退魔天使は聖夜に踊る ~復讐の乙女~

【10】リベンジは雪の舞う夜

エピソードの総文字数=2,100文字

「んー……、よくワカランが、リベンジしたいってことでOK?」

 装備品一式を着込んだ吉富さんが、パイプ椅子に後ろ前に跨がって、半ば呆れたように無精髭を撫でながらそう言った。


 宿舎内にある、六畳間ほどの小さいブリーフィングルームの中は今、出撃準備を整えた吉富組のおっさんでいっぱいだ。
 夕食を済ませた彼等は、これから出かける現場について打ち合わせをしている最中だった。
 そして俺は、今夜の狩りに連れて行ってくれるよう、この少々ムカつくオッサンに懇願しているところだ。

「リベンジというか、現状でテトラマンティスを仕留めるのは無理だと分かってます。だから小物だけでもいい、手伝うだけでもいいから連れていってください。お願いします」

 俺は他のメンバーの冷ややかな視線の中、深々と頭を下げた。

「いまシスターベロニカから内線で了承もらいました」

 チームの中では比較的若い、鶴田と呼ばれる男性が、吉富さんに言った。いつのまにか手配していたんだろう。

「坊や、こういう事はちゃんとママに断ってから来るもんだぞ。いいな?」と吉富さん。
「すいません……」
 ハハハ、と周囲から軽い笑いが聞こえてくる。

 子供のくせにハイランカーなガキが、格下の自分たちに頭を下げているという状況が面白いのだろう。
 でも今の俺には、そんなこと、どうでもよかったし、悔しいとさえ思う余裕もなかった。
 ただ、少しでも何かを、罪滅ぼしに繋がる何かをしなければ、という気持ちで一杯だったんだ。


 結局俺は、チームのおみそとしてみんなにくっついて行くことになった。
 一緒に現場に出られることになり、俺の気分はずいぶんと楽になった。
 シスターも俺の気持ちは分かっていて、快くOKしてくれたようだ。

 で、現状では片腕しか使えないので、普段は使わない、携帯性の高い小型の銃を使用することになった。
 ま、小物くらいならこれでなんとか。
 マガジン換えるのも大変だし、弾がなくなったら、後はその他の武器でどうにかするつもりだ。

 基本的に狩りは、地区単位で計画的に行うのが常だ。
 正確に言えば、一度狩った区画を数日ほど放置する。すると、二度目には、ゲートに残ったケモノがきれいに出尽くす。

 その異世界のルールを一応信用して、普段俺達は効率的に狩りを行っているのだが、今回ばかりはどこまでそれを信用していいものやら、とシスターベロニカは不安に思っているようだ。


「んじゃ出かけるぞー」

 まるで家族でショッピングセンターにでも行くようなノリで、吉富さんはみんなに声をかけた。
 表に出ると外は真っ暗。やつらの活動する時間だ。
 肌の出ているところが急激に冷えていく。冬の仕事はやっぱしんどいな。

 教会の裏の駐車場に駐めてあるランクルだかパジェロだかみたいなゴツい4WD車にみんなで乗って、今日の現場へと出発した。

 いちいち地元警察に文句を言われるのもうっとおしいので、教団の車には目印のリボンまたはステッカーを貼ることになっている。
 うちらの活動は地域住民のためなんだから、本来文句を言われる筋合いはないんだが。

 今日の現場は、今朝調査をしたエリアとは真逆、東南の端。
 カマキリが沸いた場所のもっと先の方にある、大きな印刷工場の敷地内だ。

「あー、そろそろクリスマスかー」
 車内でメンバーの一人、鶴田さんが街道沿いに飾られたイルミネーションを見てつぶやく。

「教会でもクリスマス会の準備してますよ」と俺。

「世間様を欺くためとはいえ、ニセ教会がクリスマス会までやる必要があるのかねえ」
 と、別のメンバー、亀山さんが言った。

「ニセ教会だからこそ、必要なんじゃないか」
 と吉富さんが諫めるように言った。
「そこまでやらねえよな、ってくらいやらないと、信用は生まれない。どこにでもある町の教会という風情、そのイメージを市民に浸透させるのが大事だ。
 それに、日頃から子供を預かって面倒を見てくれる人間を悪く言う奴ぁそうそういない。良くも悪くも、子供ってのは印象操作には格好の材料なんだよ」

 まったくもって、吉富さんの言うとおりだった。

 教会の表の部分を担っているのが、一般職のシスターたちだ。
 神父が存在しないところも、女性で固めてイメージを重視している証拠さ。

 そんなんだから、たまたまレアポップした若い神父(つまり俺)に海紘ちゃんが胸キュンしてしまったワケなんだけど。

 日頃から近隣住民のみなさんに溶け込み、様々な行事に参加したり、イベントを行ったりしているが、ほとんどが子供がらみのもの。
 あまり敷地の中に面倒そうな大人を入れたくないから、ってのもその理由らしい。

「俺、こないだ業者の人が搬入したクリスマスツリーの下敷きになっちゃって……」
「なんじゃそりゃ」
「礼拝堂のドアを開けたら、いきなりドサっと倒れ込んできて、それでペッタンコに」
「「「「「わはははははは」」」」」
 車内がどっと沸いた。そんなにウケるような話だったかなあ?

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