勇者の武器屋

第三六話 求道者たち

エピソードの総文字数=3,309文字

僧侶さんが魔力を吹き込んだものは、ちゃんとダガーをヒットさせることさえできれば、どんな強い冒険者さんでもモンスターさんでも死んでしまうということですか。なんだか悲しい気持ちになりますね……。
モンスターに襲いかかられたり、野党に襲われたりして生きるか死ぬかってときに、いちいち悲しい気持ちになってどうするのよ。アンタだって超一流の戦闘員なんだから、そういう気持ちは越えてきたはずなんだけど。
でも、どんな人にだってモンスターさんにだって、何年も何十年も生きてきた証みたいなのってあると思うんですよ。それが1秒で死んでしまったら、どうしていいかわからない気持ちになりませんか?
魔法理論的にいえば、未来永劫な時間も、ほんの刹那の時間も、実のところ大した意味はないものなんだよ。
私たちが生きているこの時間や空間すら、そもそも幻想の産物で成り立っているわけだな。たぶん世界というのは無限大に存在しているものなんだが、それでいて、その存在には大した意味も価値もない。つまり、頑張って生きた末の大往生でも、なんだかワケがわからんまま死んでいたりするのも、本質的には大した違いがあるわけじゃない。
この意味、勇者にはわかるかね?
……ゴメンなさい……。
たぶんほんの少しもわかっていません……。
魔法や科学や宗教を突き詰めていくと、最終的には虚無的な思想にいきつくのよね。でもそこにはすべてがあり、かといって無意味でもあって、胸を打つような感動もない。魔導師を魔導師たらしめているのは、長年の瞑想と思索を経て、この世界を形作る基軸にアクセスしようとする想像力なわけよ。真理を探究する心と能力こそが魔力の根源。アンタだってかなりの魔力の持ち主なのは、長年の冒険を通して、知らず識らずのうちに真理を求める探求心を培ってきたからよ。
ほえ~、そうだったんですか……。
あんまり深いこと考えてこなかったような……。
もしかしたら、たぶんお父さんが、おバカな私を誘導して、レールを敷いてくれたから、それなりの魔力を養ってこられたのかもしれません。
いや、勇者はバカなフリして、根源的な部分を実は弁えているのさ。
そんなことはないと思います。バカだから魔王さんに簡単に騙されて、パーティーの皆さんを酷い目に巻き込んで、こうして『ドリームアームズ』の経営で右往左往してるんだと思うんです。
もっとハッキリ言うと、アンタはたしかに相当なドジでバカであることは間違いない。だけど軽く詐欺に引っかかったりするようなバカであることと、真理を探究する力には大した関係はないってことね。
まぁ勇者に言ってもチンプンカンプンなのかもしれないが、それはそれで別にいいわけだな。要するに、敵が死ぬのを悲しむなってことを言いたいわけだ。法律的には罪になるケースだってあるのかもしらんが、この世の真理面では悩むようなことじゃない。無意味な事柄なんだよ。
一つ教えてくれませんか。
僧侶さんは、私の数年の冒険のなかでも、今まで見たことがないほど強大な魔力の持ち主だと思います。たぶん世界一で、魔王さんもずっと越えた存在なのかと……。ということは、僧侶さんは果てにまで行き着いて、真理に到達したってことなんでしょうか?
真理に到達なんて全然してないけど。でもまぁ、私なりの悟りを開いて、ある境地には達しているんでしょうね。それって行き着いたってことになるのかしら?
だがよぉ、行き着いた果てが、その欲望にドス黒くまみれた姿だっていうのか? なんかもう魔法の修行を続けるのが嫌になるね。
ある境地に達してからの選択肢は、人によってバラバラでしょうね。
瞑想と思索に明け暮れることに価値を見出し、生涯を真理の探究のみに捧げようとする人だっているでしょう。洞窟のなかで無為に過ごすことだけで満ち足りる人だっているでしょう。
だけど私の場合は結局、一周回って人間社会のドロドロのなかに帰ることにしたのかもしれない。だって、たとえあらゆる宇宙は無意味なものだったとしても、私は私としてここに存在してしまっているでしょう。それがバカバカしいことだったとしても、別にいいじゃない。俗物的なものを追求すれば、私という心がひとときの安らぎで満たされてしまうんだもの。
そこまで悟っているならある意味大したもんだ。褒めてるわけじゃないけどな。
今や私の心を捉えて離さないものは、世界を統べるような権力、名誉、そして果てしないマネー。
どうせ何もかもに意味がないのなら、ひとときだけでも私の心を満たすものを追求してみようって思ったわけよ。
魔王さんと僧侶さんは、なんだか逆の考えの持ち主ですね。お互いに強大な魔力を持っているはずなのに……。
私に言わせれば、魔王なんてしょせん子どもみたいな夢を抱いた恥ずかしい青二才なのよね。
魔王はきっと、世界に勝手な理想を抱いてる。それはつまり、まだこの世界の本質的なところに行き着けていない証拠じゃないかしら。世界を変えようとか、素晴らしいものにしようとか、まるっと無駄な行為だと私は断言してあげるわ。
難しい哲学的なお話はあんまり理解してませんけど、僧侶さんの語り口や無尽蔵な魔力を見ていると、たぶん本当に本物の方なんだなぁってことはわかります。
私の魔力を越えたければ、まずは自分の心に素直になりなさい。真理を求めた先に残るのは、理想や社会のあるべき姿なんかじゃなくて、結局のところ自分の心だけなのよ。
わかりました、僧侶さんのお言葉をしっかり胸に刻みつけて頑張ろうって思います。これからもおバカな私を、どうか導いてください。
魔導師としてはかなり良いところまできてるんだけど、あと一歩、イマイチ行き着けてないアンタもね。
か、かしこまり~。
正直お前らの話がほとんどわかってない俺っていったい……。
今のは求道者たちのお話くらいに思っておきなさい。アンタはしょせん庶民なんだから、別に背伸びする必要なんてないのよ。
求道者ね……。日々の生活に追われてばかりだった俺には、縁がないことなんだろうな。
人は誰しも魔力を持ってます。想像力こそ魔力の根源だって僧侶さんが仰っていたじゃないですか。戦士さんだって修行すれば、僧侶さんや魔法使いさんのような大魔法を唱えたりもできるようになりますよ。
遠大な理想を持てない草食系には無理だと思うわ。想像力がついてこないから。
いや、戦士は今のままがいいんじゃないのか。アタシらが幸せかどうかは別問題だからな。何も知らずに生きて、そのまま死んでいって、常識として用意された木訥な人生に骨を埋めることができるってのは、大いなる幸運なのかもしれんよ。
お前らには及ばないまでも、自分なりの小さな人生のなかで悩んで、思い迷って、試行錯誤しながら努力はしてみようと思えたよ。
とにかく今は『ドリームアームズ』の経営に邁進することが、俺なりの修行なんだろう。お前らに拾ってもらったおかげで、一庶民としては上出来すぎる舞台が与えられていることに感謝してるさ。
『ドリームアームズ』の経営にとって、戦士さんは絶対に欠かせない人材です。これからも、経営面に疎い私たちをどうか支えてください。
そうよ、細々としたことはアンタの役目。そして私たちは遠大な戦略を担うわけよ。ちゃんと役割分担ができてていいわね。
ぶっちゃけ僧侶は何もしてないし、むしろ段々トラブルメーカーになってきてるような気さえするんだが……。
そう言って任せられたら、恩を返すためにも努力しようって気になるな。今は本当に、『ドリームアームズ』の成長のために非常に重要な時期だ。勇者の武具講座も成功しているし、魔法使いの新製品開発も順調だ。続いてまた魔法使いをプロジェクトリーダーとして、魔法剣アサシンダガーの開発・販売に乗り出していこうってことだな。
ですです。
私も魔法使いさんに負けないよう、新しい事業に次々とチャレンジしていこうって思います。
了解、明日からまた関係各所を走り回って、新武器の製造に邁進しようかね。一丁やりますか。
方針が決まれば話は早いわ。
そのうち私がすごいことになるに違いないから、せいぜい私に負けないよう、頑張りなさいよアンタたち。

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