異世界デリバリー ウェザーとハッチ

エピソードの総文字数=5,090文字

《delivery.1 プロット》
 冥界、荒涼とした砂漠。
砂埃を巻き上げて、バイクの様な生物が走ってくる。
その生物に一人の少女が跨っている。ウェザーという名の彼女は真紅の髪をなびかせながら、炎の様な模様のタイツに身を包んでいる。
そして巨躯のバイクの様な生物、こちらの名前はハッチ。顔、身体は狼をベースとし、四肢に大型バイクの車輪が付属している様な姿をしている。

 そんな中、ウェザーにテレパシ―でのコンタクトが入る。「はいはーい、依頼されたものは次元の狭間であろうと届けちゃう異世界デリバリー、ウェザー・ハッチでーす!」元気よく答えるウェザー。コンタクトしてきたのは冥界の王、ハデス。かつてない大物のコンタクトに慌てるウェザーだったが、要請に応えハデスの城に赴く。城でハデスと対面したウェザーが聞いた依頼内容は、天界までハデスの娘であるパンドラを運んで欲しい、というものだった。パンドラはハデスと天界のテラの間に生まれた天使と悪魔のハーフであり、母・テラに会うため、天界へ行く事を幼少時から切望していたのだが、冥界の王である父でさえ越える事ができない壁の存在に、母に会いたいという想いを心の奥底に封じ込めて生きてきたのだった。そんなパンドラは、いつしか自らの心を他人に見せる事なく塞ぎ込む性格になってしまっていた。

 かつて、互いの住む世界の隔たりを越えて愛し合ったハデスとテラだったが、天使と異種族が懇意になる事に嫌悪感を抱いた大神・ゼウスは天界と魔界の間に自らの神力を封じた絶望の壁を作り出した。ゼウスの神通力により近づく事さえできない壁の前に、二人を含めた天界・魔界の全生物は、互いの世界を行き来する事を許されなくなり、テラの実子であるパンドラさえも魔界へ押し留められる事になった。実際、絶望の壁はウェザーですら今まで近付いた事は無いのだが、ハデスは次元の狭間でさえ移動できるという異世界運び屋の噂を聞きつけ、ウェザーに白羽の矢を立てたのだった。
当初はハデスの無謀とも言える依頼に戸惑ったウェザーだったが、自らも天使と悪魔のハーフであるという出自を持っている事で、パンドラの置かれた境遇に感じ入る所があったのか、ハデスの依頼を受け入れるのだった。

 パンドラを連れ添い冥界を出発して数時間が経ち、冥界における天然の関所とも言える最初の関門「魔食の森」が見えてきた。魔食の森にはデモンズ・ローズという成人悪魔(2m程度)の5倍はあろうかという巨躯の肉食植物が生息し、冥界に住む屈強な悪魔でさえ数え切れない程犠牲になっているのだという。森中に潜伏するデモンズ・ローズに気づかれないよう慎重に森を進む一行だったが、森の終盤付近に差し掛かった所で突如現れたデモンズ・ローズにパンドラが悲鳴を上げてしまい、デモンズ・ローズに襲われてしまうが、咄嗟にウェザーがパンドラを庇う。腕に深手を負ったウェザーは狼狽するパンドラに目を瞑るように言うと、不思議な光に包まれ、デモンズ・ローズを怯ませる。その隙を逃さずウェザーはハッチに指示を出しスピード全開でその場を切り抜けると、そのまま魔食の森を脱出したのだった。

 魔食の森を脱出した一行は、力を使い果たし付近の荒野で大の字になっていた。そんな中、自らを犠牲にして他人を守ったウェザーの行為に違和感を覚えるパンドラ。長年塞ぎ込んできた己の心に微妙な変化を感じるのだった。

 魔食の森脱出から数日が経過し、一行は次の関門である「血の池地獄」に到達した。この血の池地獄は別名・血で出来た底無しの沼とも言われており一度沈んだが最後、二度と浮上する事ができない恐ろしい池である。この池を渡るには魔力により特殊な浮力を持った舟を持つ、血の池地獄の渡し守を主命とした一族の末裔・マドリリスの協力を仰ぐ必要があるとの事だった。魔界一の守銭奴とも言われるマドリリスと交渉し、有り金の全てを渡し賃として失った一行。

 その後、どうにか血の池地獄を渡り切るかと思われた所、急に舟が止まる。マドリリスはあろうことか、ここまで来て追加の渡し賃を要求してきたのだった。戦闘も辞さない強硬な姿勢を見せるウェザーに対し、悩んだ末に母・テラから受け継いだ唯一の絆・天紅のネックレスを差し出すパンドラだったが「そんな大事な物をこんな奴に差し出してはダメだ!」と声を荒げるウェザー。交渉が決裂した事でマドリリスと舟上での戦いが勃発。マドリリスの持つ魔力で変幻自在に形を変えるオールを前に、あらゆる攻撃を弾かれ追い詰められるウェザー達だったが、パンドラの機転で天紅のネックレスを池に投げ込むブラフを見せると、マドリリスは慌ててオールを池の中に差し込みネックレスを探し始める。戦闘態勢を解除した隙に、すかさず渾身の一撃を叩き込みマドリリスを撃退したウェザーは、無事血の池地獄を渡り切る事ができたのだった。

 血の池地獄の向こう岸で休息を取る一行。母との絆である天紅のネックレスを失わずに済んだパンドラと、そのネックレスのお陰で危機を乗り越えたウェザーは互いに感謝の念を覚える。一方、傍らから両者を見守るハッチは「ウェザーとパンドラ…二人は互いの心を溶かし合う関係なのかもしれない…」とひとりごちるのだった。

 血の池地獄の遥か先、ここを越えれば絶望の壁は目の前、と言われる「針山地獄」に到達した一行。針山地獄はその名の通り、途方も無い数の針が聳え立つ非常に険しい山々である。慎重にハッチを操りながら針山の側面に捕まりつつ山を越えて行くウェザーだったが、ゼウスが放った針山の番人・ベゼルエアの妨害に遭い、パンドラがハッチから落ちてしまう。針山であわやパンドラが串刺しになるかと思われた瞬間、意を決し背中から羽の様なものを出すとパンドラの元まで飛行し、間一髪の所から救い出すウェザー。その姿は悪魔という種族には似つかわしくない、まるで天使の様な姿であった。
ウェザーの両手に抱きかかえられたパンドラは、その身体に宿る圧倒的な力を感じつつも、同時にどこか暖かさを感じていた。ウェザーの全身から発せられる優しい光に、気持ちが少しずつ解きほぐされていくのが分かったのだ。
ほどなく気を失ったパンドラをハッチに預けると、引き締まった表情で再びベゼルエアの正面に立つウェザー。
開放した力でベゼルエアを一瞬の内に撃退したウェザーは、勢いそのままにパンドラ、ハッチを連れて一気に針山地獄を抜けるのだった。
 
 針山地獄の近隣にある岩陰でテントを張って休息する事にした一行。やがて目を覚ましたパンドラに、ウェザーは自らの正体を「私も、あなたと同じ天使と悪魔のハーフなんだ…」と明かす。
突然の告白に驚くパンドラだったが、ウェザーは構わず「この混血の力のせいか、小さい時から不思議な力に悩まされる事が多くてね…ほら、さっきあんたも見たでしょう?」と続ける。ウェザーは自らの力について、一度発現すると超常的な力で周囲の者を傷付けてしまう力なのだと語る。だからこそ、彼女はこれまで力を封じて生きてきたのだ。
しかし、パンドラは「でも…私はその力で救われたよ!」と針山地獄でウェザーに助けられた事を話す。パンドラの言葉に「それはたまたまだ!一歩間違えば、あんたごと傷付けてしまう可能性だって十分にあったんだ!」と激昂するウェザーだったが、パンドラの「だって…あんたの光はとても暖かかったよ…私、あの光に包まれている時、とても安心した…人を平気で傷付ける人にあんな力は出せっこないよ!」という言葉に、自らが固く築いてきた心の壁が壊されていくのを感じ、自分の力の全てを以ってパンドラを天界へ連れていく事を誓うウェザー。

 ついに「絶望の壁」に辿り着いた一行。大神ゼウスがこの壁を築いて数十年、天界と魔界を行き来した者は誰一人としていないと言われている。壁と対面したウェザーは即座に自らを光に包み、天使化する。身体への負担を考えてウェザーを制止するハッチの声も聴かず、ウェザーは「私…昨日から考えてたんだ。けど…これしか壁を壊せそうな方法は思いつかなかった…この力で壁を壊すしかないって…」と続ける。それに対しハッチは「でも、危険だよ!こんな短期間に、天使の力を連続で使ったら…悪魔の体に負担がかかり過ぎる!最悪の場合、死んじゃうかもしれないんだよ!!!!!」と叫ぶ。その刹那、パンドラ・ハッチの方を向いて微笑むと、二人に軽い衝撃波を放つウェザー。地べたに転がり遠のく意識の中、ウェザーが一人で壁を壊そうとしている事を悟る二人。朦朧としながらも必死にウェザーを止めようと語りかけるパンドラだったが、ウェザーは一瞥もせず「ごめん…パンドラ。私はこれ以上、自分と同じような苦しみを持つ人を増やしたくないんだ。だから、ここで終わらせる…あんたは何も心配する事ないんだよ。じゃあな…」と話し、壁に向けて飛び立つ。そんなウェザーを尻目に意識を失うパンドラ。

 数時間後、意識を取り戻すパンドラ。ゆっくりと眼を開けると、ボロボロになって倒れているウェザーの姿を確認する。
朦朧とする意識の中、身体を引きずってウェザーの元へ近づくパンドラ。息も絶え絶えの状態であるウェザーを見て「な、何やってんのよ、あんた…なんで…私なんかのために…何してんのよぉ…ねぇ、返事してよ…死なないでよぉぉぉ!!!!!」と大粒の涙をウェザーの身体に滴らせて叫ぶパンドラ。その時、パンドラの持つ天紅のペンダントが光り身体全体が光に包まれ、天使の羽が生えるパンドラ。その光で意識を取り戻したハッチは「生まれて初めて、他者のために何かを強く求めたパンドラに、内包する天使の力が呼応したんだね…」と語る。パンドラは自らの内面から力が湧き出てくるのを感じると、ウェザーにその力を分け与えようと彼女の身体に魔力を流し込む。みるみる内に傷が癒えていくウェザー。それを見たパンドラは「よし、これで大丈夫なはず…今度はそこで私を見ててね、ウェザー…!」と意気込む。壁に正対したパンドラは、ペンダントから暖かい意識が流れてくるのを感じ、直感的に母親の意識を感じ取る。すると、意識を取り戻したウェザーが「そ…そうだよ。それはあんたのお母さんの意識…それはね…天界に古から伝わる、人の意識を込める事ができるペンダントなんだ。遠く離れた相手にも…自分の想いを伝える事ができるんだ…それが例え、異世界であろうとね…」とパンドラに語りかける。「ウェザーはこのペンダントの正体を知っていたの?」と尋ねるパンドラに対し自身も同じペンダントを持っている事を明かすと、自分も天界にいるはずの父親の存在をいつも感じていた、と語るウェザー。そして「今のあんたになら、私の想いも託せる…どうか、私のペンダントも預かって…このペンダントにはね、想いを込めた人の魔力も同時に込められているの…」と語り、自分のペンダントをパンドラに預けるウェザー。ペンダントに込められた事実を知り、かつて自分に孤独感しかもたらさなかった世界が、実は自分と、自分が大事に想う人との絆で満ちていると感じるパンドラ。絆の力・想いの力で今までに感じた事の無い力が自らに宿っていくのを確信したパンドラは、壁に向けて身体を纏っていた光を一斉に放射する。やがて壁全体がパンドラの放った光で包み込まれると、自ら役目を終えたと言わんばかりに壁は静かに崩壊していくのだった。

 嘆きの壁が崩壊し、天界への道が露わになっている。そして青い空が見える。そのあまりに美しい光景に手前で立ち尽くす一行。「さて…と、これでデリバリー完了…かな?」と胸を撫で下ろすウェザーに対し、パンドラは「何言ってるの?私をお母さんの住む宮殿まで送っていく所までがデリバリーでしょ?」と迫る。困惑するウェザーに「だって…私一人じゃ、どんな顔して会ったらいいか分からないじゃない…」と恥ずかしそうに話すパンドラ。
そんなパンドラを見て、大きく溜息をつきながら茶化すウェザーだったが、気を取り直した様子で「ま、いいわ。付き合ってやるよ。行くとこもあるし、ついでにね」と語る。そのウェザーの言葉に、微笑みながら「そうね、ついでよね」と意味ありげに返すパンドラ。「そ、ついでよ」と背を向けるウェザー。
そして、二人は背を向けたまま、互いの心の中で「ありがとう」と呟いたのだった。
(delivery.1 完)
delivery.2に続く。

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