いかに主は導きたまうか。

8. Shut Down 宣戦布告。

エピソードの総文字数=1,055文字

  京都、一乗寺のアパートはボクが潜み生活するには格好の場所だった。近くには学生向けと思われる飲食店が多くあった。東大路通は幹線の一つなので何でもあった。歩いて五分の一乗寺駅には小振りな駅前商店街もあり、そには銭湯もあった。歩いて遠出をすれば、東手には「詩仙堂」「狸谷山不動院」があり、叡山電車で北へ向かえば一時間弱で鞍馬山に至る。大阪に帰るには、一乗寺ー[出町柳ー京阪乗換えー出町柳]ー淀屋橋ー千里中央で一時間半程だった。会社まではバスで10分、自転車で30分程の距離だった。
  
  あの特殊な状態は終りに近づいていた。彼女との別離のあと、H先生をボクは訪問している。先生に、なにか直接に報告することがあったのだろう。一目見て、先生はボクの状態を見て取った。「呼ぶまで控えていなさい」だったと思う。先生が最後にボクに言われたのは。「御意」とばかりに、ボクは頭を下げて足早に家をあとにした。駅に向かう途中、最後の支えを圧っしきり、頭上より巨大な力が降りてきてボクを封印した。ボクは在らぬ彼方を見上げて、こう言った。「よかろう、今はお前達の勝ちとしよう。だが覚悟せよ。ボクは、これを間違いなく粉砕してくれよう!」と。敵の在処、姿はハッキリとボクの中に確認されていた。生まれて初めて、情け容赦なく滅ぼすことに全力を尽くせる相手を見いだしていた。このことにより闘志が涌いていた。

  この後、歯医者で治療を受けている。麻酔を打たれたので、すぐに頭がボーとなる。頭の中をいろんなダメージや思いが悪戯に駆け巡る。歯医者さんと助手の女性が三人して、なにやらボクの口の中をあれやこれやといじくっていたり、ドリルの高音が響いていたけれど、何故か彼方の出来事にしか思えなかった。ボクはボンヤリと、この時の中に蹲(うずくま)っていた。

  バスを百万遍で降りて、アパートに向かって歩き出した時、改めて確(しっか)りと自分の状態を確認した。酷(ひど)い在り様だった。あの、おかしな力場(エゴ)が体の中で歪な配置で蠢いており、ボクがボクたる為には、それなりに気を張っていないと、直ぐに同一化してしまいそうな案配だった。「なんだ、この出来上がりは!」絶望にかられる。これが、ボクの今現在の本当のデフォルト状態なのだと思いながら歩き始める。「ここから始めるのだ」と思いつつ、ボクは一人でアパートに帰って行った。

補記:H先生とは長の別れとなる。かなり先に一度だけ結婚の報告の為、ご訪問させて頂く。しかし、それもこれ限りだ。
  

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