放蕩鬼ヂンガイオー

12「なにあれ! 攻撃が通じないのだ!」

エピソードの総文字数=2,303文字

『フオーウ! やーっと着いたイエ!』

 空から重たい男声が響いた。
 冷風に目を細めながら見上げる――ヂゲン獣だ。

 全身を白い体毛で覆われた獣人が、恰幅の良い体を白衣で包んでいる。

『我が名はドクターイエティ! 先行したシャドーマンの姿が見えんが……まあ構わんイエ。人間どもなぞ我輩一人で蹴散らしてくれようぞ』

 空に浮かんでいたイエティが、そのまま重力に引かれるようにして落下してきた。
 振動と衝撃。道路に直撃し、アスファルトに大穴が開いた。

 一番近い位置にいた雁が身構える。

「また出たな、化け物」

 さすがに包丁は不携帯らしく、格闘技らしきポーズをとっているが……ヂゲン獣には通用しないだろう。

 燦太郎が間に割り込もうと思ったそのとき、雁の懐から携帯電話の着信音が響いた。
 雁は気を許さぬまま片手で操作、通話を開始する。

「違う。またサボったのは謝るが、今はそれどころじゃない。少し遅れると伝えてくれ」

 店からの連絡だろう。
 相手方がなかなか納得してくれないらしく、雁は一喝した。

「聞け。いつも言ってるだろ――『働いたら負け』だって」

 ドクターイエティの目が怪しく輝いた。
 両腕を振り上げて、叫ぶ。

『さあ、貴様らの持つ負の心を我に与えたまえ! ダークブキナイズ!』
「ぐおおおおおおおおおおっっっ!?」

 雁がビクッと痙攣し、全身からどす黒いオーラを立ちのぼらせた。

 オーラはゆらゆらとうごめき、イエティの全身へと集まってゆく。
 オーラが晴れたとき、イエティは全身を布団でくるみ、隙間から顔だけ出した怠惰な様相に生まれ変わっていた。

『ダークブキナイズ完了。さあ放蕩鬼、どこに隠れているのか知らんが、人間というのは仕事をしたくないのが普通なのだイエ。こいつらに何の義理もあるまいて、放ったらかして自宅で引きこもっているのがいちばんだイエよ?』

 雁はひざまずき、全身を震わせながら白い息を吐いている。「寿司は、もう見たくない……明日から、頑張る……」

 燦太郎はヂンガイの肩を叩いた。

「雁さんを助けないと! ヂンガイ、いくぞ!」
「う、うんっ!」

 昨日の勉強の成果を見せるときだ。
 ヂンガイは腕を振り上げ凛々しくポージングを決めた。

「ヂンガイオー、チェインジなのだ!」

 エプロンが光に包まれて消え去り、いつもの戦闘スーツ姿になる。

 店の裏手からヂグソーが集まり、ヂンガイの周囲を取り巻いた。うち十数個は、わき道を逸れて燦太郎の元へと集まりマスクとマントに変化した。

『な、何やつだイエ! きさまらが放蕩鬼か!』

 誰何の声に呼応し、ヂンガイが空に踊った。
 真昼の逆光にシルエットを翻してヂンガイ渾身の決めポーズ。今度こそパクリではなく燦太郎監修の新作である。

「――凍てつくヂゲンに金棒一閃、燃やせ心のLAE! アキバを照らす一番の星、放蕩鬼ヂンガイオーッ、時空を越えて大参上! なのだ!」
「ガーガー……説明しよう! ヂンガイオーはみんなのアツい魂を力に変えて戦っているのだ! 奮って応援してくれよな!」

 まだまだ観戦者の数は少ないが、ある程度の声援は上がった。

 ヂンガイの纏うヂグソーがさっそく蒼味を帯びていく。夜なべで考えた対策の効果が出ているのだろうか。
 騒ぎを聞きつけて野次馬が更に集まってきている。この調子なら更なるLAE回収も期待できるかもしれない。

『ノコノコ出てくるとはお仕事熱心なことだイエ! まずは貴様から始末してくれる!』

 イエティがもぞもぞとやる気なさげに動く。
 布団の隙間からなんと日本刀が飛び出し、宙を飛んで襲い掛かってきた。

『働きたくないでござるウウウーッッッ!』
「ヂンガイ! 実弾の遠距離攻撃は、なるべく避けるんじゃなくて斬り払うんだ!」
「り、了解なのだ! ギグエッジ……じゃなくて、ガイオソードッッッ!」

 蒼いヂグソーが金棒に集結し、一本の大太刀の姿に変わる。

「てえいッッッ!」

 一閃。迫り来る無数の刀が全て打ち払われ、ばらばらと地面に落ちていった。ヂンガイすごい。頭は残念だが実力は本物のようだ。

 ドクターイエティが驚愕に顔をゆがめた。

『ぐむううう! ならばこれでどうだイエ! もーっと、働きたくないでござるウーッッッ!』

 イエティの全身から日本刀が生え、剣山のような姿になった。膨大な数の日本刀が、飛ぶ。

「ヂンガイっ、いけるかッ!」
「これくらい、余裕だしッッッ!」

 ヂンガイが巨大な大太刀を軽々と振り回す。
 迫り来る刀を、弾く、捌く、切り落とす。
 
 ヂンガイは、それこそ鬼神の働きで全ての刀をなぎ払った。その間にもLAEはどんどん集まり、大太刀は深海を切り取ったような深い蒼へと変色していく。

『ば、馬鹿なあああああああああッッッ!』

 イエティがうろたえている。そりゃそうだろう、落ちこぼれと侮っていたヂンガイがこれだけの働きを見せたのだ。

「今だヂンガイ! そのまま押し切れッ!」
「当然ッ!」

 間隙を縫ってヂンガイは飛ぶ。一息に間合いを詰め、LAEの乗った大太刀でイエティを斬りつける。刀身が布団に食い込む。が。

『フオーウ! 効かァァァァんイエ!』
「ふわあァッ!?」

 布団は大きくたわみ、バウンドするように大太刀を弾き返した。
 ヂンガイが吹き飛ばされて宙を舞う。

 燦太郎は慌てて飛び出し、地面すれすれでヂンガイをキャッチした。

「な、なにあれ! 攻撃が通じないのだ!」

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