十の密室と11人の姫 〜或いは稀覯館のフルコース〜

執事はかく語りき

エピソードの総文字数=3,652文字

開闢の空間。

かつ。

終焉の空間。




無色で色鮮やかな「無のうねり」

そして。

「確率のゆらぎ」が蠢く時空の極地。




それを幹として。

その枝の先の葉の部位に。

とある『館』が存在した。




上下の概念がなく、ドアの横には口があり。

左右の概念がなく、窓の上には耳があり。

表裏の概念がなく、屋根の下には鼻がある。





『異形の館』が存在した。




その名は『稀覯館(きこうかん)』。

馥郁妙味(ふくいくみょうみ)なる。

B級な密室殺人事件を賞味させるレストラン。




さて。

ドアの横の口から伸びるはベロ。

そこに手を重ねるは少女。




そして。

『稀覯館』は『招聘』する。

礼を尽くして人を呼び込む。

本日の来賓客は『供華乃小春』。




おや。

案内人がいる様だ。

後は彼に任されている。




そう。

『稀覯館』は『礼儀』を重んじる。

後は彼に任せるとしよう。




……

………

…………

……………

………………

…………………

……………………

………………………

…………………………

 
           …………………………

            ………………………

             ……………………

              …………………

               ………………

                ……………

                 …………

                  ………

                   ……

                    …

いらっしゃいませ。


            ……んっ……。


ようこそ御出で下さいました。


            ここは……どこ……?


供華乃小春(くげのこはる)様……。


            なんで私の名前を知っているの!?


ご来館は……初めてですよね?
時のうねりは空間をも乱し見出します。
結果、異形も入り込む事がございまして。


            ………………………………。
            (…………何を言ってるの?)


ご安心ください。
やがて視界は晴れますので。


            (なんか変な事言ってるし……)


それでは先ずは自己紹介を失礼させて頂きます。
本日あなた様に給仕させていただきますは、
私、左門町左門(さもんちょう さもん)でございます。


            こっ、ここはどこなの!? 言いなさいよっ!
            私は拉致されたの?! 説明くらいしなさいよっ!


はて。
『招聘』のメッセージは届きませんでしたか?


           「しょうへい」って一体何!?
            早く家に帰らせて!!


名簿を確認させて頂きます故、少々お待ちを……。
なるほどなるほど。
「こういう流れ」を希望されたのですよ。


            何の話かさっぱり掴めないんだけど。
            どういう流れなの? ってかここはどこよ!?


流れは掴まなくて問題ございません。
ここは、稀覯館(きこうかん)でございます。


            きこーかん? 聞いたことないけど。
            ああ、あなたって変質者って事?


説明を続けさせていただき
            私の質問に答えなさいって!


………おほん。続けさせていだだきます。


            ………………………………。


稀覯館では、普段は味わえないレアな密室をご賞味いただけます。
緻密なトリックに飽き飽き、理系知識のてんこ盛りに辟易。
そんな方こそ満足させる、極上のB級密室殺人事件を提供する館。


            ……それが稀覯館………稀覯館……稀覯館!?
            あれ、何で私『稀覯館』って漢字が分かるの!??


その様にあるのが稀覯館だからです。
さて、そろそろ頃合いでしょうかね。
供華乃小春様の目で直接この館を……
…………………………ご覧下さいませ。
何も見えないじゃない!
私の姿はお見えに?
あんたの姿だけは見える。
左門さんって言ったっけ?

早くここから出してよ!
そちらにはペンとメモ用紙がございます。
適宜ご利用くださいませ。
……話、聞いてる?
飽き飽きされる方は決まっておっしゃいます。
「見飽きた、使い古しだ」と。

辟易される方は決まっておっしゃいます。
「トリックが安い」と。
(話を聞く気は無いみたいね……)
うきうきされる方は決まっておっしゃいます。
「どんなものでも楽しんでやる」と。

ワクワクされる方は決まっておっしゃいます。
「次の地層を用意せよ」と。
なら、私も楽しんでいいのね、この館を?
はい、ご馳走はたっぷりございます。
本日はディナーのご予約を承っております。

最高のB級密室殺人事件のフルコースでよろしいですね?
「いいえ」とは言えないみたいだからね。
いいわ、そのフルコースを頂戴っ。
では、本日のディナー『十の密室と11人の姫』のコースをどうぞ。
………………と、その前に。
その前に?
重要事項が三つがございまして、
密室を召し上がられる直前にお伝えする決まりなのです。
いいわ、一つ目は?
一つ、当館のメニューの味は、コースの内部にいる探偵より先に伺う事になっております。
ご安心ください、それまでの味は記憶に残る様に、既に手配してございますから
意味合いは分かったわ。
とある事件の内部の探偵より先に回答を言うのね?

もし、それが間違っていたら?
それはそれで愉しくご賞味できたと判断さえて頂いております。
……懲罰は、まぁ、ありませんと申しておきましょう。
じゃあ、二つ目を言ってよ。
二つ、『推理可能なポイント』で供華乃様は一つだけ質問することを許されます。
……ふぅん。
楽しむため? そのディナーを?
左様でございます。
じゃあ、最後の三つ目は?
後にお伝えする事に致しましょう。
……それって意味があるの?
定めは定め。
ルールはルール。

で、御座います。
そういえば、そろそろ喉が渇いてきたんだけど……。
お茶か何か貰えませんか?
お水は直ぐにご用意致します。
ディナーの開始はお水からです。

さて、こんなものはどうでしょうか?
こんな風に、直接世界を堪能できるのが、
当館がご贔屓にされている理由で御座います。
視点こそ一点ですが、流行りのVRにさも似たり。


            ……なるほど、主観が切り替わったみたい。
            ま、最初もこんな風だったから今更感あるけどね。
            ああ、三つ目のルールってなんだったの?


頃合いでございましょう。申し上げます。
H・H・ホームズの分類、ご存知ですよね?

  
            いいえ、全くの初耳。
            まず、その人誰?


密室は三つに分類されるというものです。

1:部屋が閉ざされる前に犯行があった。
2:部屋が閉ざされている間に犯行があった。
3:部屋の密室が破られてから犯行が行われた。

          
            その分類は正しいわ。
            それに則ったディナーが出るの?


1と2を同時に満たす密室殺人事件。
どうでしょうか? そそりませんか?


            犯行時に犯人は室内にも室内にもいて?
            犯行時、被害者は室内にも室外にもいる?
            そんな密室殺人なんて……。


あり得ないとお感じになりますか?
ご安心ください、当館はB級密室専門店でございます故。
陳腐な緻密さや論理に味付けされた密室など……ねえ?


            ま、確かに飽き飽きしてたかもね。
            少しくらい強引で、ガッツリ楽しみたい気分。
            さ、早速タイトルくらいは教えてよ。
タイトルは最大のヒント……さすがお詳しくあられる。

「無限大で無限小な密室殺人事件」

に御座います。
なんだか難しそうなタイトルね。
『絶対完全なる密室で起こった絶対完全なる殺人事件』
が本事件なのですが……。




とあるお客様はこうおっしゃいました。

「密室殺人とは『密室ではない』か
 『殺人ではないか』のどちらかだ」と。

そのお客様は、お水を堪能されておりました。




また別のお客様はこうおっしゃいました。

「これはバカミスというものだ! 馬鹿なミステリだと」

これは賛辞のお言葉なのですが、
その方はご立腹なさったようです。



この水を飲む前の注意事項の追加で御座います。
カーの密室講義よりお言葉を拝借しますと……。



「密室内に殺人犯はいなかった」
に関してはこうお伝えする事ができます。

『密室内にも密室外にも殺人犯はいた』
かつ
『犯人は複数ではない』
と。


小数点などを基にする必要はありません。
半分の人間がどうこうという風味づけは、
お館様が好まれませんので。




「秘密の通路やそれの変形は卑怯である」
には……。

やや、抵触するかもしれませんね




どうです? 旨いラーメン屋の油塗れのコップの様な
B級感が漂う密室殺人でしょう?


喉湿しにまずはこちらをどうぞ。
水もまた、稀覯館が厳選したものです。




さあ、その世界をどうぞご賞味あれ。

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