黄昏のクレイドリア

5-5

エピソードの総文字数=1,606文字

…………ッ、
……………………。
おぉ、ようやくお目覚めか。
(拘束は腕と足……
 ……この魔巧具も、ある意味ではそうか。)

……此処は、供犠の塔か
ご名答だよ、魔術師イーリアス。
此処はロージアの供犠の塔だ。
月の美しい夜には、光の天蓋が降りるのだが……
あいにく、今夜は新月だ。
魔術も大した効力を成さない……お互い苦労するね。
よく言うな。この条件下で、
さらには魔力を封じる魔巧具まで
用意して俺を捕らえたんだ。
随分と手厚い歓迎じゃないか。
…古巣の仕業にしては早すぎる。
一体どこの差し金だ。
それを知る必要が、
君にあるとは思えないが?
…………。
まぁいい、冥府への土産に
一つだけ教えてあげよう。
私の名はギエル。君の血を継ぎ、
偉大な魔術師となる者の名だ。
(…話す気はないということか)

<せわしない男>

な、なぁ、ほんとにお前のいう事に従えば

オレ達は解放されるんだよな?!

…………。
…………。
イーリアスが声のした方へ首をめぐらせると、
興奮した様子の男一人と、困惑、疑念、不安など
様々な表情を浮かべている男たちが、
手を縛られたまま、まとまって座っていた。
あぁ、もちろんだとも。
君たちの罪は不問とし、さらには
貴族の位まで与えようじゃないか。

<せわしない男>

や、やった……!
それではまず、積極的な君に
最初の役割を与えてあげよう。
前に出てきたまえ。
指示に従い、
男はギエルの目の前まで歩いてきた。
跪きたまえ。

<せわしない男>

こ、こうか……?
うむ、それでいい
跪いた男へ向かって、
ギエルは右腕を真一文字に斬ると、
男の頭がごとりと音を立てて床に転がっていた。
なっ……!
ひッ……!!
………………。
ギエルは恐怖に凍った罪人の男たちを尻目に、
床に転がった頭を拾うと、イーリアスの頭上に掲げた。
ほら、君の大好きな人間の血だ。
好きなだけ戴くといい。
別に好きなわけじゃない
ぼたぼたと顔にかかる、
未だに熱い血潮から顔を背けながら、
イーリアスは吐き捨てるように言った。
残念だが…生憎私は
魔術師の血以外は口にしない主義なのさ。
汚らわしくて仕方がないからね。
随分な物言いだな。
大層飼い主に甘やかされて育ったようだ
言葉をわきまえろ家畜がァ!
……ッ!
突然激昂し、切断された男の頭ごと、
イーリアスの頭部を打ち据えた。

有象無象の人間は我々のような選ばれた魔術師が魔力の器を高める為の家畜でしかない。高位の存在が下位の生命を戴くのは当然の権利だ、そうだろう?

…………。
……お前がそう思うのは勝手だが、
その器に見合う魔術が扱えないようじゃ、
宝の持ち腐れだな。
なんだと?
風で切断した割には汚い断面だ。
精度の低い魔術だな……
俺ならもっと上手くやる
ガッ――――――、

貴様の舌は下らない冗談をいわせるために残しているわけではないのだ、魔術師イーリアス。

贄の血を飲み、床に堪った溜まりの血も惨めに舐め取り、一切の遺漏無く、私に魔力を明け渡す為に残したのだよ。

いい加減に立場を弁えたまえ。
血の鮮度が落ちていくではないか。
…………。
頑なに態度を変えないイーリアスを
ギエルは苦々しく見下ろしていたが、
ひらめいたとばかりに指を鳴らした。
…あぁ、そうか。
私としたことが、考えが足りなかったな

そもそも、必要分の魔力さえ確保できれば、この贄たちを全て平らげる必要はなかったね。

君にも好き嫌いはあるだろうに……

いやはや、気が付かなくて申し訳ない。

!!
ひぇっ!?
てめぇ!!
さぁ、どれがいい?
…………。
……必要ない
一言漏らすと、イーリアスは血を啜り始めた。

頭が分かれた男の遺体と、
その血を得る魔術師、
それらを愉悦の表情で眺めるもう一人の魔術師――
倒錯した光景に、罪人の一人が口を抑えた。
ぅぷっ……
堪えろオーギ、見るんじゃねぇ
くくく…………哀れだな、魔術師イーリアス。
精々綺麗にしておくことだ

そうしてギエルは血に塗れた空間を後にした。

血を啜る音と、足音と、たてつけの悪い扉の閉まる音が、静まった塔に気味悪く響いていた。

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