放蕩鬼ヂンガイオー

09「サンダー仮面って呼ぶな!」

エピソードの総文字数=1,854文字

 陽の当たらぬビルとビルとの隙間に着地して、慌ててマントとマスクを外す。

 ヂンガイには装備を全てヂグソーにばらけさせて、更に別ヂゲンからメイド服を召還してもらった。

「ふーっ、とりあえず一安心だな」
「そこの二人、こんな路地裏で何してるの。ちょっとお話聞かせてもらっていいかな」
「へ!?」

 咄嗟に手で顔を隠しながら振り返る。
 若手の警察官が手帳をこちらに向けていた。

「なんでこんなところにマッポがいやがんだ!?」
「サンタロー、どんどん悪人みたいになってるのだ」

 まずい。
 本気を出せば強引に突破できないこともないだろうが、おまわりさんの前で宙に浮いたりヂグソー使ったりするのはさすがにしたくない。かといって職質くらって手間をとらされるのもよろしくない。時間が経てば経つほど、この路地裏が野次馬にかぎつけられるリスクが高まってしまう。

「きのうからパフォーマンスじみた妙な事件が起きているんだ。向こうの通りでもすごい騒ぎだし、きみたち、ひょっとして関係者じゃないだろうな」

 警察も事件を調べて動き始めているのだろう。
 うさんくさい事件だけに、情報を集めようとウロチョロお仕事をされていたところにちょうど遭遇してしまったと思われる。

 警官が足を進めてくる。あ、てゆーかやばい。事件がどうとか以前に、こんな怪しい行動を見られて、本名とか学校名とか普通に知られたくない。

 だが、もう逃げられない。
 壁際へ追い詰められ、いよいよとなったそのとき。

「燦太郎から離れやがれい! ライダぁー、キイーック!」

 警官の背後から、急に天甚が飛び出した。
 飛び出して、警官の脇腹にドロップキックを決めた。「オブォッ!?」と叫んで転げまわる警官。

「ふぅー……待たせたな燦太郎。おめいなら人気の無い場所にここを選ぶと思ったんだ。ヤマ張って突っ込んできたかいがあったぜ」
「いやいやいやいや何やってんの! 暴力ふるっちゃ駄目だろ!?」
「ンな悠長なこと言ってる場合か! 早く逃げないと、ここはもう危ねえッ!」
「……どういうこと?」

 案の定、警官はゆらりと立ち上がり、引きつった笑顔で「ご同行、お願いできますかね」と青筋を浮かばせていた。

 燦太郎はいっそ覚悟を決めて潔く両腕を差し出したが、しかし、その手に手錠がかけられることはなかった。

 警官が白目をむいて引っくり返る。その後ろで仁王立ちをし、刺身包丁を握り締めていたのは――雁であった。

「みね打ちだ、安心するがいい」

 雁は構えをとかないまま、静かな瞳でヂンガイを見据えていた。

「……きみ、やっぱり本物だったのか」

 みね打ちの持ち方だった刺身包丁が、手の中で逆さにひっくり返される。

「――――覚悟」
「マジかし!? 嘘でしょおおおおおおおおおおおッッッ!?」

 もはやヂンガイに何の力も残っていない。
 ぴくりとも動かぬヂグソーたちにまみれながら、哀れヂンガイは凶刃に倒れ、見知らぬ異界の地にその身を埋めることとなるのだった。

 はずなのだが。

「ええい! かわいい凛! 離さんか!」
「なに、かってにぼうそうしてるのよ! わたしは! たすけてもらったの! きのうもきょうも、ね! あのひとたちがいなかったら、あぶなかったんだから!」

 雁の丸太みたいな胴に両手で掴みかかり、必死に制しているのは凛であった。

「かわいい娘を傷つけられたことは事実! この怒りの代償として、せめて一太刀!」
「ひとたちでも、おおけがだからぁっ!」
「きえええええええええええいッ!」

 もはや人語を解さぬ様子の雁である。ヂンガイのぼやいていた『まるでヂゲン獣』という表現もあながち見当はずれではなかったかもしれない。

「もう! わからずやのおとうちゃんなんて、きらいよ!」
「ンなにィッ!? おのれサンダー仮面! かわいい娘をたぶらかしたなァッ!」
「俺ェッ!? てゆーかマスク外してるのにサンダー仮面って呼ぶな!」
「ふたりとも、いまのうちににげて! おとうちゃんは、わたしがおさえるから!」

 腕力では歯が立つはずもなかろうが、娘を溺愛している父のことである。強引に引き離すこともできず手を焼いている様子だった。

「ヂンガイ、脱出するぞッ! 俺に続け!」
「厄介ごとは、もうたくさんなのだぁッ!」

 べそをかくヂンガイの手を引き、こっちこそ泣きたい気分だよと嘆きつつ遁走する燦太郎であった。

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