ウラガワヒロイズム

第1話/Bパート

エピソードの総文字数=2,268文字

(購買部、今日も混んでるなぁ。
イチゴサンドイッチかイチゴドーナツ、
片方だけでも残ってるといいけど)
とりあえず、並ぼっか。
あたし、こっちの列にするから。
買ったら窓際のテーブル行ってて。
うん、わかった。
またあとでねー。
うおっ、赤川じゃん。
後ろに立つと回し蹴りくらうぞ。
あっち並ぼうぜ。
あ、ああ。
しっかし、赤川って顔も声もかわいいのに、
なんかもったいねえよな。
だなー。
(全部こっちに聞こえてるんですけど……。
うぅ、でも蹴りは事実だし、ごめんなさい……っ!
――ん? なんか入口からきゃーきゃー声がする。
あ、さっきの人たちだ!)
優音くん、なんか食べたいものある?
あたしたち、黒杉さまのために買ってきます!
この混雑だし、君たちにそんなことはさせられないよ。
でも、気持ちはほんとに嬉しい。ありがとう。
きゃー!! ステキー!!
(うわぁ……。
本人も、ああいうノリには慣れっこなのかな。
まあ、人気声優さんなら、
愛想笑いとかファンサービスとかも大事だもんね)
あんたたち、元気なのはいいけど、押さない押さない。
――はいよ、コロッケパンとカツサンドね!
(やった、イチゴサンドイッチが残ってた!)

すみませーん。
焼きそばパンとツナマヨデニッシュと、
揚げカレーパンとウィンナーロールと、
コッペパンとチョコクロワッサンと、
あとイチゴサンドイッチください!
はいよっ。
真広ちゃん、今日もたくさん食べるねぇ。
えへへ……。
今日も撮影が明け方までだったので、
動き回ったあとだとお腹空いちゃって。
ロケ弁も食べたんですけどねー。
大変だねぇ、ご苦労様。
うちの末っ子も毎週楽しく観てるよ、
『独創戦隊オリジンジャー』。
こないだの話も、真広ちゃんのアクションすごかったね!
ありがとうございますー!
ゲスト怪人役ですけど、精一杯がんばりましたっ。
きゃー!!
ん!?

(これは黄色い声援じゃない……悲鳴!?)
あたしのお昼のパンが、ぐちゃぐちゃに……!
んだよ、ボケッと突っ立ってるのが悪ぃんだろうが。
あーあ、うっかり踏んじまって靴が汚れたなぁ。
オラ、早く拭けよ。
ひっ……そ、そんな……っ!
(あの子、黒杉くんに話しかけてたファンの子だよね?
黒杉くん、近くにいて聞こえてるはずなのに、
どうして助けないの?
突っかかってる人は、青いネクタイだから3年生みたいだし……。
あーもう、見てられないっ!)

おばさん、パンありがとうございます!
おつりは要りません!
あ、真広ちゃん!
(深呼吸、深呼吸……落ち着け、真広)
あ? んだよ、てめえ。
割り込んできやがって。
あの、これ。
わたしがいま買った、ツナマヨデニッシュなんだけど。
よかったら、どうぞ。
え……あたしに?
うん。
わたしはいつもたくさん買ってるし、おすそ分けってことで。
潰れちゃったパンは、もう食べられないもんね。
あ、ありがとう……!
おい、シカトしてんじゃ――。
わたしの後ろに立たないで!!
ぐおあああああッ!?
で、出たー! 赤川の回し蹴り!
速すぎて足が見えねえ!
いつ見ても鋭すぎるし、すげー痛そう。
どんだけ吹っ飛んだんだよ、あの3年……。
先輩、ごめんなさい!
でも、ハッキリ言わせてもらいます。
――食べ物を粗末にして、女の子を泣かせるのは最低です。
この子に謝ってください!
……ッ、ざけんなよ。
このままタダで済むと――。
わたしはちゃんと見てたわけじゃないので、
先にこの子がぶつかって転んじゃったのか、
先輩のほうからそうなったのかはわかりません。
でも、なにもここまでしなくたっていいでしょ。
たとえば、混んでる駅のホームでも、
自分がだれかとちょっとぶつかっちゃったら謝りますよね。
小さい子どもたちでもわかってることです。
高校生のわたしたちができないなんて、おかしくないですか?
あ、あのっ!
あたしも、さっきは周りがよく見えてなかったかもしれなくて……。
先輩とぶつかっちゃったのも、あたしの不注意だと思います。
だから……すみませんでした。
これからは気を付けます。
チッ……次はねえからな。
危ないとこだったね。大丈夫?
さ、僕の手につかまって。
あ、黒杉さま……!
は、はい、だいじょうぶですっ。
ありがとうございます!
(なっ……黒杉くん、いいとこ取り!?)
あ、あなたも。
パン、ほんとにありがとう。
今度、お礼させてね。
え?
ううん、気にしなくていいよ。
ケガがなくてよかった。
素晴らしい蹴りだったよ。
アクション女優さんかな。
僕のファンを守ってくれて、ありがとう。
(この人、やっぱりムカつく……!
演技力の高さはすごいけど!
わたしも一応笑っとかないとなぁ)

ど、どういたしましてー。
――ちょっと、真広。
だいじょうぶだった?
あ、うん。
一件落着、かな。
ごめんね、うるさくしちゃって。
いいけど。
さっきの3年生、
確か体育コースでバスケ部の副キャプテンだった人だよ。
元々荒っぽくて、後輩たちはビビってたみたい。
そうなんだ……。
確かに目つきは悪かったけど、
嶽内(たけうち)アクション監督のお怒りモードに比べたら、
全然怖くないよ。
あんた、デビューの頃から叱られっぱなしなんだっけ?
うん……。
ちゃんと愛のあるお叱りだからいいんだけどね。
でもやっぱり、お芝居もアクションも、
もっと上手くなりたーい!
うん、その意気やよし。
さっきの真広も、『ヒーロー』しててかっこよかったよ。
えへへ、ありがと。
――女の子はレッドにはなれないけど、
心はいつもレッドでいたいんだ。
――ねぇ、広翔おじちゃん。
わたし、これからもがんばるから。
おじちゃんみたいな、かっこいいヒーローになれるように。

未熟で下手くそで空回りも多いけど、あたたかく見守っててね。

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