神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の富国強兵

エピソードの総文字数=5,470文字

――tenma:

昨日の戦闘は激しかったが、我が帝国が大勝を収めたことは間違いない。日本海海戦にも匹敵するような一方的大戦果だ。俺が率いただけに仕方ない。

――Danz:

俺が率いただけに仕方wwwないwwwニュータイプの「仕方ない」頂きましたwwwwwwww

――半蔵:

帝国勝利おめでとうございますwwwwwwww

――リヴ:

どんな大勝利だったの?wwwwww

――tenma:

詳しく説明してやる。帝国側は負傷者17名、死者2名だ。だがこの俺に反逆した政府側はこちらで遺体を確認した限りでは死者107名、そして負傷者の数は不明だが数百単位の打撃を与えたことだろう。双方の死者は丁重に弔い、帝国側の遺族には今後の支援を約束してきたところだ。実にキルレート1対53.5という驚異的な戦果であろう。

――今井:

1対53.5? そんなにキルレート出るネトゲあるかな? そんな一方的なキルレートじゃ誰も楽しめないでしょ。

――tenma:

ネトゲか? 俺が以前圧倒的一位でワールドを制圧していた伝説の戦闘ネトゲ『プロジェクトX2』では、俺はキルレート1対600を叩き出していたぞ。

――IORI:

出た『プロジェクトX2』このやろうwwwwww

temmaがマジで破壊したネトゲだwwwwwwww

――半蔵:

tenma無双しすぎたせいで評判がた落ち、サービス終了にまで追い込まれたんだっけかwwwその話マジだったのwwwwww

――tenma:

俺がサービス終了に追い込んだわけではない。勝手に終わっていたのだ。

――リヴ:

アメリカと戦うとか言ってなかったっけ?ww

アメリカに勝ったの?www

――tenma:

正確には、我がアスタリア帝国軍は、アメリカをバックにした政府軍を打ちのめしたというところだろう。まずは前哨戦だ。開戦の火ぶたは上がっている。

――半蔵:

帝国軍で毎回吹くwwwwwwwww

――tenma:

いずれ軍備を整えた帝国軍は首都にまで侵攻し、そのときこそアメリカを頂点とした多国籍軍との戦闘に入る。これが第三次世界大戦への導火線となり、新時代の幕開けの合図となろう。世界は業火で包まれるはずだ。

――IORI:

第w三w次w世w界w大w戦w

俺んちも業火で燃えるんですかこのやろうwwwwwwwww

――tenma:

フッ、日本も例外でいられるはずがない。アメリカを滅亡に追いやるための行きがけの駄賃に、日本ごときは真っ先に我が帝国が蹴散らしてやろう。自分の国家が滅亡していく様子をその目に刻め。

――半蔵:

日www本www滅www亡www

――リヴ:

日本滅亡とかアメリカ滅亡とか、天馬は何が目的なのwwwwww

――tenma:

目的? 簡単だ。

この俺が率いる帝国が世界を統べる。第三次世界大戦の勃発は、そのための通過儀礼のようなものだろう。

――Danz:

tenmaが巻き起こす第三次世界大戦wwwww

――半蔵:

tenma神マジぱねぇっすwwwwwwwwwwwwww

――tenma:

もうすぐ世界は変わるはずだ、俺の手によって。

俺が神すぎる事実は揺るがない。

――IORI:

俺が神すぎる事実wwwwwwその通りですこのやろうwwwwwwwwwwwww

――リヴ:

tenmaがそこまで熱くなってるネトゲもちょっとやってみたいよねwwwなんてゲームか教えてくれないの?www

 コンコン、とノックが鳴った。

 丁寧なノックをしてくるのはイヴァだけだ。

――tenma:

じゃあなお前ら。俺はこれから帝国の富国強兵に全力を注がねばならない。

――半蔵:

富wwwww国wwwww強wwwww兵wwwww

 天馬が何を言っても草しか生やせない連中だと天馬は苦笑しつつログアウトした。
入っていいぞ。
 するとイヴァが慌てた様子で飛び込んでくる。
天馬さん! 政府のテレビで、アスタリア人が毒ガスをばらまいたと言ってます!
落ち着け、順を追って話すがいい。
先ほどのニュースで……昨日まで内戦や戦闘の話はまったく報道されていなかったのに、公共放送に政府軍の将軍がインタビューされていたんです。そこで政府の将軍が、『アスタリア人がオーレス共和国軍に化学兵器を使用し、何人もの兵士を殺傷した』なんて話していて……。
ほう、そうか……。そういうこともあるということか……。
 天馬は予想していない成り行きだった。そもそもアレは単なる、匂い付きの紫色の煙でしかない。
いいんですか天馬さん、私たちは本当は毒ガスなんか使っていないはずなのに……。
 あのあと、イヴァとエリカにだけは、今回の化学兵器についての真相を話して聞かせていた。イヴァは驚いた様子だったが、エリカは興味もない風だった。
筋書きなら理解できる。政府軍は大敗を喫した。これだけの敗北は滅多にないほどの惨敗だ。なに、この俺を相手にしてしまったのだ、当然の結末であろう。逃げ帰った政府軍の将官は、おそらく相当に厳しい立場に追いやられたに違いない。軍内でも、政府内でも、その立場が危うくなっているはずだ。そういう場合、責任者ができる唯一のことは、他の人間に責任を押し付けることだろう。化学兵器使用というショッキングな話は、責任逃れとしてちょうどいい題材だった……大方、そんなシナリオだ。
でも事実じゃありませんよ。
イヴァ、これも戦争の一つの形だ。舞台は、情報戦争に移ったのだと考えよ。案ずることはない、この俺の打ち手は何も変わらないのだからな。
 そんな天馬の断言に、ようやくイヴァは肩をなでおろす。
そう言ってもらえると安心できます……。天馬さんが大丈夫だってことなら……。
政府軍を追いやった今、しばらく余裕ができるだろう。だがここで手を休めるつもりはない。今こそ富国強兵に取り組むべきときだ。アスタリア帝国内に産業を育成し、軍備を整え、次はこちらから戦闘を仕掛けていく。
産業といっても、アスタリアにはとくに技術もありませんし……。翡翠や岩塩の産地があるだけで、アスタリア人は昔からそれを頼りに暮らしてきました……。
産業は何も工業ばかりの話ではない。観光や貿易や牧畜も、立派な産業だ。この俺さえいればどのようなことでも実現は可能だ。天才だけに仕方ない。
天馬さんさえいれば……。
この俺が国家機構を整備し、新たに起こした産業によって莫大な金を稼ぎ出し、このアスタリア帝国を世界最大の軍事国家にしてみせよう。そのために俺はここへ来た。
街では天馬さんの噂で持ち切りです。天馬さんが投入した新兵器や作戦がアスタリアに大勝利をもたらしたんだって……。もしかしたら天馬さんは私たちにとって救世主なんじゃないかって……。

 毒ガス作戦はやぶれかぶれの側面があった。天馬とて、撃たれる可能性はあったし、それを受け入れて飛び出したのだ。仮にここで自分が死ぬならば、そもそも世界には変えるような価値がないのだとすら信じていた。世界を変えるためならば、自分の命を天秤にかけていい――子どものころから天馬はそれを確信しきっていたのだ。

 だから自分が生きているのならば世界は変わるに違いなく、その未来には天馬が描き出す新しい地球文明が待っていて、それを創造できる自分は神であって当然だというのが、天馬の動じぬ信念だった。

 どんなに長く部屋に閉じこもっていようとも、どれほど社会から孤立していようとも、自分こそが世界の主役である事実は揺るがない。それゆえ天馬は40歳に至るまで引きこもり状態にあったことを微塵も恥じていなかったし、どのような言葉や常識を前にしても不動の決意を持ち続けていた。そのすべてが、主人公にとっては必要なドラマなのだ。

俺が救世主であることは揺るがぬ事実だ。だが誤解するな、俺はアスタリアの救世主じゃない。
えっ?

じゃあどんな救世主さんなんですか……?

クックック、この俺は世界の救世主だ。この腐った人間社会を根こそぎ打ちのめし、新しい地球を紡ぎ出す。俺はそのために生まれてきたのだ。
そのために生まれてきた――そこまで言い切れるって、ただただすごいです……。圧倒されます……。
俺は世界の救世主であると同時に、イヴァの救世主でもあると思ってくれていい。世界を変える戦いは、個人を変える戦いでもある。この俺が変えゆく世界は、イヴァの世界もすべて塗り替えることだろう。
私の……救世主さま……。
 ぼうっとしたように、イヴァは小さくつぶやいた。
せっかくの機会だ、イヴァに忠告しておくとしよう。族長として戦闘に出るのは、兵士を奮い立たせる意味でも悪くはない。だがあまり前に出るな。万が一、イヴァが負傷するような事態になれば問題だ。
あっ、ありがとうございます……私みたいな臆病な人間のことを心配してくれるなんて……。
イヴァはなくてはならない象徴として機能してもらおう。そして実際の政務を担うのは、大統領たる俺の役目だ。
はい、お願いします天馬さん……。

本当は、お父さんがいなくなって心細くて……。天馬さんみたいなすごすぎる人が来てくれただけで安心できます。

俺のことなら、もっと敬ってくれていい。神を敬うのは自然なことだ。
お爺ちゃんも、昔はあんなに怒りっぽくなかったんですが、色々心配が重なってて、追い詰められてたみたいで……天馬さんに嫌な思いをさせていたと思うんですけど……。
ジジイの容態は?
右腕を撃たれたので、しばらく銃は持てないと思います。まだ安静が必要ですが、命には別状ありません。
まだジジイの力が必要だ。アスタリア人の族長は血脈が重要らしいが、それでもまだまだ15歳のイヴァに盲目的に従う者は多くなかろう。その点、昔は族長として君臨していたジジイにはまだ相応の威光が残っているというものだ。
さすがです……。そこまで読んでいたんですね。本当は血脈なんか少しも重要じゃないと思うのですが、そういう建前にしておかないと今度は部族間が割れちゃったりするので……。
いや、愚民を統治するには、血脈のようなまやかしは必要なパーツなのだ。俺にとっても利用できるというもの。
私のことを利用できるなら、いくらでもしてください。
ほう、俺に都合よく利用されることを受け入れるのか?
 コクリと、イヴァは大きくうなずいた。そしておそるおそるといった様子で、イヴァは手を差し出してくる。
改めて、アスタリア人のことを、どうぞよろしくお願いします……。
俺を信じろ。

大丈夫だ、神は仲間を裏切らない。

 言いながら、天馬も手を握り返した。

 しばらくイヴァと天馬は堅く手を握り合い、互いに頷き合った。イヴァはなぜか感動したようで、うっすら目に涙が浮かんでいるようでさえあった。

 おそらくイヴァは、相当に不安な状況のなかで暮らしていたに違いない。父の戦死、急な族長の指名、政府との内戦の継続、焦燥感のため周りに当たり散らすようになった祖父……そんななか、人見知りなのに責任感は人並み以上にある性格も仇となり、イヴァをいっそう追い詰めていたはずだ。天馬の降臨は、イヴァにとって本当の救世だったのかもしれない。

 握り合う手を離すと、イヴァは満面に笑みを浮かべて口にする。

実際に天馬さんがいれば、何でもできそうな気がします。それにエリカさんも私に優しくしてくれて、お姉さんができたみたいでなんだか嬉しいです。
エリカは工作員だからな。優しくするのは仕事のうちだ。
信じないほうがいいってことですか?
いや、工作員には工作員の世界がある。日常の優しさを信じてもいいが、別のルールのなかで生きる住人だということだけは知っておいたほうがいい。
わかりました。天馬さんがそう言うのなら。
そしてエリカは、下士官としては有能だが、将としては無能な類だ。俺が命令通りに動かすことで、初めてその能力を発揮することができよう。
そういえば、エリカさんにはこの市庁舎の最上階の広い部屋に住むことにしてもらってますよね。でも、そのエリカさんに指示を出す立場の天馬さんが、市庁舎の1階の隅の、こんな物置でいいんですか……?
ここを選んだのは俺だぞ? どうしてそのようなことを問う?
だって……机とパソコンとリクライニングチェアを置いたら、もう何も入らないほど狭いですよ……。ドアを開けたらリクライニングチェアがあって、足の踏み場もなくて……。私がこうしてリクライニングチェアの横に立つだけで、もう余裕がなくなってしまいます。荷物も置けないですよ?
もともと俺には荷物はない。
そうですけど……こんな狭い部屋で暮らす人の話なんて、聞いたことがありません。
日本ではこれが普通なのだ。
えっ?

日本人ってこんな狭い場所に暮らしていたんですか!? もっと豊かな人たちなのかなと……。

漫画喫茶という場所があってだな。日本人はそこで標準的に寝泊まりしている。目の前にパソコンがあり、手を伸ばせばなんでも届く。だいぶ効率的だと思わないか?
効率的……かもしれませんけど、すごく息苦しいような……ほとんど奴隷、ですよね……?
この画面を見よ。ネットワークの先には広大な世界が広がっている。これから俺が統治するアスタリア帝国の管理も、ここから行えばいい話だ。
天馬さんがこのほうがいいというのなら、それで構いません。でも大統領がこんな狭い部屋で暮らしているなんて街の人はびっくりすると思います。もっと広い部屋はあるので、必要ならいつでも仰ってくださいね。
 イヴァは気遣ってくれているのだろうが、天馬にとっては居心地がいい空間になっていた。無駄な情報が脳に入ってくるのは極力抑え、目の前のモニタにさえ集中できれば他に何もいらないのだ。

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