放蕩鬼ヂンガイオー

10「笑っちゃってんじゃねえかッ!」

エピソードの総文字数=2,043文字

「いいか、サンダー仮面。じいちゃんはな、おめいがヂンゲエを助けるために体張って協力するってこと自体には何の文句もねえ。むしろ卒業卒業って、最近めっきりなくなっちまってたヒーロー熱が再燃してくれたみたいで嬉しいんだ」

 オレベース二階にある従業員たちの寝室である。

 開け晒した窓からは綺麗な月が覗いていた。

「そんかわし、これだけは約束してくんな。本当にヤバくなったときは、流されるな。もしも本当の危機に直面したときは、きちんと尻尾巻いて逃げるか、もしくは……危険だと分かっていて、それでも行くか。自分の意思で決めるんだぜサンダー仮面」

 肩を叩く。これで終わりという合図なのだろう。

「その結果がどうなっちまおうが、お前が自分で決めたことならじいちゃんは二度と文句は言わねえ。以上、そんだけだサンダー仮ぶぷくっ」
「笑っちゃってんじゃねえかッ! 好き放題バカにしやがって!」

 怒りの声が安普請の部屋に響き、たんすの天板の空きスペースに飾られている無数のプラモデルが静かに揺れた。

「じゃ、ワシは今日は下で寝っから。いちおう用心しとかねえとな」

 天甚は部屋から出ようと立ち上がる。去り際、戸をくぐる前に少し足を止めた。

「今の説教は、ほんとだから。深刻になんなくて構わねえけど、いちおう頭の片隅に、な」

 とだけ言い残して階下に消えた。

 燦太郎とヂンガイ、二人で取り残されて互いにぼんやりと視線が合う。

「しっかし今日は油断したな、凛ちゃんに助けてもらえてよかったよ。まあその凛ちゃんにも正体バレたんだけど」
「あとから、おじいが電話で必死に口封じしてたのだ」
「口止め、な」

 結果として、ヂンガイの正体は雁にバレた。
 しかしその後、雁が店まで乗り込んでくるということはなかった。

 天甚から聞かされた話になるのだが、どうやらあのあと雁は娘から散々こっぴどく叱られたらしい。電話先の声は相当弱々しかったという。

 もちろん、凛だって詳しい状況を知っているわけではない。天甚からの事細かな補足・説得により先ほどようやく落ち着いたということだった。

 元をたどればヂゲン獣が暴れていることが諸悪の根源であり、ヂンガイのせいで凛が怪我をしたわけでなく、むしろ不器用ながら人々を守ろうとしている存在なのだと、しかしあんまり目立ちたくはないのだと、今ではそこまで理解してくれているという。

「あした、お詫びに来るとかいう話なのだ」
「おう。そんなの別にいいのにな、むしろ隠し事しまくってるこっちにも非があるってのに」
「たぶん違うのだ。はいこれお詫びだよーとか言って、戦闘スーツの隙間に虫とか入れられちゃうのだ。ああもう、これだから古代人は!」
「おまえ、よくそんなこと思いつくな」
「店に現れたら即座に察知して、なんとか先回りして逃げ出してやるのだ。ぷくく」

 失礼極まりない発想だが、今から取っ組み合いをする元気が残っていなかった。

 適当に無視してベッドに飛び込み、仰向けに寝転がった。

「本当にヤバくなったら……か」

 ヂゲン獣と戦う以上、いつかは本当の危険が迫ることがある。
 そのときになって、やっぱりやめときゃよかったと、ヂンガイに巻き込まれたせいだと、そんな卑しい気持ちになるなんて絶対にあってはならないことだと思う。

 なりゆきとはいえ、事情を聞いた上で断らずに協力をしているのだ。その責任は最後まで自分で持ちたい。

 十分覚悟しているつもりだったのだが、自分で思うほどうまくはできていなかったらしい。

 また天甚に心配かけてしまった。――それだけはしたくなかったのに。

「サンタロー、もう寝るのか? せっかくこんなにオモチャがいっぱいある家なのに、もったいないのだ」

 ヂンガイが首をかしげている。
 そういえば、ヂンガイの反応は何につけても新鮮だ。

 きのう今日で起こった色々な出来事を思い出す。あ、だめだ。どこを切り出してもヂンガイのぽんこつっぷりばかりがハイライトされてしまう。

 本当に、こいつとうまくやっていけるのだろうか。などと悶々と考えるが、とはいえヂンガイのせいばかりにもしていられない。今日の失敗だって、自分がもっとうまくやっていれば何とかできたかもしれない。いや? もっといえばヂンガイがしっかりしていたらそもそも協力者なんて必要ないんじゃないか?

 思考が堂々巡りする。駄目だ、頭が回らない。

「うーんむむむ。しゃあねえなあ、こういうときはアレだ」

 燦太郎は立ち上がって、棚に手を伸ばした。並べられているDVDを数本抜き取る。

「ヂンガイ、ちょっと付き合え。アキバリオンの上映会すんぞ。勉強のためにも、やっぱ本式をちゃんと見直そうぜ、俺も付き合うから」

 夜は更ける。

 不安要素はまだまだ多い。だけど、願わくばこの世界は、ヒーローが輝ける世界であって欲しい。そう思った。

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