頭狂ファナティックス

ショッピングモールの生活

エピソードの総文字数=2,128文字

 銀太たちがショッピングモールで生活をするようになってから三日が経った。
 そのあいだに三人はここでの生活のルールというものを覚えた。良識に反しない限り、どのように振る舞うかは自由だったが、先日の件が実例であるように、いかなる事情があれ風紀を乱すことは控えるべきだった。誰も口には出さず、暗黙の了解ということになっていたが、性行為も風紀紊乱を助長するものとして禁じられていた。楓子は滅多なことでは銀太たちに顔を出さず、いつも七星とともに行動していた。紅月はこれまで自分に心酔していた楓子がその対象を七星に鞍替えしたことにより、面白くないと三日のあいだに何度もぼやいていた。
 ショッピングモールの住人たちは寮で生活している生徒たちよりも気楽に構えていた。しかしその態度は食料の確保や物資の安定供給、安全の保障への意識から来るものではなく、ショッピングモールの一員であるという優越感から来るものであった。本当のところ、生活水準はショッピングモールの外と劇的に変わるものではなかった。
 ショッピングモールにはトレーニングジムが併設されており(そこでの運動を紅月は日課にした)、シャワールームも設備されていたために、汗を洗い流すことができた。しかしシャワーの数は多くなく、いつでも混雑しており、ときには沐浴を諦めなければならなかった。
 生活するにあたって毛布も支給されたが、冬の寒さを凌ぐには数が少なく、紅月と秋姫はそれぞれの毛布を重ね合わせて、一緒に包まることで寒さに対処していた。
 ショッピングモールにはひっきりなしに外部の人間が訪れたが(その目的の大半は仲間に入れて欲しい、さもなくば食料を分けて欲しい、というものだった)、ほとんどが門前払いを食らった。中には重傷や重病を負った人間もいて、その場合は建物の中に入れられ、医者の治療を受けた。元からショッピングモールにあった医務室で治療は行われ、病人たちはそこに寝かされていた。特例で仲間に入れてもらった自分がまったく役に立たないのは申し訳ないという理由で、一日中秋姫はその医務室で看護士として働いていた。
 三日間のあいだ、無論三人は八人目の生徒会役員について話し合った。理事長、理事会役員、綴の殺され方が同じであることから、犯人が同一人物であることは疑いがなかった。銀太たちが探すべき相手は八人目の生徒会役員と断定して間違いはない、ということで三人の意見は一致した。銀太はできるだけ恒明から聞いた情報、つまりは銀太が知らないことになっている情報を思わず口に出さないように注意しながら、その八人目の生徒会役員がこのショッピングモールにいる可能性へと話を向けた。
確かにその生徒がここにいてもおかしくはない。殺人犯は他の空白組に正体を隠しているらしいから、実験棟で生活しているわけではないのだろう。その殺し方から見るに、殺人犯のコンプレックスは異常性が高い。そのコンプレックスを知れば、その能力者が犯人だと特定できるだろう。
常盤先輩はここの住人のコンプレックスは全員把握していると言った。犬童先輩だけは例外だが、とも付け加えたが。常盤先輩が犯人のコンプレックスを知っているならば、すでに犯人を特定しているはずだ。ここに犯人がいるとしたら、そいつは自分のコンプレックスについて嘘を吐いている。
犬童先輩が殺人犯だと考えるのは、短絡的すぎますか?
 秋姫が些か怖気づきながら聞いた。
もちろん、その可能性もあるっす。しかし決めてかかるのは推理の混乱を招きます。そもそも犯人がここにいるというのも仮定でしかない。けれどもここから易々と出られない以上、今のところはここの住人について調べるしかない。
そのためには常盤先輩の協力が不可欠だ。しかし先輩自身は八人目の生徒会役員の正体に興味がない様子だった。協力してくれるように説得するのは骨が折れるだろう。それに常盤先輩は管理者としての立場から住人のコンプレックスを他人に教えるような真似は決してしない。何より、殺人犯の正体が判明しても常盤先輩には利益がない。しかし常盤先輩が協力してくれても、してくれなくても、のんびりと生活しているわけにもいかない。どのみちここの住人には探りを入れなければならない。
 三人が殺人犯について話し合っているうちに、夜の食料配給の時間になった。三人は玄関ホールに向かった。玄関ホールではすでにショッピングモールの住人たちが列を作っていた。その先端にいくつかの段ボールに入った食料が置かれ、楓子と二人の手伝いの生徒が夕食を配給していた。三人も食料を受け取ると、フードコートにあるテーブルの一つに陣取った。自分の部屋で食事をとる人間もいるが、多くの住人はフードコートに集まって仲間と談笑しながら食事をとるのが習慣になっていた。一日に二回の食事は住人の多くが一ヶ所に集まる数少ない時間であり、籠城しているストレスから滅入るような空気が漂っているショッピングモールでは珍しく活気が溢れるときだった。銀太たちもフードコートで食事をとることにしていた。三人が少しばかり足りない食事に手をつけようとしたとき、夕食のトレイを持った一人の女生徒が話しかけてきた。赤藤だった。

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