勇者の武器屋

第一八話 目指せ、御用商人

エピソードの総文字数=2,387文字

世界平和のためご苦労様だな。魔王討伐の状況はどうじゃ?
あの、宰相さん……それが……。
実はですね、アタシら、武器屋を開業しました。
……は? 武器屋、じゃと!?
だから宰相、どーか頼んます。これからは王国に、我が社の武器を納品させてください。
何をやっておるんだ!
魔王討伐のためにと王国民が供出した血税を、商売のために流用しているのではあるまいな!?
ひうっ!?
一緒に戦ってくれているメンバーの生活とか、老後の貯蓄とかが心配で! ゴメンなさい……!
いやいや、魔王を倒せることは倒せるんですよ。うちの勇者や僧侶の実力は、魔王なんか遥かに凌駕しています。もう圧倒的ですよ。
だったら、なぜ武器屋の経営なんてのを始めたっていうんじゃ!?
これには、ふかーい事情がありまして――
魔法使いは事細かに、ここに至る経緯を語って聞かせた。
半信半疑で聞き入っていた宰相だったが、やがて声を上ずらせる。
何?
魔王の正体は……魔境銀行の頭取だったと!?
その通りでして。
魔王城の玉座にいた魔族の男と、あの銀行の頭取は間違いなく同一です。
とうてい信じがたい……。私でなくとも、王も、他の大臣たちも、国民すらも誰もが信じまいて。いくら何でも証拠もなしで、お主らパーティーの話を鵜呑みにして処罰するわけにもいかない。魔境銀行の頭取といえば、あまりにも大物すぎる……。
要するに、世界最大級の大金持ちであるはずの男が、その有り余る資金力を活用して、テロリスト国家を魔界に創り上げていたということなんでしょうよ。そして着々と力を付けたのち、人間界に武力を使って侵攻を企ててきた。
それはおかしい。魔境銀行といえば、今や多くの国々の財政基盤を支えるほどの影響力を持っている銀行なのだぞ? 我が王国といえども、魔境銀行が新発国債を引き受けてくれるからこそ、なんとか財政のやり繰りがかなうというもの。
ある意味でいえば、あの銀行の頭取は世界の頂点にすでに君臨しているようなものかもしれぬ。そのような大銀行の頭取が、なぜテロリスト国家のようなものを魔界に創らなくてはならないというのか。
魔王さんとは何度かお話しているので、私には理由がわかってきたんです。魔王さんは、世界にただ一つの政府を創りたいと仰っていました。世界政府を創ることが魔王さんの夢なんです。だから最終的には武力で人間界や天界までを平定して、一気に唯一の政府を創設しようという計画だったんだと思います。でも魔王さんはあと一歩のところで私たちに阻まれてしまって……。
世界にただ一つの政府……?
バカな……。そのような子供じみた理想など実現できるはずも……。
戦闘でも経営でも魔王さんと直接相まみえてきた私の印象では、あの人は本当に本気で、この星の歴史に新しい一ページを刻む覚悟を持っているんだなって思えました。そのためならば、自分の命すら投げ出す勇気がある相手なんだなぁって。
もしその話が本当だと仮定すれば……魔王とは、既存のあらゆる秩序の破壊を企む革命家だったのだ……。王国としては、決して許容できぬ事態……。
なんだか勇者が魔王を語るとき、キラキラ目を輝かせているように見えるんだが……。
尊敬でもしてるのか? こっぴどく騙された挙げ句、一時は首を釣ることすら考えて、これだけ追い詰められてるんだぞ。
魔王さんに騙されて酷い目に遭わされたことは事実ですけど……でも、私たちなんか及びも付かないくらい未来のことや世界のことを考えている、ものすごい相手だったんだなって思います。
だが、その理想はあらゆる人間を不幸にしかねないものだぞ? 既存の秩序を破壊すれば、平和が訪れると思うのは短絡的すぎる。
魔王さんの言う世界が実現したとして、私たちは本当に不幸が運命づけられているんでしょうか? おバカな私にはわかりません。でも魔王さんが、自分の理想を心から信じているのは尊敬したいなって思えます。今どきそういう人、あんまり見かけないじゃないですか。
ある意味、クレイジーで異常者入ってるくらいのヤツかもしれないからな。その辺で見かけるわけがないぜ。
見かけないのは当たり前じゃて。だいたい本当に実在したら、思想犯かテロリストとして処罰対象にされるわけだからな。
魔法使いさんは魔王さんをクレイジーだって言いますけど、魔王さんは自分の力で銀行を一から起ち上げて、今では世界でも名だたる組織にまで成長させているわけじゃないですか。その道のりって、私たちなんかじゃとうてい想像もできないほど、途方もないものだったんじゃないかって思うんです。そして混沌の土地として多くの人たちから敬遠されていた魔界にまで進出して、魔界の大半を支配下に置いて、あんな王城を作ったり、住人をまとめたりまでしていたんですよ。そんなことができる存在って、ちょっと神がかってませんか?
……た、たしかに。
冷静に思い返せば、魔界のヤツらの魔王への忠誠心はとてつもないものだったな……。アタシらがあと一歩まで魔王を追い詰めていたのに、なぜギリギリのところで逃がしてしまったのかと言えば……魔王を逃がすために、魔界のヤツらが次々と自らの身体を張って命を散らせていったからだ。
近ごろの魔界の産業発展ぶりは、かなりのものじゃと聞いておる。もちろん人間界の繁栄と比べればまだまだ未熟で、魔族は人口も少なく、経済規模は微々たるものだが……今の魔界の経済成長率が維持されれば、20年後には人間界に追いつくのではないかとまで言われているくらいだ。それを実は魔王が為し遂げているのだとしたら、よもや我々が想像していた以上の――。
その能力、才気、統率力、人徳、理想、命を懸けた覚悟……どれを取っても超一級品だったというわけか。どうりでアタシらごとき中途半端なパーティーが魔王討伐を図ろうものならば、ここまで逆に追い詰められてしまうのも当然というわけだな……。

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