犯人推理ノベル「消火栓」

8話 プライベートタイム! その2

エピソードの総文字数=2,882文字

なんだ? と思い、僕は、
若宮・・・
と、おそるおそる部屋をのぞいてみた。

若宮は、暗い部屋で、ベッドに腰掛けて
ぼけーっと天井を見ている。
ああ、弘樹か
なにやってんだ、若宮。
ドアの前にある塩はなんなんだよ
僕はそれとなく聞いてみた。
ああ、あれか。清めの塩だよ。
おまじないの一種さ
おまじない?
僕はキョトンとした。

若宮がそんな迷信じみたことを言うなんて意外だった。
どうしてそんな事してるんだ?
弘樹、お前知らないのか?
いつになく若宮は真剣な顔をして言う。
なんのことだよ?
霊の道だよ
霊の道?
僕は聞き慣れない言葉を繰り返した。
女子寮じゃ、有名だぞ
もったいぶらずに教えろよ
僕は興味を持って、ベッドに腰掛けた。

ベランダの方を見ると、女子寮から光が見える。

きっと、マネージャーの鈴原の部屋からだろう。
部屋が暗いので、外の光がよく見えるのだ。

学校の近くを通った車のヘッドライトの光が、ぬうっと若宮の部屋の天井をおどった。

僕は、その光に浮かび上がった若宮の顔を見た。

いつもふざけて、人を小バカにしている若宮が、やけに真剣な表情をしている。
いいか弘樹、これは冗談でも嘘でもなくて、本当の話だからな
念を押す若宮。
分かった
俺の言うことだから冗談だろとか言わないでくれよ
い、言わないよ
僕は念を押す若宮に圧倒されて答えた。
じゃあ話してやろう。お前、1年前、ちょうど今頃、女の子が編入したの、 知ってるか?
女の子? そんな子いたっけ?
知らないだろうな。今はもういないからな
若宮は、間を入れて、
自殺したんだよ
と、まじめな顔で言う。
僕はギョッとした。

・・・自殺? まさか、そんな話は聞いたこともない。

嘘だろう、と言おうとして、思わず言葉を飲み込んだ。
若宮は僕の顔を見て、
お前、俺を疑ってるだろ
と、さぐりを入れてきた。
疑ってないよ。
…でもそんな話、聞いたことないけど
若宮には申し訳ないが、やはり、いつもの作り話だろうと思ってしまう。
本当の話だから疑うなって言っただろう。
本当なんだよ。先生達も秘密にしてるからな
でも、自殺したらみんなが騒ぐだろ
僕は当然の疑問を若宮にぶつける。
だ、か、ら、問題はいつ自殺したかって事だよ。
編入生っていうのは、寮に慣れるために、みんなが帰省している夏休みに、何泊かするんだよ。
今日やって来る編入生もそのためだと思うぜ
若宮は、女子寮の光を見つめ、話を続けた。
その夏休み、女子寮のある部屋でその女の子は自殺したんだ。
首をつって
・・・ホントかぁ? 僕は首をかしげた。
にわかには信じがたい話だ。
女子寮の何号室で死んだんだよ?
それは先生が隠したよ
隠したなら、自殺したことも生徒にバレるわけないだろ
僕は嘘をあばこうと試みた。
しかし、若宮は答える。
新聞に載ったんだよ。岡山高原高校で女子生徒が自殺したって。

2学期が始まって女子はみんなビビってたそうだ。
だって、ひょっとしたら自殺したのは自分の部屋じゃないかって思ってね。

どの部屋で死んだかは分からないし、先生達も口が堅くて教えてくれない
ふうむ。・・・これが本当の話なら、確かに怖い。
で、その部屋は結局、今も分からないのか?
それが最近、分かったんだ
え、どうして
僕はつばをゴクリと飲み込んだ。
霊感の強い女の子が見たそうだ
何を・・・?
自殺した女の子の霊を
虫が網戸にぶつかったらしく、ブーンと音を立てた。
むかつく虫だ
若宮は、ベッドの横に置いてあった殺虫スプレーをシューッと闇に向かって放出する。

虫はベランダに落ちたらしく、ブンブンと苦しそうに、断片的に羽音を鳴らしながら、だんだんと弱っていって、ついには静かになった。

若宮は話を続ける。
女子はみんな怖くて、夜中にトイレに1人でいけないから、何人かで一緒に行ったそうだ。
だけど、たまたまその霊感の強い女の子は1人で トイレに行った。

トイレに入った時から、すでに何かオカシイと感じたらしい。
用を済ました後、ふと、物干し場を見ると、白いシーツが干してあったそうだ。

でも、よく見るとシーツの上の方に顔が見えるんだ。

その顔は女の子の顔をじっと見つめていたそうだ。

無表情でね。

で、ここからは恐怖のあまり、断片的にしか覚えていないらしい。

気がつくと、顔は消えていて、シーツのようなものは風でヒラヒラしていたそうだ。

何かの見間違いだと思った瞬間、シーツがガラスをすり抜けて、廊下の中で舞ったらしい。

シーツが、自殺した女の子の服なのかはよく分からなかった。

でも、ある部屋に入って行ってしまった。

霊感の強い女の子は、「あっ」と思って、後を追いかけた。

その部屋のドアを開けると、なんと、女の子が部屋のまん中で首をつっていたそうだ。

他の女子が寝ている真ん中でね。
電気のスイッチを押しても明かりはつかない。

みんな起きてって叫んでもまったく目を覚まさない。

気がつくと、再びシーツのようなものがガラスをすり抜けて、外へ行ってしまった。

その霊感の強い子はその場で気を失って、次の朝、その部屋の女子に起こされた。
若宮の目は真剣だった。
ど、どうしてその話を若宮は知ってるんだ?
続きを聞けって。

その霊感の強い女の子は、その出来事を当然、友達に話した。

そりゃあ、みんな震えあがったよ。

首をつったと思われるその部屋の女の子たちは、みんな他の部屋で寝るようになったそうだ。
それからその部屋で霊を見たって女の子が続出した。

しばらくして、なんと、男子寮でもその霊を見たって言う奴が出てきたんだ。

その霊感の強い女の子が言うには、霊の道っていうのがあるそうだ。
ガラスをすり抜けて消えていったのは実は霊の道で、その道は1直線でつながっているらしい。

その直線上で霊は見えるそうだ。

その自殺した部屋と北を結ぶ線。
それがちょうど男子寮で交わる。

だから男子寮でもその霊を目撃する奴が出てくる。

なぜ俺がこんなに詳しくこの話を知ってるかって?
若宮は一呼吸置いて、
教えてくれたんだ、その霊感が強い 女の子が。

霊の道はちょうど俺の部屋を通ってるって
僕はぞっとした。
・・・今いるこの場所が、ちょうどその霊の道の通過点なのか・・・
その子に聞いて、おまじないを教えてもらった。
それがあの清めの塩なんだけど。
果たして効果あるのかどうか
若宮は人ごとのように言う。
若宮はその霊を見たことあるのか?
ねーよ、そんなもん。俺、霊感とかないし
僕は怖くなって、急にソワソワしはじめる。
で、何で電気を消してるんだ?
僕は光がほしくて、電気をつけたかった。
こんなふうに暗くしてたら、出ないものも出てきそうだ。
ああ、その子が言うには、この時間帯は音を立てたり、電気をつけたりしないほうがいいらしい
時間帯?
自殺した時刻さ
僕は完全にビビってしまい、早くこの部屋から出たかった。

若宮が毎日、こんないわく付きの場所で生活していたなんて、知らなかった。
僕だったら怖くて夜も眠れないだろう。

平然としている若宮が、なんだか分からなくなってきた。
じゃ、俺、もう行くよ
僕は一刻も早くこの場所を離れたかった。
ウケケケッ
若宮が「怖いのか?」とでも言うように、奇妙な声で笑った。

どう思われてもいい。
僕はそそくさと部屋を出た。
つづく

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