もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら

幕間劇:『ひとみの超訳:ツァラトゥストラ①』

エピソードの総文字数=2,288文字

「おれたちは登り始めたばかりだ、この果てしなく長いツァラトゥストラ道をよ」と、硬派な文字が書き割りに墨書され、ひょいと通りかかった謎の強そうな老人が、

「もうちょっとだけつづくんじゃよ」と、これまた突っ込みどころ満載のメタ発言をする幕間である。

読書会チーム三名がそろうテーブルの上に、以前語彙が少ないと栞理に揶揄されたりしていたものの実は文学部志望(!?)だという、ひとみが書いた原稿用紙が広げられていた。

「こ、これは……?」
「まだ書きかけで恥ずかしいんですけど、先輩たちに先に読んでもらおうと思って……」
「字きれいよねー、だれかさんと大違い」
「むぅ……」

【ひとみの超訳!ツァラトゥストラ!】


芸能学校「山の洞窟」で10年間ひたすら修業に修業を重ねた美少女ツァラたん。もう歌も踊りもばっちり! 一日も早くデビューしたいと意気込む日々。


ある日、学校を訪ねてくれた往年の大スター(この学校には定期的に現役のスターが指導の名目でやってきてくださるのです)に、無遠慮にツァラたんは尋ねます。


「大スターさん! あなたの歌がもし誰にも聞かれなかったら、いったいあなたは幸せなの?」と。


このあまりに生意気な発言に先生がたもびっくり仰天。一緒にデビューを誓い合った仲間のおタカ(あだ名)さんとスネーク(芸名)くんも眉をひそめ、慌てて彼女を校外に連れ出しました。


外へ出たツァラたんは、連れ出してくれた友人も置いてきぼりにして、踊るような足取りで山をおりていきます。

「これは校外芸能活動のチャンスね! デビューのチャンスは死んでも掴みとれって言うもんね!」とかなんとか言って。実際、学校のきついレッスンにはほとほと飽きていたのです。


このまま街まで降りて、シークレット街頭ライブを大敢行! 彼女の魅力に街のみんなをまいらせて、メジャーデビュー前にインディーズ時代のファンを作ってしまおう。なんて野望もあります。学校斡旋の事務所が付く前に良いプロデューサーの目に留まるかもしれません。

脳内の前途は洋々、自信満々で歩いていると、森の中で一人のオールディーズ系のファンに出会いました。


「おや、この娘がここを通るのは初めてではないな。以前は芸能を学びに山に向かっていたが、今度は逆にすすんでいるぞ。どこへいくのだね。これより下は学ぶものなぞないぞ」


ツァラたんは胸を張って答えます。


「私は、人々に愛を与えに行くのです」


「なんだって? ちゃんちゃら可笑しいわい。お前のような小娘にショービジネスの何がわかる。愛を与えるだと? アイドルはファンから愛をいただくもんだ。与えようとしてはならん。ビートルズを観ろ、マイケル・ジャクソンを聞け! デヴィッド・ボウイでもいい。神々はファンから愛情を受け取っているが、愛情を分け与えてなぞおらん。そんなことをしたらあの若々しい魅力やカリスマがすり減ってなくなってしまうだろうさ!」


訳知り顔で語るオールド・ファンじいさん。

学校のそばに隠匿するだけあって、この人もかつては芸能界に関わっていたのでしょうか?


それにしても、老人は長い間森にすみ過ぎて、King of Popやボウイが亡くなったこともご存じないようです。

しかし、それを指摘するのも野暮なもの、ツァラたんは音楽と愛情について、人生の大先輩に問いかけます。やはり、遠慮をしらない子のようです。


「それはおかしいわ。おじいさんはCDを聞いて、音楽から愛情をもらったりはしないの?」


「ふん、ワシはCDは好かん。もっぱらレコードじゃ。なぜワシが森の中にいるとおもう? この静寂の中で聞くアナログ音源の深みと温かみのある音がたまらんのだ。ワシは彼らスターたちを愛しているが、彼らから愛されてるとはおもわん。ファンはそれでじゅぶん幸せなんじゃよ」


「スターだけを? 人を愛してはいないのですか?」


「スターだけだ。人間なぞを愛したら、命がいくつあってもたりんわい」


「(だめ、やっぱり理解してくれない)

 ……なぜ私はこのおじいさんに『人へ愛を与える』ことなんて語ってしまったのかしら?」


無遠慮なツァラたんは、うっかり考え事の呟きも口から漏らしていました。

そろそろ耳が遠くなっているおじいさんはそれが聞こえたかどうか……。


「警告しておくぞ、芸能は対価をもらうんだ。金の為に歌え。ファンからは『歌ってください』と頼まれてからしぶしぶ歌ってやることだ。それがお前の価値を高めるだろう」


「お金の為に歌うのなんて嫌よ。それはアイドルのすることじゃないわ」


「ふん、まだまだ青いな。街に出てきっと苦労するだろうよ……」


〈つづく〉


「女体化だとっ!?」
「これも、流行(はや)りってやつかしら? でも、よく読むとおもしろいですわよ」
「う、うむ、まあ、なんだ、ポイントは、おさえて、いる、かな?」
「えへへー。まだ続きもあるんですよー」
「いいじゃない! 見せて見せて!

 栞理もつづき読みたいでしょ?」

「えーっと……

 ……はやくおかわりをよこすのです。

 われわれは賢いので。」

「……。」
(しまった、使いどころを間違えたか……?)
不慣れな流行ネタに走りまたしても気温の低下を空気を感じてしまう栞理である。
「いや、これは、その……。

 口では厳しいことを言っても、なんだ……。

 続きをはやく読みたいという気持ちの表れであってだな……」

「えへへ、だいじょぶです。説明してくれなくていいですよぉー」
「よかったー、じゃ、続きぱぱっと書いちゃいますね~」
(これだけのものをぱぱっと書けてしまうのか……。)
「ひとみ、恐ろしい子……」と言いかけてやっぱりやめる栞理であった。
〈つづく〉

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