頭狂ファナティックス

安堵

エピソードの総文字数=2,057文字

 銀太が紅月の部屋に戻ってきたとき、その姿に二人の少女は仰天の声を上げた。銀太は全身が血塗れで、さらに下半身には何も履いていなかった。『石蹴り遊び』の能力では下半身を再生することはできても、ズボンまでは修復することができなかったのだ。それでも二人の少女はすぐさま銀太に駆け寄って質問を浴びせた。
おいおい、どんな戦い方をしたらそんな格好になるんだよ。
銀太くんが戻ってきたということは守門さんは……。
 今にも胸倉を掴んで揺すぶってきかねない二人の勢いを銀太はそれぞれの頭に手を乗せて押し留めた。
決闘の顛末を話す前に、しなければならないことがある。まずはズボンを履かせてくれ。こんな姿だが、致命傷は負っていない。もちろん、切り傷や擦り傷は無数にあるが。
 二人の少女が見守る中、銀太はズボンを履くと話を続けた。
次に紅月の右手を修復する。今の僕は『石蹴り遊び』を発現している。お姉ちゃんの右手を紅月に接合する。
 三人は銀太の部屋に移動した。銀太は綴の遺体が安置されているベッドにかかっている毛布をわずかにめくり上げると、鋏で姉の右手を切断した。そしてその手を先が欠損している紅月の右腕に接合した。紅月はしばらく接合された右手を見つめていたが、そのうち、思わずといった調子でぽつりと呟いた。
これが綴ねえの手か。俺のよりも大きくて、柔らかいな。
その右手はもうお姉ちゃんのものではなく、紅月のものだ。変な感傷は起こすなよ。時間が経てば、完全に紅月の手になる。
それはわかっている。それが『石蹴り遊び』の能力だからな。
それが銀太くんの第二のコンプレックスですか?
 二人の後ろから一連の手術を眺めていた秋姫が聞いた。
そうです。『石蹴り遊び』と名付けています。これよりもさらに励起したことはないですね。
 三人が再び紅月の部屋に戻ると、銀太は恒明との決闘の成り行きを語った。しかし恒明との約束通り、その結末だけはでっち上げた。
僕たち二人はお互いに瀕死まで追い詰められた。このまま意地を張り続ければ、二人とも死亡してしまう状況まで。先に折れたのは守門先輩の方だった。守門先輩は降参した。そして僕たちは二人のコンプレックスを駆使して、何とか一命を取り留めた。だから勝負は僕の勝利ということになるが、二人とも生き残っている。
そうかそうか! お前は空白組の一人に勝ったんだな! 偉いぞ!
 紅月は銀太に飛びついて、その頭をわしゃわしゃと両手で撫でまわした。
ともかく早急に聞くべきことは聞きました。銀太くんはお風呂に入って、ゆっくりと血を洗い流してください。
 銀太は秋姫の言葉に従って風呂に入った。湯船に浸かると、身体中の傷が痛んだ。しかし痛みを我慢しながら銀太は全身の汚れを落とした。
 銀太が風呂から上がると、秋姫は傷を見せてくださいと言った。秋姫のコンプレックスで対処できる小さな傷口はふさぐとのことだった。銀太はパジャマをはだけさせて全身の傷口を見せた。秋姫は傷口に手を当てるのではなく舌を這わせ始め、予想外の行動に銀太は身じろぎをした。
すみません、私の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は自分の体液を塗布した方が効果があるんです。気持ち悪いかもしれませんが、我慢してください。
 銀太は否定の返事もせず、黙り込んだまま秋姫に身体中を舐められるままになった。その光景を紅月は二人の仲の急接近を祝福するとも、嫉妬するとも言えない複雑な表情で眺めていた。秋姫の能力でふさぐことのできる傷をすべてふさぎ終えると、三人は昼食を取ることにした。食事をしながら銀太は今後の予定を切り出した。
明日になったら三人でショッピングモールに行こう。すまないけど、今日は休ませてくれ。目的は紅月のために抗生物質を貰うことと、常盤先輩と共闘の協定を結ぶことだ。僕たち全員をショッピングモールの一員に入れてくれるかはわからないが、紅月と協定を結ぶことはしてくれるだろう。どちらにとってもデメリットはないはずだからな。
理事会側は紅月と常盤先輩の殺害命令を取り下げたが、仮にも空白組という立場がある以上、何か厄介事に巻き込まれないとは限らない。食料や安全の確保のためにも常盤先輩と協定は結んでおくべきだ。僕たち三人だけの生活では、いつ限界が来るかわからない。
紅月さん一人だけショッピングモールの一員にしてくれる、という場合はどうしますか?
 秋姫が不安気な表情を浮かべながら聞いた。
一昨日とは状況が変わって、俺の右手は再生した。何が何でも治療を受けなければならない、というものではない。右腕の治療のために俺が常盤先輩の傘下に入ることを交換条件にされたら、素直に飲み込むという話だったがその必要もなくなった。ただ傷口から入った微生物を殺すために抗生物質が欲しいだけだ。『石蹴り遊び』は手を接合しただけで、傷口の殺菌までできたわけではないからな。
ショッピングモールで生活をするならば、三人一緒に受け入れてもらわなくちゃな。そうでなきゃ常盤先輩と協定を結ぶに留めて、この部屋での生活を続ける。

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