放蕩鬼ヂンガイオー

02「え……ここであたしっ!?」

エピソードの総文字数=3,045文字

 現状、最大の目的は燦太郎の胸に植えつけられたヂグソー製の心臓を元に戻してもらうことである。

 厳密には心臓そのものがそっくり機械に入れ替わっているわけではなく、損傷した心臓にヂグソーがまとわりついて心肺機能の補助をしているらしいのだが、ややこしいので便宜上『ヂグソー製の心臓』『ヂグソー心臓』というような言い回しを使っている。

 ともあれ、身体本来の機能を回復させヂグソー心臓を安全に摘出するにはヂンガイの故郷、未来世界スピノザの協力が必要不可欠となる。だのにヂンガイときたら時空を越える機械を故障させてしまっており、まずはその装置を修理するためにLAE……人々の燃える心を集めなければならない。

 となるとまず最初にやるべきことはLAE集めであり、そのために燃える心を生み出す地域の人々と触れ合うことは間違っていないはずだ。だってこいつ駄目なんだもん。なんか色々駄目なんだもん。

 燦太郎は、座布団で寝ぼけているヂンガイをキッと睨んだ。
 それからドアをそっと開け、奥部屋から店内を覗き見た。

 天甚の号令からまだ三分くらいしか経っていない気がするのだが、お客さんたちの入店はまさに怒涛、あっけにとられているうちに店内はすし詰め状態になっていた。

 さきほどから天甚がうまく立ち回り、はやる常連を落ち着かせ、アマチュアインタビュアーの質問をハッタリでかわし、野次馬は適当にいなし、うおっほんと咳払いをし、そこそこに皆が話を聞けるムードを作り出していた。

「えー、皆さん。本日は当基地のお披露目会にお集まりいただきありがとうございます」

 昨日の幼女ヒーローが目当てなんですけどーというガヤが多数飛んだが、天甚は飄々と次の言葉を続けた。

「実に良いブーイングですな。それでは店の奥をご覧ください。遺憾ながら、以前より我が基地に足りなかったものがあります。構想三年、ついに実装の運びとなりました。それは、そう――お色気担当です!」

 燦太郎はヂンガイの肩を掴んで一緒に店内へ突入した。

「えっ!? なんなのだ!? え……ここであたしっ!?」

 天甚が照明を落とし、ヂンガイにスポットライト(※懐中電灯)をあてた。

「オレベースの専属コスプレイヤー、ヂンガイちゃんですよぉい!」

 しんと静まり返る。明らかに変な間があってから「お!? え!? ……いや、ええ!? おお――っっっ!?」みたいな戸惑いを隠せていない歓声が上がった。

 無理もない。

 この店はやっぱり噂のヒーローと関係があったのかと思いかけたら実はコスプレらしく、とはいえ再現度が半端ないというか本人クオリティであり、でもやっぱり偽者なわけだし、にしてもまだ翌日なのにマジ? ってかまあオレベースに女性店員さんがいなかったことも事実だしこれはこれで喜ぶべきやらそれとも疑うべきやら等々、人によって立場によって様々な思惑が浮かんだことであろう。

 「オレベースなら一晩でやってくれると信じてますた」「構想三年で昨日の事件に対応だと」「あの子、なんでちょっと湿ってるの」などなど、様々なざわめきが聞こえてくる。

 そう、ヂンガイに現代慣れさせるためには場数を踏ませたいのだが、かといって今どき変な騒ぎが広がってしまってはプライバシーもへったくれもなくなってしまう。そこでこのハッタリである。

 ヂンガイの正体は隠しながら出来るだけ外部に露出しようということで燦太郎と天甚の意見は一致していたのだった。

 本人も言っていたが、ヂンガイはLAEを集めることに関してはとんでもない落ちこぼれである。
 別のヂゲンでも戦いを繰り返し、そこそこ以上の経験は積んできているそうなのだが、かつてまともにLAEを集められたことがないのだという。

 性格もあんなんだし、見た目もこんなんだし、褒めれることといったら歯並びくらい。我々の知識を総動員し、ちゃんと燃えられる立派なヒーローにしてやらなければならない。

 燦太郎はヂンガイに耳打ちした。

「適当に挨拶だけしな。今日はそれで退散してやるから」
「……ばっ、ばっかサンタロ……あたし人見知りだってちゃんと……急にこんな、えっと、なんて言ったら、ひ、えぐっ」

 あ、だめだこれ。

 ヂンガイは想像以上にテンパっている様子だった。
 顔は真っ赤で滝の汗、涙目で口をパクパクさせながら声が全く出てこない。

「お、おいどうした。きのう、わりと前向きに頑張ろうって雰囲気になってたじゃんか」
「……く、くっくっく。昨夜はムードに流されて割とやる気に満ち溢れてたけど、一晩たっぷり豪遊してたらけっこう覚悟が薄れちゃったのだ」
「おまえ本当に格好良く戦ってたあのヒーローなの!? マジでコスプレのそっくりさんなんじゃねえの!?」
「そんなこといっていいのかし。あたしに逆らうと、こうなのだっ」
「いがががががっ!? なんかビリッときた!」
「ヂグソー心臓にLAEを送って遠隔操作し、なるべくえげつない苦痛を与えたのだ」
「なんぼほど悪魔やねん!」

 思わず関西弁になるほどの激痛だった。二度と味わいたくない。

 それはそれとして、いくら背を押しても、ぐずるばかりでまともな対応をしようとしないヂンガイ。
 放送事故みたいな展開に、お客さんたちの間で妙な空気が広がっていく。

「よ、よしヂンガイ、手を振るだけでいい。それで帰ろ、な?」

 慌ててヂンガイをなだめていると、どこからともなく誰かのつぶやきが聞こえてきた。

「大丈夫かなあれ。頼りないなぁ」

 特に悪意がこもっている声色ではなかったのだが、急にヂンガイの頬が引きつった。

「なん……つった古代人」
「ヂンガイ? ちょっとどうした? 落ち着け、な?」

 後ろからでもわかるくらい、すんごい青筋を立てている。

 あきらかな異変を感じたが制止する時間もなく、ヂンガイは顔を上げた。

「どいつもこいつもバカにしやがってっ! あたしのどこが頼りないのだ! おまえら無力な猿どものために、あたしがどれだけ苦労してきたか! どうせヂゲン獣が出てきたら手も足も出ないのだ、つべこべ言わずに、黙ってあたしにLAEを送っていればいいのだぁッ!」

 ギャラリーがしんと静まり返る。

 やばいかなと思ったが、またしても変な間があってから「ツンツンキャラきたァァァーッ!」「キマシ! かなり仕上げてきてる!」「中二病!? その設定って自分で考えてるの!?」「『無能な猿め!』ってののしりながら踏んでください!」などなど、おおむね好意的な歓声が上がった。

「か、カメラはご遠慮くださーい! それじゃ、ヂンガイさんでしたーっ!」
「何するのだサンタロー! あたしはまだ言いたいことが、むが、んが……っ!?」

 失言に失言を重ねそうなヂンガイを引っ張って奥部屋に押し込む。

「これで時間でもつぶしてろっ」

 隙間からファミリーパックのミニバウムクーヘンとラブキャラのブルーレイボックスと、ついでに電気街変形アキバリオンのDVDボックスを放り込んでドアを閉じる。

 奥部屋にAV機器はないが、ヂンガイの戦闘服には記録媒体から直接情報を引き出す機能があるらしいのでこれでいいのだ。

 群衆からブーイングの嵐が燦太郎に集中する。げんなりと天甚に目を向けたら、苦い笑顔でガッツポーズを送ってくれていた。

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