美少女(攻略対象)まみれのハーレム・スターウォーズ!!

「あんたはいったいなんなんだ!!」

エピソードの総文字数=4,047文字

 ~~~小山妙子(こやまたえこ)~~~



 晩飯の後、晩酌する父さんを尻目に部屋に戻った。
 机に向かって勉強を始めた。
 カテゴリは生態学。
 自然環境における昆虫と植物の生態圏について。

 もちろん学校の勉強じゃない。
 植物学者や昆虫学者になりたいわけでもない。勉強すること自体が好き、というのともちょっと違う。
 だけど自分で決めた、将来の自分のための勉強。
 
 どんな自分像なのかって? そ、そりゃあまあ、いろいろあるんだけどさ……。


「……なーにしてんの姉貴? ひとりでニヤニヤしちゃって、ちょっとマジでキモいんすけど……」

「うおぅっ……!?」

 いきなり後ろから声をかけられて驚いて、思わず本を机から落とした。

「……なにこれ。アラン・ヘッケル? どこの学者よ。つか何人よ。いやむしろ何語なのこれ……」

 床に落ちた本を拾ってタイトルを眺め、完全にどん引きする千草(ちぐさ)

「うっさい! 返せ! そして入って来るならノックぐらいしろ! いくら姉妹とはいえ、親しき仲にも礼儀ありだろ!」

「ちゃんとしたよー? 姉貴が聞いてなかっただけっしょー」

 千草はけたけた笑いながらベッドに腰掛けた。

「いくら声かけても反応なし。ぴくりともせずに机に齧りついてニヤニヤ勉強してんの」

「う……っ、そんな顔してた……? あたし……」 

 頬をぐにゅぐにゅと揉む。
 勉強してる時に自分がどんな顔をしてるかなんて、意識したこともなかった。

「んーで、誰のこと考えてたのよー?」

 によによいやらしい笑いを浮かべる千草は、見た目もいやらしい。
 年齢的にはあたしより一歳下の中学一年……のはずなんだけど、高校生といって言いくらいの迫力あるボディをしている。顔も大人びていて、外出する時はちょっと化粧もしたりしてて、グラビアアイドルにスカウトされったってのもまんざら嘘ではなさそう。

「べ……別に、勉強してただけだっての! 誰のことも考えてなんているもんか!」

「おーおームキになっちゃって。かーわーいーいー」

 変な拍子で手を叩いて自分でウケてる千草。

「ほんっとわかりやすいよね、姉貴って」

「う……ぐ……っ」

 見透かされたような気分になっていたたまれなくなって、あたしは「うっさい! 死ね!」と吐き捨て、取り返した本を開いた。

「はいはい死にまーす」

 千草は芝居じみたしぐさで胸を押さえ、ベッドに寝転がった。

「しっかし報われないよねー姉貴も。家事全般に食事の世話までしてあげて、あげく見えないところでまでこんなに一生懸命尽くしてるのに、タスクさんは全然振り向いてくれないんだもん」

「だ……誰が! 死体が喋るな!」

 振り向いて怒鳴りつけたけど、千草はあたしを無視して本棚に目をやっていた。

 そこには無数の本が詰まってる。
 学校の教科書参考書じゃない。医学や工学、科学化学に動植物学、法学神学などの専門書。多元世界の関連書籍まで網羅している。
 一般的な中学生が必要とする以上の知識や知恵の結晶が、そこには詰まっている。

「……こんなに回りくどいことしてないで、ストレートに遊園地でも誘えばいいのに。仮にもアタシの姉貴なんだから、その野暮ったいメガネ外してきちんとした格好すれば、向こうだってほっておかないと思うよ?」

「だからあたしは別にあんなやつのこと……」

「まぁたー。そんなことばかり言ってムッツリをこじらせてー。どうせあれでしょ? 枕を干すっつって匂いを嗅いだり、手荒いするとか言ってシャツに顔埋めたりとかしてるんでしょ? うわぁ……自分で言っててマジキモい。姉貴。さすがにそれは引くわー」

「勝手に変なキャラ付けすんな!」

「ホントにしてない?」

「してない!」

「でもちょっとはしたでしょ?」

「してない!」

「実はこの前、姉貴のあとをこっそりついて行ってたんだけど……」

「……見たの!?」

「えっ」

 あっ。

 一瞬間を置いて、千草は爆笑し出した。

「ホントかよ姉貴!? ホントにそんなことしてたのかよ! 冗談だったのに大物が釣れちゃった! あっははは!」

「死ね! マジで死ね!」

「マジウケる! 超ムッツリ!」

「うるさい黙れ! とっとと出てけ!」

 涙を流しながらベッドをバシバシ叩く千草。

「ぐ……知らん! もう知らん!」

 あたしは顔を真っ赤にして勉強机に向き直った。
 噛みつくように本に取り組んだ。

 だけどやっぱり、活字は頭に入ってこなかった。
 煮えたぎった頭の中を駆け巡るのは、自分が今までやってきた恥ずかしい行為の数々だ。
 あいつが寝てる時にそっと頭を撫でたり、頬にキス未遂したり、横に寝そべって添い寝っぽくしてみたり……ああ、死にたい。

「いいよー、姉貴。ナイスファイト」

 千草はあたしの肩に手を置き、意味不明なサムズアップをしてきた。

「でも出来ればさ、そのガッツはもっとストレートに叩きつけたほうがいいと思うんだ」

「出来るかそんなこと! つーかそもそもあいつに、そんな色仕掛けなんて通じないしっ」

「あーあーあー……」

 末期の病人を憐れむように、千草は首を横に振った。

「……あのね姉貴。前から思ってたんだけど、姉貴はタスクさんを美化しすぎなんだよ。世の中にそんな綺麗な心の男なんていないの。どんなにお話の中のヒーローみたいなやつだって、可愛い女の子がちょっと声をかければさ……」

「──通じない」

 自分自身に言い聞かせるように、ぴしゃりと遮った。

 新堂タスク、あたしと同じ14歳。
 背は高くなく、顔立ちだっていたって人並み。
 ふわふわ明るい茶色の短髪と、くりくり愛嬌のある目が特徴だが、可愛いカッコいいってほどではない。だけど周りの女子は何かとキャーキャー騒いでる。
 騒いでるんだけど……。

「あいつの辞書には女の子と遊ぶとか余暇を楽しむなんて言葉は載ってないんだよ。すべての時間は未来のため、冒険者になるため、多元世界に行くためにあって、それ以外は全部無駄。余計なことなんだよ。そりゃああいつだって健康な中2男子だ。女子とのあれやこれやに興味がないわけじゃないだろう。でもそれ以上に忙しすぎるんだよ。冒険者になるための努力、訓練。そのためにあいつは睡眠時間すら削ってるんだ。部活も委員会にも参加しない。登下校は常にダッシュ。どこにも女の子と過ごす時間なんてない」

 ──だからそんなこと、あり得ないんだよっ。

「……っ」

 あたしの剣幕に、千草は呑まれたように口をつぐんだ。
 
「ち……っ」

 ムキになったことが恥ずかしくて、あたしはがりがりと頭をかきむしった。


 21世紀半ば──突如として発生した(カラミティ)と呼ばれる大規模災害。たて続いたゲートの解放。
 それは当然だけれど、多くの被害者を生んだ。死亡者、行方不明者の数だけで100万人を超えるはずだ。
 タスクのご両親の名前も、膨大な行方不明者リストの中に含まれている。

 ──殺したって死なないよ。あの人らは。

 タスクは笑って言うけれど、でもそのことがあって以来、あいつの冒険者志望は明らかに強まった。
 ここじゃないどこかへ行きたがった。
 もともとそういうやつだったっていう人もいるけど、でもあたしは思うのだ。
 タスクは多元世界の狭間に消えた両親を自力で探しに行こうとしてるんじゃないかって。
 だからあんなにも向こう見ずで、いつも走ってばかりいるんじゃないかって。

 タスクのお姉さんのタバサさんは、そんな弟のことが心配で心配でしょうがないみたいで、海外の仕事先からちょくちょく連絡をくれる。

 弟は生きてるか。
 食事は摂ってるか。
 危ない目に遭ってないか。

 だからあたしはあいつを見ていなければならない。
 あいつがふらっとどこかへ行って、危険な目に遭わないようにしなければならない。
 出来ることならばずっと隣にいて、手綱を握っていなければならない。

 それこそメリル・エルクみたいに。

 メリル・エルク。
『英雄は眠らない』の主人公、火裂東吾(ひざきとうご)のヒロイン役の少女だ。
 他の見目麗しいバトルヒロインズに比べて、彼女は平凡な女の子だった。
 特別頭がいいわけじゃない。戦闘能力があるわけじゃない。顔立ちも体つきも平凡。特殊な出自も何もない。
 だけどいつも、火裂東吾の傍にいた。
 多くの古典を読みこんでいたから。秘儀伝承を学習していたから。行動学に科学化学、彼に必要となるだろう知識を非凡な努力でその身に宿していたから。どんなに危険な状況でも常に冷静で、それらを臆さず余さず伝えることができたから。
 彼のためのたゆまぬ努力が報われ、彼女は命がけの最後の冒険にすら同行することを許された。


「……ふうーん」

 千草は自分で話を振っておきながら、急に興味をなくしたかのようにテレビのリモコンを持ち上げた。

「……じゃ、これはどういうことなんかね」

 画面に映し出されたのは『嫁Tueee.net』だった。
 賑やかな女性のインタビュアーが、勝利者コメントを聞き出している。

 ふと聞こえて来た名前に、あたしはわが耳を疑った。

「──やー。どうですかシロさん。今回のパートナーの方との相性が良いようですが。えっと……なんとおっしゃいましたっけ……。地球人の……シンドー……タスクさん?」

「は……?」

 立ち上がることすら出来なかった。
 あたしは間抜け面で中継を見ていた。
 だらしない笑いを浮かべているタスクの隣に、多元世界の美少女が立っていた。

 ……隣で。
 ……あたしのいるべき位置で。
 そいつは、タスクの服の裾を摑んでいた──。

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