神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の就職

エピソードの総文字数=2,317文字

――tenma:

ついに俺は大統領の座を手に入れたぞ。もうすぐ世界は、この俺に征服されることになるはずだ。

――半蔵:

40歳ニートのおっさんがどこの大統領なんだよおwwwwwwwwwww

――IORI:

初めての就職が大統領ですかこのやろうwwwwwwwwwwwwww

――tenma:

三顧の礼で迎えられてな。真の天才の立場は、貴様らのような愚民どもには永遠にわかるまい。

 三顧の礼どころか激しい暴行を受けて意識不明の状態で連れ去られただけだったが、天馬のなかでは似たようなものとして変換されていた。当たらずとも遠からず、であろう。
――今井:

ネット神からネット大統領にクラスチェンジw

――リヴ:

どこの大統領に就職したの?wwwww

――tenma:

聞いて驚け。俺は今ロシアにいる。気づいたらロシアにいて、気づいたら大統領になっていた。これは事実だ。天才だけに仕方ない。

――Danz:

ロシアパブですねわかりますwwwようやく部屋から出る気になったんですかwwww

――リヴ:

出た、tenmaの『天才だけに仕方ない』www

――tenma:

しかも俺は大統領だけでなく、国防大臣も兼ねることになる。いやおそらく財務大臣や内務大臣や教育大臣まで俺しかできないやもしれぬ。恐ろしいことになるぞ、俺の活躍ぶりが。

――半蔵:

すごいですねー(棒)wwwwwwwwwwww

――Danz:

ピンサロチェーン『おさわり大臣』の店長も兼務お願いしまーすwwwwwwwwww

 PCの画面を見やり、天馬はくつくつと余裕の笑みを浮かべる。
相変わらず草をはやしまくっておるわ。
 長くゲームワールドを共に冒険してきたギルメンたちだが、天馬の指示には従わないし、そのせいでボス戦で危機に追いやられたことも一度や二度ではない。およそ戦略・戦術というものを理解していないから、ちょっと方針を間違えただけで混乱し、パーティー壊滅に繋がってしまうのだ。天馬はそのことを何度も具体的に説明して聞かせてきたのだが、ギルメンたちには一向に聞き入れる様子もないらしかった。
それにしても落ち着かんな……。

俺にはもっと狭い部屋のほうが性に合うようだ。

 押し込められたホテルのスイートルームを見渡しながら、天馬は眉をひそめた。漫画喫茶のリクライニングチェアのほうが視界が限定され、動く空間もないおかげで、目の前のことだけに集中できるのである。しかしこうも視野が開けてしまうと、さまざまな情報が入ってきてしまい、かえって集中からは遠ざかる。

 天馬が忌々しげにスイートルームを眺めやっていたとき、コンコン、とノックがなされた。

入れ。

 天馬は尊大に命じた。

 静かにドアが押し開かれ、口を尖らせたエリカが部屋へと入ってくる。

…………。
 エリカは、天馬を睨みつけるようにしながら押し黙った。
何を黙っている。アスタリアに出向く準備はできたのか? 大統領として、俺は一刻も早く現地に入らねばならないのだぞ。
……死ね。

 小さな声で、しかしあからさまに聞こえるようなつぶやきだった。

 天馬は気にも留めず、再びPCと向き合う。ログアウトする前にギルメンに挨拶しようと思ったのだ。アスタリアの現地に到着するまでは、おそらく数日間かかるであろう。その間は、ネットゲームにまともにアクセスできなくなる。思えばネットゲームにアクセスしない日など、天馬にとって一日もなかった。

――tenma:

じゃあな、お前ら。俺は多忙を極めているのだ。

――半蔵:

引きこもりが何で多忙なんだよwwwwwwボス戦いこうぜwww

――tenma:

数日は入れない可能性がある。俺がいなくともしっかりやれ。

――リヴ:

絶対明日もログインしてくるよねwww1億ペソ賭けてもいいよwww

 天馬はリヴに、ペソの単位がどれくらいの価値があるかどうか教えて聞かそうか迷った末に、ラチがあかないと判断してとっととログアウトすることにした。オフ会に出席したことでネカマ疑惑を払拭したリヴは、まだ女子大生でなかなかの美人だったらしく、ギルメンのなかで一目置かれていた。

 半蔵はフリーのプログラマーだが、どうやら仕事があまりないらしくネトゲに入り浸りだ。IORIは深夜にDJをしており、その時間帯以外はずっとログイン状態である。Danzはあまり多くを語らないが、怪しげな店の店長をしていて毎日ヒマを持て余しているらしい。今井はアルバイトで食いつないでいるという話だが、昼間でもしょっちゅうログインしているから、あまり働いているとも思えない。

 いずれも長らく付き合ってきた仲間であり、暴言の言い合いも慣れっこだ。

 ちなみに天馬は一度もオフ会などに出席したことがない。そもそも神がオフ会に顔を出すはずもないのだ。

 ログアウトして天馬が椅子に腰を鎮めると、背後からあきれた声が響いてくる。

ネットゲーム……。

こんな状況で、バカなのかな?

反骨心がある副官は嫌いではない。だが質問には答えてもらおう、準備はできたのか?
できたから来たんでしょ!

じゃなかったらアンタなんかの顔を見に来るはずもない。

ほう、ツンデレ属性というわけか。それが貴様の本性だな。
うっさい!

口を開けば本当にイライラさせられる男ね。空軍基地から一気にシベリアまで飛ぶわ。そこからジープで南下。数日で付くけど相当過酷な道のりだから覚悟しておきなさいよ。

問題ない。案内してもらおうか。
アンタみたいなイカれた男と2人で作戦行動するなんて本ッ当に最悪。
英雄とは常人には計り知れないものなのだよ。貴様が理解できないのもやむなしだ。
 エリカは応えもせず、プイと顔をそらして部屋の外に歩き出してしまった。天馬も立ち上がり、無言で後に続いたのだった。

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