドバイザーじゃねえ! 桜庭燦太郎! それに俺は、ヒーローとかそういうのはもう卒業したんだ!」
「でも、あたしは違うの! 嫌だけど、嫌でも戦わなきゃいけないの! ヒーローにならなきゃいけないの!」
「む」

 真剣な声色だった。

「おまえ、ヒーローになりたいのか」

 どうしてだろう。自分でもわからないが、自然にそう聞いていた。

「うん……」
「ハーッ」

 ためいきをついてから、大きく深呼吸する。自分の中の葛藤と折り合いをつける。

「ああもう、見てらんねえよ」

 ごほん。せきばらいをしてからヂンガイの手を引いた。

「ぜったい大丈夫だから飛べ。空に浮かんで、おまえの姿を町のみんなに見てもらえ」
「でも、だってあたし……これまで一度も……」
「ここは、今までお前が見てきた世界じゃない。大丈夫だ。少なくとも俺は、」

 目を逸らす。

「……さっきおまえに、ちょっとだけ燃えたからさ」
「ぁ」

 ヂンガイは声にならない声を出し、一度首を振ってから立ち上がった。

「うん、そうなのだ! いしし!」

 と、歯を見せて笑う。

 そしてギャラリー多数のこの状態で空を見上げ、無数のヂグソーを引き連れて――飛んだ。飛んだが。

「うおわああああああああああああああああああっ!?」

 大量のヂグソーが燦太郎の服の中にもぐりこみ、浮力を発生させはじめる。
 燦太郎は、釣り上げられるようにして一緒に飛ばされた。

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