勇者の武器屋

第一七話 課題山積、仕事山積

エピソードの総文字数=3,503文字

さっそくだが、決まってきたプロジェクトについて優先順位を付け、それぞれ担当分けをして責任を持って取り組んでいこうじゃないか。こういうものは取り組むモチベーションがとても大事だから、それぞれの希望を聞いておきたい。自分はこれが得意だってプロジェクトはありそうか?

①既存事業の強化
・営業戦略、宣伝戦略の見直し
・接客対応の一新(「売ってやる」から「おもてなし」へ)
・大量仕入による仕入れ価格の圧縮
・武具を製造する各工房との関係強化
・各工房が投げ売りする商品を抱えるための倉庫の増強
・王国政府への武器納入指定業者になること(御用商人)

②新規事業への挑戦
・独自商品の製造
・成人式などの季節イベントに合わせた武具販売キャンペーン
・実用性よりも価値のほうを優先した高級ブランドの創設
・国際貿易によるまったく新しい武具の調達
・武器防具の扱い方講座を開催し、潜在顧客を獲得(学校)

うーん……色々あって迷ってしまいますね……。

そういう戦士は、自分ならどれに名乗りを上げるんだ?

俺か? そうだな……俺は、『接客対応の一新』に取り組んでみることにしよう。『武器屋おもてなしマニュアル』を作成して、客に喜んでもらえるような接客を……いや、お客様と呼ばなくちゃな。

おもてなしマニュアル……。戦士のアンタが、おもてなし……。

だからうちの実家は宿屋で、おもてなしはそれなりに得意なんだよ。接客対応は店の評価に直結するし、急務だから俺がやっちまおうと思ってな。

僧侶は何が希望なんだ?

なら、私は高級ブランドの創設を考えてみようじゃない? 高級ブランドって、やっぱエレガントな美女が考えたほうが映えると思うのよね。のちの歴史にも残るわけ、私の美しき肖像画とともに。いいわよね、そういう仕事。

急務じゃないし、まずは目先の資金繰りにプラスになることから取り組んでもらいたいところだが……。できれば手っ取り早く金を稼げるところからはじめてもらえないか。

なに言ってんの。目先のことも大事だけど、長期遠大な目標だって追求しなくちゃならないでしょ? なんせ世界最大級の銀行を敵に回してるわけだから、いつまでもチマチマとしたことやってるわけにはいかないじゃないの。

歴史に残るとか、個人の話に置き換わってたような気がするがな……。まぁいいんじゃないのか。戦士だってモチベーションが大事だって言ってたわけだし、そこまでやりたいのならさ。

成果さえ出してくれるならいいんだが……。なんせ剛胆すぎる僧侶だから、本当に繊細な仕事ができるものかどうか……。

任せなさい。これは私にしかできない仕事よ。

ところで魔法使いと、肝心の勇者はどの仕事を選ぶわけ? 私に変わって目先の資金をコツコツ稼ぎなさいよね。

戦士さん、どの仕事が最優先だと思いますか?

私には判断つきませんので、戦士さんから割り当てられた仕事を一生懸命取り組もうと思うんです。

もう本当に手堅く確実に事業基盤を安定させるなら、御用商人になっちまうことだろうな。もしそれが叶うなら、追い詰められている俺たちとはいえど、なんとか一息付ける余裕ができてくれるはずだ。

それは確かに……。庶民に武具を売りつけるのはメチャメチャ大変だが、王国政府がまとめて買ってくれるっていうのなら……。

基本的なことを教えてください……。御用商人って何ですか……?

アンタね……。そんなこともわからないの?

俺が書いた一覧表にも、武器納入業者って書いてあるだろ。要するに、王国政府に武器を定期的に卸していくための指定業者になろうってことだ。

指定業者? 普通に販売するのとは違うんですか?

勇者は本ッ当に世間知らずのトンチンカンね。そんなんだから戦士に脳筋呼ばわりされるんでしょ。アンタの魔法力もなかなかのもののはずだけど、それどこで学んだわけ? どうして頭のほうが付いてこないのよ。

ゴ、ゴメンなさい……。

幼いころから冒険者の父と一緒に各地を回っていたので、ぜんぶ父から、実戦で教えられてきました……。だからあんまり街でのこととか、普通の生活のこととか知らなくて……。

あまり勇者を虐めてやるなよ。

王国政府は、指定業者からしか武器や防具を仕入れない。だから城の兵士たちが装備している武具は、いつも同じ業者から購入したものなんだよ。

どうしてそんな指定があるんでしょう?

詳しい理由はわからないが、昔からそうなっている。たぶん制度を作った当初は、武器の品質の安定化とか、戦争時の供給ルートの確保とか、いろんな理由があったんだろう。

いったん指定業者になれれば、長期的に商品の大口販売ができるようになるわけさ。庶民が爪に火をともすような節約をしながら武具を買うのと違って、王国政府は集めた税金から次々と購入してくれるわけだから、最高の上客になるってわけだな。

そうだ。とにかく今は、安定収入源を確保するのが第一だろう。市民たちへの販売力を強化していったり、新規事業を起ち上げたりするのは当然なんだが、努力が必ず報われるわけでもないのが世の常だ。だが王国政府に入り込めさえすれば、膨大な金利支払い程度なら安定して稼ぎ出すことができる。

安定収益源の確保はとてつもなく大事よね。そういう意味じゃ、たしかに王国政府に入り込むのが一番か……。

あれ……? 私たちなら、指定業者になるのは簡単なんじゃないですか? 王さまや宰相さんとはとっても親しくさせてもらっているわけですし、王国の平和のために戦ってきたわけでもあるので、私たちを指定業者にしない理由がないように思うんです。

そいつはどうだろうなぁ? 話せばすぐ通してもらえると思いたいが……何だかんだいって、アタシらって王国政府に都合のいいように利用されてきたわけじゃん? それなりの金銭支援はあったけど、命懸けで魔王軍との最前線で戦ってきたことを考えれば、ちっとも割に合ってなかったはずだ。

たしかに割には合ってなかったな。結局、俺たちはこうして魔王に追い詰められていて、悲劇的な状況に陥っているわけだ。

こんなときこそ王国は私たちを支援するべきよ。じゃなかったら私が王国に戦争を吹っかけて、ぶっ潰してやるわ。こっちを利用するだけして、使えなくなれば放り出すなんて許さないからね。

待て待て。そういう勝ち気な姿勢で臨むのはよくない。あくまでお願いする立場で取り入って、なんとしてでも指定業者にしてもらわねば……。

よっしゃ。

勇者と私で御用商人になれるよう営業活動してみよう。目先で最も重要な仕事になりそうだから、これは2人で担当してもいいだろ。それに勇者一人じゃ、まともに営業できるのか不安だしな。

たしかに勇者一人だと不安だが、世慣れしている魔法使いも担当してくれるのならありがたいな。できるだけ早く、なんとしても納入業者指定を勝ち取ってきてくれ。岩にかじりついてもだ。

ヴァレンシア国王は政治には疎くて、大臣たちに決裁を任せきりなことで有名だ。だから要するに、宰相を落とせばいいわけだよ。色仕掛けでも何でもやって、なんとか王国の御用商人に食い込むぞ。

色仕掛け……つまり可愛さ勝負ってわけね。

フフフ、いよいよ私の出番というわけか。仕方ないな、そこまで頼まれたらもうやるしか……。

だから、あたしと勇者の2人で取り組むのが一番いいんだ。できるだけ頑張ってみるさ。

何なら私だってバニースーツくらい着ても……って、私が入ってない!? ……呪ってやる……。

了解。中年の権力者に取り入るなら、俺みたいな男が営業をかけるよりも、勇者や魔法使いみたいな若い女子のほうがいいからな。本当に頼む。

わかりました!

きっと王さまや宰相さんは、私たちが困っているときに手を差しのべてくれるはずです。頑張ってきますね。

何はともあれ、やってみるか。まさかこのパーティーに加わって、営業をすることになるとは思わなかったがなー。

これで役割分担は決まったな。

俺たちの手持ち資金は、もともと残っていた2万Gに、魔境銀行からの借入金1000万G。そして借金額は、魔境銀行への返済金5000万Gと、もともと『ドリームアームズ』が抱えていた残債206万G――

保有資金額 1002万G
借金額 5206万G

……とてつもない状況ね。

この惨状が自分たちのことだなんて信じられない。

数字だけ並べられると、もう死ぬしかって思うよな。

私のせいなんです……。いつもいつも、みなさんに迷惑ばかり……。

とにもかくにも、課題山積、仕事山積だ。任された役割をとっととこなして、次の仕事に取りかかるつもりでやってくれ。

わかりました、命懸けで頑張ります!

よっしゃ。やるしかないだろ。

がんばりなさいよ、アンタたち。

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