神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の防戦

エピソードの総文字数=2,803文字

 市庁舎の会議室、テーブルを囲んだ面々――天馬、エリカ、長老、イヴァの4名は、地図上に視線を落としながら話し込んでいた。
こちらの兵力は?
350じゃ。それから、ザリスの監視台から呼び戻した10。
360か。それがアスタリアの総兵力という理解でいいのか?
周囲の村々まで根こそぎ召集をかけている。明日までには600人になるじゃろう。それがアスタリアの総兵力じゃ。もちろん老人や子供、戦闘で負傷した男たちにまで参戦者を募れば、もっと数は増えるじゃろうがな。それは非常事態じゃ。
ふむ。
ゲリラにしては多いし、かといって正規軍と正面からやりあうには劣勢……。
じゃがワシらがゲリラと違うのは、我々には守らなくてはならない町や村があるということじゃ。ゲリラのように守備すべき拠点を持たない戦い方が、そもそもできん。
だが守備側は圧倒的に優位な環境にあるはずだ。要塞を攻め落とすなら、攻め手は5倍の兵力が必要なことは戦略の定石。
何が戦略よ。ただの一度も戦闘経験なんかないくせに……。
俺には無数の戦闘経験がある。かつて『プロジェクトX2』という伝説の戦闘ネトゲがあったが、あのゲームは俺の支配下にあった。あまりに俺が無双しすぎたせいで他のプレイヤーが逃げ出し、サービスが終了したのだがな。毎日を戦場に身を置いていたことは間違いない。ただ実践経験がないだけだ。
…………。
要塞などここにはない。せいぜいワシらが持っているのは、最前線のザリスの監視台だけじゃった。あそこは空から爆撃されない限り、10人の守備兵力でも、100人の足止めをすることができる。
だが政府軍は2000なのだろう? 足止めでは意味がない。この山岳地帯と、下方に広がる森林という天然の要害を活かし、政府軍に大きな打撃を与えてやる。二度と侵攻など企てたくなくなるようにな。
山岳でのゲリラ戦ならいつもの作戦じゃが? お主、策があるなどとほざいておっただろう。
まずはこの地図上で、政府軍が進行してくるルートを描き出してくれ。
軍のトラックが進行可能なルートはこの一本道じゃ。しかしザリスの監視台を明け渡した今、補給物資はザリスに集めておけばいい。ここから軍を動かせば、政府軍にとっては複数の侵攻ルートが確保できる。どこかに守備兵を結集するような作戦は取れんよ。考えうる侵攻ルートは――

 話しながら、長老がいくつかのルートを指で指示していく。長老はすべてのルートを、そこを通るメリットデメリットについて解説を加えながら語った。

 長老の説明が一通り終わると、エリカは口にする。

こちらは少ない兵力を分散して守らなくちゃならないわけね。
 それまで、押し黙って会議に参加していたイヴァが、地図を指でなぞりながら、おそるおそるといった風に口をはさんでくる。
……私は、このルートを通ってくると思います……。
なぜじゃ?
政府軍を率いてくるのは隣のアルザリ人出身の軍大佐です。とすれば、この地域の地理にも詳しいということです。政府軍の立場になってみれば、危険な谷を通らなくてはならないここやここから侵攻してくる可能性はないと思います……。
裏をかいてくる可能性はない?
可能性はあると思います……。でも現実的には、ここやここの谷の上に私たちが兵士を配置しておけば、政府軍に打撃を与えることもできるんです。だから、地理に詳しい将ならば、ここしかないと思いました……。
 ここしかないと断言しているわりに自信なさげな声音だったが、天馬にとっては有用な情報だった。そしてイヴァの指摘は、地図上で照らし合わせた限り、天馬には的確なものに思えていた。イヴァは引っ込み思案なだけで、その内奥には十分な知性を持っているに違いない。
よし、俺のなかで配置は決まった。侵攻ルートの可能性さえ割り出せれば問題ない。
 天馬はそう言い切り、指示を飛ばしていく。
まず、イヴァが指摘した2か所の谷の付近に、それぞれ150ずつの兵員を配置しよう。イヴァの読み通り、ここを通らないとしたら無駄な兵になる。あくまで万が一、政府軍がここを通るようなことがあれば、150でも優勢に戦闘を展開することができよう。
は? おかしくない?

イヴァが、可能性が低いと指摘したこの2か所に、半分も戦力を割くの?

もっとも大事なことは、政府軍の進行ルートを一つに見定めることだ。この2か所に150ずつを配備すれば、政府軍がここを抜けようとするのをシャットダウンできる。だからこちらは、イヴァが示したルートに布石のすべてを注ぎ込むことができるということなのだ。
侵攻ルートを限定させるのが大事なのはわかるけど……肝心の守備兵が……。
 エリカはそこで言葉を止めた。ひとまず天馬の戦術を確認しようと考えてのことだろう。
本命のルートを検討すれば――
 天馬は地図上をなぞっていく。
政府軍はこうして侵攻してくる。この街の付近、森が切れるギリギリのところにまで政府軍をおびき寄せよう。
森が切れるギリギリって、この街の目先なんだけど……。
それでいい。そこからが勝負だ。
街を残り300で守ろうと言うのか?
いや、森を抜けてすぐの山岳に100の兵を配置する。そして、手持ちの兵員のなかで優秀な200を選び出し……このルートを通って、俺たちが明け渡したザリス砦に侵攻するのだ。
バカな作戦だ! 政府軍2000を、わずか100で受け止めることなんて無理じゃぞ!?
100は足止め用の配置にすぎない。フフフ、政府軍2000を受け止めるのは、この俺の役目だ。
 ひとしきり笑った天馬は、素早く命令を下す。
スマホを500台、調達しろ。無理なら300でもいい。
スマホ……? 今日中にか?
今すぐだ。
どこにそんなものがあるという!?
それを聞いているのは俺だ。住人は一人一台持っているだろう。ここに来るまでに、スマホを手にしている者は何人か見ている。急げ。事は一刻を争うのだぞ。
 天馬が促すと、伏し目がちのイヴァがおずおずと口にする。
……街で唯一の家電商のところに、100台くらいは在庫があるかもしれません。でも中古でいいのなら、街の人から供出してもらえばいいと思います……。私も2台持っていますので、お渡しいたします……。
よし。街からかき集めろ。あればあるほどいいぞ。
なんのつもりじゃ!? 簡単に貴重な私物を提供してくれるなどと――
お爺ちゃん、私がお願いして回ります……。きっとわかってくれると思います……。
案ずるな、スマホは借りるだけだ。壊れるものもあるに違いないが、大半はそのまま返せるだろう。そして大量のロープや紐、それからモーターでもなんでもいい、引っ張る力のあるものを用意しろ。街のエンジニアも全員、俺の下に呼び寄せてもらう。
 これだけの車やバイクがあるのだから、修理工はそれなりにいるはずだ。いや、修理工にこだわる必要もないかもしれない。天馬の指導通りに組み上げれば、立派な新兵器の完成である。

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