【3/18】ダンゲロスSS(7) ぺんさんvs大達啓介

ぺんさん

エピソードの総文字数=4,060文字

こちらにてぺんさんが執筆します。他の方は書き込みをお控え下さい。

父が死んだ。小学生の頃だった。

父のことは嫌っていた。いや、憎んでいた。物心ついた頃から、父は毎日、自分に訓練と称して、死にかねないような暴力を振るっていた。身を守るために強くはなったが、当時の自分はそれが訓練とは思えなかった。

当然学校へは通えなかった。知識として、そういう場所があり、同年代の子はそこで日常というものを謳歌するのだとは知っていた。それに憧れて、逃げようとしたこともある。小学生にしては、周到な計画だったが、父から逃げることはできなかった。何度か繰り返すうちに、俺は諦めて父に従うようになっていた。

その父が死んだ。自分の体を食らって。元々気が狂っていたが、それにしても異常な死に方だった。自由になり、俺はようやく外の世界というものを知った。同時に、自分がそこで暮らしていくことができないということも。

人の心がわからなかった。知識としてはわかっている。なにをすれば喜んでもらえるか、何をすれば人は悲しむのか。だが、いざやろうとすると、上手くいかなかった。相手は傷つき、俺を憎んだ。俺を憎む相手から、殺されそうになったこともある。それを返り討ちにした時、父の言っていた言葉の意味を知った。

「我々には悪の血が流れている。強くならねばならぬ、正義に負けぬよう強く、正義から必要とされるほどに」

逃げ出そうとした自分に対して、父が涙を流しながら言った言葉だ。俺は悪徳をなすことしかできない。そういう血のもとに、生まれている。悪は排除される。そうならないためには、強くあらねばならない。殺しにくるものよりも、強く。父が自分を鍛えようとしたのは、その為だったのだ。

人から離れて生きるようになった。近づいても、意味は無いと悟った。他の人間と自分が、わかりあうことはないと。きっと父だけが、自分の気持ちを理解できる人間だったのだろう。だが父はもういなかった。

自分の理解者が誰なのか、彼と会えなくなって、ずっと後に気付いた。俺は一人泣いた。

父の死に疑問を抱いたのは、仕事……魔人を始末する仕事に就いて、暫く後だった。標的の一人が、自分の体を食らって死んでいた。父と同じ死に方だった。それが、二度あった。奇妙に思い、同じ死に方をしているものを調べた。表に、そういった情報は残っていなかったが、裏には知っているというものがいた。

政府、もしくは、それに準ずるものが、情報を消しているのだと気付いた。病気かとも思ったが、そういうわけではないようだった。仕事の傍ら、関連した事件を追い続けた。

「空だよ。奴らは、空に殺されたのさ」

仕事仲間の一人が、急にそんなことを言った。仲間内では、星見屋と呼ばれている男だった。占星術を得意とする、という魔人で、情報屋の一人だった。

「天、ということは、運命がそう定めたということか?くだらんことを言うな、お前も。」

「そうじゃあない。時折、交じるのさ。星の仲に、奇妙な影が。まるで意思を持っているみたいに、動くやつが。話を聞いてて、わかったよ。妙な死に方をした奴らと、その奇妙な影が現れる日時が、同じだ。あれは、星が人を殺す前触れだったのだろうよ。そいつらは空に、星に殺されたのさ」

下らぬ話だと、無下にする気はなかった。異星人の存在を主張する魔人は多くいる。その中の魔人能力が、本当に異星の者を呼び寄せた、その母艦が、空にいる。そいつらが人を食わせている。そういった可能性は、否定できない物だと思ったからだ。

「すこし、道が開けた気がする。」

 俺は礼を渡して、その男と別れた。数日後、そいつは死んだ。俺の渡したものが切欠らしいが、詳しくは知らなかった。よくあることだったからだ。

 東京の中心にある邸宅に、俺は訪れた。例の、父を殺した、異星人の話を聞くためだ。

「俺と会う人間は、事前に連絡をしなければならないようになっている。だが、俺はお前のことを知らない。どういうことか、説明できるか。」

「初耳だ。多分、話そうとした奴を、それより早く打ち倒したからな。俺は急いでいる。星についての話がしたい。」

「……貴様、奴らの手先か?」

相対しているのは、政府に関わる者で、事情を知っていると目星をつけた男だった。話しぶりを聞くに、何かを知っているのは間違いない。

「逆だ。父が奴らに殺された。俺は仇を討ちたいのだ。奴らを殺して。」

「人一人にどうにかできる領分じゃねえよ。話すことは何もねえ、帰りな。」

「どうにかできるかどうかは、話を聞いてから俺が決める。」

俺は剣を抜いた。諜報部員も使う、曲げて、ベルトに隠しておけるタイプのものだ。ゆっくりと踏み出す。それに合わせて、相手は銃を抜いた。引き金が引かれる。銃弾が飛来し、俺に当たる寸前、宙で二つに裂け、後方へ逸れていった。

お互いに、動きを止めた。向かい合うなか、俺は口を開いた。

「銃で刃物を持った人間に勝てる距離は、およそ6mだとされている。今、俺とおまえの距離は12mある。今の距離なら、銃が勝つ。」

「お前は先程銃弾を弾いた俺の能力を見極めなければならない。俺はお前が銃を打つ度、6m進む。残された機会はあと二度だ。その猶予は銃弾一発分。その一発で俺の能力を見極めなければ、お前は負ける。」

「今すぐ逃げるか、それとも残された二度の機会で俺を殺せるか試すか、大人しく俺に情報を渡すか。お前は選んでいい。」

「舐めるなよ、若造」

銃弾が跳んでくる。銃声は一発、実際には二発、別の方向からだ。魔人能力だろう。問題なくさばく。6m前進。そこで俺は手を伸ばした。

「空の手」
相手の体が、6m,こちらへよってきた。
「俺が移動するのは6mといった。まさか、お前が近寄ってきてくれるとはな。」
同時に、銃をバラバラに分解する。これも、能力によるものだ。
これが俺の魔人能力。単純な念動力だが、重要なのは精密性だ。その気になれば俺は100m離れた場所から投げられた卵を、この能力で割らずに受け止めることが出来る。刃のように力を集中させて使えば、先程のように銃弾を切り裂くのも容易。鍛えがいのある、いい能力だと思っていた。

「安心しろ。俺は邪魔をしたいんじゃない。手助けがしたいんだ。俺のやり方になるが……それを防ぐのが、お前の命より大事か、よく考えろ」

「……仕方ねえ。後でクビが飛ぶかも知れねえが、今首が飛ぶよりかましか。丁度、手練も欲しかったところだ」

政府の男は、躊躇った後、口を開いた。父の仇は、意思を持った惑星。脳惑星ジャガー・ユキジロという生命体だという。奴は人に隕石を打ち込み、自由に操る。そして、隕石どうしで囲んだ場所の中に居る人間を、狂わせる力を持つ。その力を知った政府は、各国と協力して惑星の排除を決めたのだという。

「最初は回収が目的だったが、奴等は予想以上に手強かった。手を引くふりをして、俺達は破壊計画をねっていたんだ。決行は6日後。密かに勧めていた計画だが、どこからか奴等に情報が漏れた。以来、必要な施設が次々に破壊されている。人間も殺された。情報の扱いに神経を注いでるのはそのためだ。」

「このままだと計画はおじゃんになる。その前に、地球で活動する……施設を破壊している奴等をとめなにゃらん。奴らの端末は各地に分散していて、それも一体一体が強力だ。本来はこちらが用意した部隊にやらせるつもりだったが」

「俺が先程潰したのがそいつらか?」

「そうなる。代わりを手配する。お前が父の仇を、直接打つのは無理だ。だが、そうだな。その部隊にお前を入れることは出来る。……やるか?」

「端末というのは、痛みを感じるのか?」

「ああ。端末の感じた五感は、元の惑星にも送られる。奴らはその性質を使って、人を食い、その味を楽しんでいるんだ。」

「ならばやろう。命より大事なものはない。だが、命を奪う以上の非道があることを、奴に教える。俺は、悪の血統だ。」

 俺は端末のひとつ、カンダという男を襲うために、用意された部隊と合流した。表向きは、会社員をやっているという話だったが、見ているうち、その男の異常に気付いた。そいつは、靴下を食べていた。それも、美味しそうに。それが終わると、足の皮を食べはじめた。脳惑星に取り憑かれたものの末路だ。一人になったタイミングを見計らい、他の者と共に飛び出した。

俺は、わざと遅れた。闇の中を駈ける俺達の姿を、カンダの双眸が捉えた。

「はは。なんだか、敵意の味がしますね!」

銃撃が始める。カンダは動かなかった。打ち込まれたはずの銃弾が、カンダの躰の中に消えていく。

「美味しいですね。なんという食べ物ですか?あなた達は?いまのよりも美味しいですか?」

カンダの体が裂けて、拡がった。巨大な口だ、と理解できたのは、後方から見ていた俺だけだっただろう。部隊が次々と飲み込まれていく。俺はそれをただ見ていた。

「靴下のほうが美味しいです!ジャガーさん、でもどうしましょう。ここは危ないです!会社をやめて逃げないといけない。でもクライアントに怒られます。どうしよう。」

宙に呟くカンダに近寄りながら、声を駆けた。

「お前が今食べた奴らには、毒が仕込まれている。」

「奴らはお前を殺すための捨て駒だ。毒を消化した躰は、最初は異常がないように思えるが、徐々に末端が痺れて動かなくなっていく。次第に痺れは体の中心と脳に伝わり、最終的に死を望むほどの虚無に襲われながら死んでいく。当然、それは母星であるジャガーにも有効だ。」

「お前の選択肢は二つ。今すぐ先程の隊員たちを吐き出すか、その体を捨てて消えるか。まあ、どちらも出来るかどうかは知らんがな。」

「……!」カンダが再び体を開き、隊員をはこうとする。遅い。

タイムアップ! ここまでです!!!

「嘘だ。そして、すきありだ」空の手。無形無業、物質に頼らない純粋な力が、カンダを押さえ込んだ。

「体を捨てることは、できないらしいな。安心した。すきなだけなぶれる。」
俺はそれから5日間の間、父の仇を討ち続けた。

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